地球に降り注ぐ隕石の中には、遥か彼方の火星から飛来した希少な石が存在します。これらの隕石は、火星の地殻組成や火山活動、そしてかつての水環境を直接的に分析できる貴重なサンプルです。多くの火星隕石は、その化学組成からSNCグループ(シャーゴッタイト、ナクライト、シャシナイトの頭文字)と呼ばれるカテゴリーに分類されており、地球上の岩石とは異なる独自の同位体比を持っていることが科学的に証明されています。
Key Facts
- 火星隕石の大部分は、火成岩の一種であるアコンドライト(石質隕石)に分類される。
- 主要な3グループ(SNC)のうち、シャーゴッタイトが全体の約4分の3を占める。
- 一部の隕石には、かつて火星に液体の水が存在したことを示す証拠が含まれている。
- ALH 84001などの特殊な隕石は、火星の極めて初期の歴史(約41億年前)を物語っている。
火星隕石の主要な分類:SNCグループ
火星隕石の分類は、主に最初に発見された代表的な隕石の地名に由来しています。2018年時点のデータでは、全207個の火星隕石のうち192個が以下の3つの主要グループ、またはその他の特殊なカテゴリーに分けられています。

シャーゴッタイト (Shergottites)
1865年にインドのシャーガティに落下した隕石にちなんで名付けられた、火星隕石の中で最も一般的なグループです。これらは苦鉄質から超苦鉄質の火成岩であり、結晶の大きさや鉱物組成によって「玄武岩質」「オリビン晶(かんらん石晶)」「レルゾライト質」の3つに大別されます。また、希土類元素の含有量に基づいた別の分類法も存在しますが、この2つの分類基準が一致しないことは、火星のマグマ形成プロセスが非常に複雑であったことを示唆しています。
特筆すべきは、これらの結晶化年代が約1億8000万年前という、火星の表面年齢に比して非常に若い点です。この矛盾は「シャーゴッタイト年代パラドックス」と呼ばれ、現在も研究者の間で議論が続いています。また、これらの隕石が放出された起源となるクレーターとして、モハベ、トゥーティング、あるいは09-000015などが候補に挙げられています。
![NWA 6963,[14] a shergottite found in Morocco, September 2011.](/images/b0/52/b052f4118bc4d74e77e580c7920147fb8ed5f2ca2e5b78111298024b3f875957.jpg)
ナクライト (Nakhlites)
1911年にエジプトのアレクサンドリア近郊、エル・ナクラに落下した隕石がその名の由来です。主成分に輝石(オージャイト)とかんらん石を含む火成岩で、約14億1600万年前から13億2200万年前までの約9000万年間にわたる、少なくとも4回の火山噴火によって形成されたと考えられています。その組成から、タルシスやエリシウム、あるいはシルティス・メジャー平原といった火星の巨大火山地帯で誕生したと推測されています。
分析の結果、ナクライトは約6億2000万年前に液体の水に浸されていたことが判明しており、火星の環境変化を物語る重要な証拠となっています。その後、約1075万年前に小惑星の衝突によって火星から弾き出され、ここ1万年以内に地球へ到達しました。

シャシナイト (Chassignites)
1815年にフランスのシャシニーに落下した隕石を代表とする、非常に希少なグループです。これまでに確認されているのは、代表的なシャシニー隕石と、2000年にモロッコまたは西サハラで発見されたNWA 2737(通称「ディデロ」)のわずか数例のみです。酸素同位体比や微量元素の分析により、これらが明確に火星由来であり、互いに強い親和性を持っていることが証明されています。
特殊な組成を持つ非グループ隕石
SNCの主要グループに属さない隕石の中には、火星の地質学的な多様性を示す特異なサンプルが含まれています。
ALH 84001:生命論争を巻き起こした岩石
アランヒルズ84001(ALH 84001)は、主成分が斜方輝石である斜方輝石岩(オルトパイロキセナイト)という珍しい岩石タイプです。この隕石は、電子顕微鏡で細菌のような微化石構造が発見されたことで世界的な注目を集めましたが、2005年時点の科学的合意では、これらは火星の生命ではなく地球上のバイオフィルムによる汚染であると結論付けられています。年代は約41億年前と極めて古く、火星の初期地殻を代表するサンプルです。

その他の特異な隕石
- NWA 7034(ブラック・ビューティー):2011年にサハラ砂漠で発見。他の火星隕石の約10倍の水含有量を持ち、約44.2億年前の成分を含んでいます。
- 随州隕石:1986年に中国に落下。地球上には存在しないマグネシウムケイ酸塩鉱物「エルゴレサイト」が含まれていることが確認されました。
- カイドゥン隕石:イエメンに落下した炭素質コンドライト。火星の衛星フォボス由来である可能性が指摘されており、厳密には火星隕石ではありませんが、火星表面の破片を含んでいる可能性があります。
火星隕石の分類まとめ
| グループ名 | 主な岩石タイプ | 特徴・形成年代 | 代表的な隕石 |
|---|---|---|---|
| シャーゴッタイト | 玄武岩質・苦鉄質火成岩 | 比較的若く(約1.8億年前〜)、最も数が多い | Shergotty, Tissint |
| ナクライト | 輝石に富む火成岩 | 約13〜14億年前、水との相互作用あり | Nakhla |
| シャシナイト | かんらん石に富む火成岩 | 極めて希少なグループ | Chassigny, NWA 2737 |
| その他(OPX等) | 斜方輝石岩など | 極めて古く(約41億年前〜)、特殊な組成 | ALH 84001, NWA 7034 |
Frequently Asked Questions
火星隕石であることはどうやって証明するのですか?
主に酸素同位体比などの同位体分析を用いて判定します。火星隕石はグループ間で一貫した同位体比を持っており、それが地球上の岩石の比率とは明確に異なるため、火星由来であると特定できます。
「シャーゴッタイト年代パラドックス」とは何ですか?
シャーゴッタイトの結晶化年代が約1億8000万年前と非常に若い一方で、火星の表面の多くは極めて古く、また火星という惑星のサイズからして最近まで活発な火山活動があったとは考えにくいという矛盾のことです。
ALH 84001に火星生命の証拠はあったのですか?
かつて細菌のような微化石構造が見つかり、生命の痕跡として期待されましたが、その後の研究で地球上の微生物による汚染であるという見解が一般的となりました。
火星隕石はどのようにして地球に届くのですか?
火星の表面に巨大な小惑星などが衝突した際、その衝撃で岩石が宇宙空間に弾き飛ばされます。その後、長い時間をかけて地球の重力圏に捉えられ、大気圏を通過して落下します。
SNCグループ以外の火星隕石はありますか?
はい。斜方輝石岩であるALH 84001や、非常に高い含水量を持つNWA 7034(ブラック・ビューティー)など、主要なSNCグループに分類されない特殊な組成の隕石が存在します。
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![NWA 6963,[14] a shergottite found in Morocco, September 2011.](/images/b0/52/b052f4118bc4d74e77e580c7920147fb8ed5f2ca2e5b78111298024b3f875957.jpg)

