パピルス115(P. Oxy. 4499):ヨハネの黙示録の謎を解く古代写本
新約聖書の成立過程を研究する上で、古代の写本は極めて重要な証拠となります。その中でもパピルス115(別名:P. Oxy. 4499)は、ヨハネの黙示録のテキスト伝承を理解するための貴重な鍵を握る断片的な写本です。エジプトのオキシリンコスで発見されたこの写本は、現代の聖書テキストがどのように形成されたかを示す重要な資料となっています。
Key Facts
- 名称:パピルス115(P. Oxy. 4499)
- 成立年代:紀元後225年〜275年頃(3世紀)
- 内容:ヨハネの黙示録の断片(2章〜15章の一部)
- 特徴:「獣の数」を616と記載している点
- テキスト型:アレクサンドリア型(Codex Alexandrinus等と密接に一致)
- 保管場所:アシュモレアン博物館
写本の概要と物理的特徴
パピルス115は、現代の書籍の原型であるコーデックス(冊子体)形式で作成されていました。現在は26の断片として残されており、元のサイズは幅15.5cm、高さ22cm程度で、1ページあたり33〜36行のテキストが記されていました。
特筆すべきは、書き込みの幅が綴じ側で狭くなっている点です。このことから、筆写者が文字を書き込む前に、あらかじめページが綴じられていた可能性が高いと考えられています。この写本は、古書体学(palaeography:文字の形状やスタイルから年代を特定する学問)に基づき、3世紀半ばから後半にかけて作成されたと推定されています。
テキストの質と学術的価値
この写本は、新約聖書の写本分類において「アレクサンドリア型」に属するとされており、特にコーデックス・アレクサンドリヌス(A)やコーデックス・エフラエミ・レスクリプタス(C)と強い親和性を持っています。研究者のデビッド・C・パーカーによれば、この写本は黙示録のテキスト発展における決定的な時期を照らす重要な貢献をしています。
また、写本内にはいくつかの修正跡が見られ、筆写者が複数の原本を参照していた可能性が示唆されています。165箇所の異読(他の写本と異なる読み方)のうち、独自の読み方はわずか4箇所に過ぎず、その多くは誤記であると判断されています。しかし、この写本の存在自体が、初期のパピルス写本が現代の印刷された聖書テキストに実質的な影響を与えていないという説を否定する強力な証拠となっています。
「獣の数」を巡る論争:666か616か
パピルス115の最も注目すべき点は、ヨハネの黙示録13章18節に登場する「獣の数」の表記です。多くの写本では「666」とされていますが、本写本では「616」(ギリシャ数字のΧΙϚ)と記されています。

ただし、INTF(新約聖書写本研究所)の転写によれば、空白部分の検討から「666または616」という選択的な表記であった可能性も推測されており、確定的な一つの数字を提示していたかどうかについては議論が続いています。
写本の詳細データまとめ
| 項目 | 詳細内容 |
|---|---|
| 発見地 | エジプト、オキシリンコス |
| 発見者 | バーナード・パイン・グレンフェル、アーサー・ハント |
| 言語 | ギリシャ語 |
| 構成 | 26の断片(コーデックス形式) |
| 主要な内容 | 黙示録 2-3, 5-6, 8-15章の断片 |
| 特筆事項 | ノミナ・サクラ(聖なる略語)の使用、ギリシャ数字表記 |
Frequently Asked Questions
パピルス115はいつ、どこで発見されましたか?
エジプトのオキシリンコスにて、バーナード・パイン・グレンフェルとアーサー・ハントによって発見されました。その後、2011年に解読・公開されました。
「獣の数」が616であることは何を意味しますか?
大多数の写本が「666」としているのに対し、本写本やコーデックス・エフラエミ・レスクリプタスなどの一部の証拠が「616」としていることは、初期のテキスト伝承にバリエーションがあったことを示しています。
ノミナ・サクラとは何ですか?
キリスト教において神聖視される名前や称号(神、主、聖霊など)を短縮して表記する習慣のことです。パピルス115でも「神(ΘΩ/ΘΝ/ΘΥ)」や「主(ΚΥ)」などの略記が確認されています。
この写本は聖書の信頼性に影響を与えますか?
はい。アレクサンドリア型という高品質なテキスト系統を裏付けるものであり、初期の写本が現代の聖書テキストの校訂に重要な役割を果たしていることを証明しています。
現在、この写本はどこで見ることができますか?
イギリスのオックスフォードにあるアシュモレアン博物館に保管されています。