パピルス98(𝔓98):ヨハネの黙示録を伝える初期ギリシャ語写本
新約聖書の成立過程を解明する上で、初期のパピルス写本は極めて重要な証拠となります。その中でもパピルス98(𝔓98)は、ヨハネの黙示録の一部を伝える貴重なギリシャ語写本です。エジプトで作成されたと考えられているこの断片は、当時の信仰の広がりとテキストの伝承形態を今に伝えています。
Key Facts
- 名称:パピルス98(Gregory-Aland番号)、またはP. IFAO inv. 237b [+a]
- 内容:ヨハネの黙示録 1章13節から2章1節まで
- 推定年代:紀元150年〜175年頃(古書体学的分析による)
- 言語・書体:ギリシャ語(大きく整った書体)
- 保存場所:フランス東洋考古学研究所(カイロ)
- テキスト型:アレクサンドリア型(Alexandrian Text-Type)
写本の物理的特徴と構造
この写本は、もともと巻物(スクロール)の形式で作成されていました。サイズは約15cm × 16cmで、現在は断片的な状態で保存されています。特筆すべきは、このパピルスが「再利用」されていた点です。
パピルスの表面(レクト)には、1世紀末から2世紀初頭にかけて書かれた別の文書テキストが記されています。一方で、裏面(ヴェルソ)に2世紀後半に聖書のテキストが書き込まれました。このように、高価なパピルスを再利用して別の文書を記す手法は、当時の写本によく見られる特徴です。
テキストの内容と学術的価値
パピルス98に記されているのは、ヨハネの黙示録の冒頭部分であり、キリストの荘厳な姿の描写からエフェソスの教会への手紙の始まりまでが含まれています。テキストの質は高く、文字は大きく明快に書かれています。
特筆すべき異読と誤記
テキスト批評の観点から、この写本にはいくつかの興味深い点があります。まず、1行目に「dittography(重複書き)」という書き損じが見られ、本来の単語よりも文字が多く書き込まれています。
また、黙示録1章18節において、他の多くのギリシャ語写本に含まれている「και ο ζων(そして生きている者)」というフレーズが欠落しています。この欠落はラテン語のコデックス・ギガスや一部のウルガタ写本にも見られますが、ギリシャ語写本の中ではパピルス98のみに確認される非常に稀な特徴です。
発見と保存の経緯
この写本が世に出たのは1971年のことでした。当初、ワグナー(Wagner)によって公開されましたが、その時点ではこれが聖書のテキストであることは認識されていませんでした。その後、ハーゲドーン(Hagedorn)による研究によって、ヨハネの黙示録1章13節から2章1節であるという正体が判明しました。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 識別符号 | 𝔓98 / P. IFAO inv. 237b [+a] |
| 収録範囲 | 黙示録 1:13–2:1 |
| 推定年代 | 150–175年頃 |
| テキスト系統 | アレクサンドリア型 |
| 物理的形態 | 巻物の裏面(ヴェルソ)に記載 |
| 現在の所蔵先 | フランス東洋考古学研究所(カイロ) |
Frequently Asked Questions
パピルス98はいつ頃に書かれたものですか?
古書体学的な分析に基づき、おおよそ紀元150年から175年の間に作成されたと考えられています。一部の説では150年から250年頃という幅を持たせていますが、一般的に非常に初期の写本に分類されます。
この写本の最大の特徴は何ですか?
最も顕著な点は、黙示録1章18節において「και ο ζων」というフレーズが欠落していることです。これはギリシャ語写本の中では唯一の例であり、テキストの伝承ルートを研究する上で重要な手がかりとなります。
「アレクサンドリア型」とはどういう意味ですか?
新約聖書の写本におけるテキストの系統の一つです。一般的に、後世の修正が少なく、より原典に近い簡潔で正確なテキストを保持している傾向があるグループとされています。
なぜこの写本は「裏面」に書かれているのですか?
当時のパピルスは貴重であったため、古い文書が書かれたパピルスの空白部分や裏面を再利用することがありました。パピルス98の場合、表面には1世紀末から2世紀初頭の文書があり、その裏面に後から聖書テキストが書き込まれました。
現在はどこで見ることができますか?
エジプトのカイロにあるフランス東洋考古学研究所(Institut Français d'Archéologie Orientale)に保管されており、管理番号 P. IFAO inv. 237b [+a] として登録されています。