月探査の成否を握るのは、地球と月面の間を繋ぐ安定した通信インフラです。中国の深宇宙探査を支える鵲橋2号(Queqiao-2)は、高度な通信能力を備えた中継衛星であり、月面ロボットからのデータを地球へ届ける重要な役割を担っています。本記事では、この衛星のハードウェア設計から、複雑な通信システムまでを詳しく解説します。

主要スペックと機体設計

鵲橋2号は、中国空間技術研究院(CAST)の子会社であるDFH Satellite社の「CAST 2000」バスをベースに構築されています。機体重量は約1,200kgに達し、そのうち約488kgが推進剤(ヒドラジンおよび酸化剤)で占められています。燃料タンクの総容量は606リットルです。

機体の姿勢制御と軌道修正には、合計20基のエンジンが搭載されています。具体的には、軌道修正用の20N推力エンジン8基、姿勢制御用の5N推力エンジン8基、そして1N推力エンジン4基が組み合わされており、これにより0.03度という極めて高い精度での方向合わせが可能です。これは標準的な衛星バスの3倍の精度に相当します。

電力供給は、2枚の回転式ソーラーパネル翼(各翼に2つのアレイを搭載)によって行われ、合計1,350Wの電力を生成します。動作電圧は30.5Vで、日照のないエクリプス(食)期間中などは、135Ahの蓄電容量を持つアキュムレータが電力を供給します。設計上の想定運用寿命は8年から10年とされています。

Queqiao-2 mockup model

高度な通信システムとアンテナ構成

鵲橋2号の最大の特徴は、深宇宙探査衛星として最大級となる直径4.2メートルの展開式パラボラアンテナです。このアンテナは、打ち上げ時のフェアリング(ロケットの先端保護カバー)に収まるよう折り畳まれた状態で搭載され、月への遷移軌道に入った後に展開されます。

通信には用途に応じて複数の周波数帯(バンド)が使い分けられています。

月面との通信(Xバンド)

月面とのやり取りにはXバンドが使用されます。4.2メートルの高利得アンテナにより、月への送信10チャンネル、月からの受信10チャンネルを同時に運用でき、デシメートル波での通信も可能です。データ転送速度は、無指向性アンテナ使用時に50kbit/s、パラボラアンテナ使用時には最大5Mbit/sに達します。

地球へのデータ転送(Kaバンド)

月面探査機や衛星自身から地球の地上局へデータを送る際は、Kaバンドが活用されます。直径0.6メートルの小型パラボラアンテナをジンバル機構付きの展開アームに搭載し、メインアンテナに干渉しない位置に配置しています。55W出力の進行波管増幅器と低密度パリティ検査(LDPC)符号による暗号化、四位相偏移変調(QPSK)を用いることで、平均100Mbit/sという高速転送を実現しています。

Orbital regime of Queqiao-2 satellite

運用管理と位置特定(Sバンド)

衛星のテレメトリ(遠隔測定)やコマンド制御には主にSバンドが用いられます。地球からの指令速度は2,000bit/s、衛星から地球へのテレメトリ速度は4,096bit/sであり、これは初代の鵲橋衛星の2倍の速度です。位置特定には、ドップラーシフトを利用した統合Sバンド技術(USB)と、中国のVLBI(超長基線電波干渉法)ネットワークによる角度測定を組み合わせて行っています。

冗長性と信頼性の確保

過酷な宇宙環境での運用を想定し、システムには相互にバックアップし合う冗長性が組み込まれています。例えば、Sバンドシステムに不具合が生じた場合はKaバンドで制御信号を送信でき、逆に雨天などでKaバンドの信号が減衰した場合は、Sバンドを介して最大6Mbit/sでペイロードデータを転送することが可能です。

また、通信相手との信号到達時間を精密に測定することで、衛星の軌道位置や月面上の正確な位置を特定する仕組みも導入されています。

主要諸元まとめ

鵲橋2号(Queqiao-2)仕様一覧
項目 詳細仕様
ベースバス CAST 2000 (DFH Satellite)
離陸重量 約1,200 kg
姿勢制御精度 0.03°
最大電力出力 1,350 W
メインアンテナ径 4.2 m (Xバンド)
地球間転送速度 平均 100 Mbit/s (Kaバンド)
想定運用寿命 8 〜 10 年

Key Facts

  • 最大級のアンテナ: 直径4.2mの展開式パラボラアンテナを搭載し、深宇宙通信を最適化。
  • マルチバンド運用: Xバンド(月面間)、Kaバンド(地球への高速転送)、Sバンド(制御・管理)を使い分け。
  • 高精度な制御: 20基のエンジンを使い分け、0.03度という極めて高い姿勢制御精度を実現。
  • 強力な冗長性: 通信帯域の相互バックアップ機能を備え、気象条件や故障による通信断絶を防止。

Frequently Asked Questions

鵲橋2号の主な目的は何ですか?

月面探査機と地球の間の通信を中継し、大容量のデータを高速に転送すること、および電波天文観測を行うことです。

なぜ複数の周波数帯(バンド)を使用しているのですか?

用途に応じて最適な特性が異なるためです。制御用のSバンド、月面との通信用のXバンド、そして地球への大容量データ送信に適した高速なKaバンドを使い分けています。

アンテナはどのようにして打ち上げられるのですか?

4.2メートルの大型アンテナは、ロケットのペイロードフェアリングに収まるように折り畳まれた状態で搭載され、宇宙空間に出た後に展開されます。

通信速度はどのくらいですか?

地球へのデータ転送(Kaバンド)では平均100Mbit/s、月面との通信(Xバンド)ではパラボラアンテナ使用時に最大5Mbit/sの速度を実現しています。

悪天候で通信に影響は出ませんか?

Kaバンドは雨などの水滴によって信号が減衰しやすい特性がありますが、その場合はバックアップとしてSバンド(最大6Mbit/s)を使用してデータを転送する冗長設計がなされています。