地球に降り注ぐ隕石の中には、遥か彼方の火星から飛来した貴重なサンプルが存在します。これらの火星隕石は、その化学組成や同位体比が地球の岩石とは明確に異なり、火星固有の性質を示しているため、科学的に火星由来であると特定されています。多くの火星隕石は、その代表的な3つのグループの頭文字を取ってSNCグループと呼ばれています。

火星隕石の研究は、直接探査機を送るだけでなく、地球に届いた「天然のサンプル」を分析することで、火星の火山活動や水の存在、さらには生命の可能性までを探る重要な手がかりとなっています。

The Martian meteorites are divided into three groups (orange) and two grouplets (yellow). SHE = Shergottite, NAK = Nakhlite, CHA = Chassignite, OPX = Orthopyroxenite (ALH 84001), BBR = Basaltic Breccia (NWA 7034).

Key Facts

  • SNCグループ:シャーゴッタイト(S)、ナクライト(N)、シャシナイト(C)の3つの主要グループの総称。
  • シャーゴッタイト:火星隕石の約4分の3を占める最も一般的なグループ。
  • ナクライト:約13億年前に形成され、過去に液体の水に触れていた証拠がある。
  • ALH 84001:かつて化石のような構造が見つかり、火星生命論で世界的に注目された特殊な隕石。
  • ブラックビューティー(NWA 7034):他の火星隕石に比べて極めて高い含水量を持つ。

主要な分類:SNCグループの詳細

火星隕石の多くは、最初に発見された隕石の地名にちなんで命名された3つのカテゴリーに分類されます。

シャーゴッタイト (Shergottites)

1865年にインドのシャーガティに落下した隕石に由来するこのグループは、火星隕石の中で最大の割合を占めています。主に苦鉄質から超苦鉄質の火成岩で構成されており、結晶のサイズや鉱物組成によって「玄武岩質」「オリビン晶(橄欖石晶)」「レルゾライト質」の3つに分けられます。また、希土類元素の含有量に基づいた別の分類法も存在しますが、この2つの分類基準は必ずしも一致せず、火星のマグマ形成プロセスの複雑さを示唆しています。

特に注目すべきは、一部のシャーゴッタイトがわずか1億8000万年前という、火星の表面年齢に比して非常に新しい時代に結晶化したように見える点です。これは「シャーゴッタイトの年齢パラドックス」と呼ばれ、現在も研究者の間で激しい議論が続いています。また、これらの隕石が放出された起源となるクレーターとして、モハベ、トゥーティング、あるいは09-000015などが候補に挙げられています。

NWA 6963,[14] a shergottite found in Morocco, September 2011.

ナクライト (Nakhlites)

1911年にエジプトのナクラに落下した隕石を代表とするグループです。輝石の一種である輝石(オージャイト)を豊富に含む火成岩で、約14億1600万年前から13億2200万年前までの約9000万年間にわたる少なくとも4回の噴火によって形成されました。これらの結晶年代から、タルシスやエリシウム、あるいはシルティス・メジャー平原のような大規模な火山地帯で誕生したと考えられています。

分析の結果、ナクライトは約6億2000万年前に液体の水に浸されていたことが判明しており、火星に水が存在した歴史を裏付けています。その後、約1075万年前に小惑星の衝突によって火星から弾き出され、ここ1万年以内に地球へ到達したと推定されています。

Nakhla meteorite's two sides and its inner surfaces after breaking it

シャシナイト (Chassignites)

1815年にフランスのシャシニーに落下した隕石に由来します。非常に希少なグループであり、これまでに確認されているのはシャシニー隕石と、2000年にモロッコまたは西サハラで発見されたNWA 2737(通称「ディデロ」)のわずか数例のみです。分析により、鉱物組成や酸素同位体比がシャシニー隕石と強く一致することが証明されており、火星由来であることは間違いありません。

特殊な分類と未分類の隕石

SNCグループに当てはまらない、特異な性質を持つ隕石も存在します。

ALH 84001とOPXグループ

アランヒルズ84001(ALH 84001)は、斜方輝石を主成分とする「斜方輝石岩(オルソパイロキセナイト)」という珍しい岩石タイプであるため、独立したOPXグループに分類されます。この隕石は、電子顕微鏡で細菌のような微化石構造が発見されたことで世界的な話題となりましたが、2005年時点の科学的合意では、これらは火星の生命ではなく地球上のバイオフィルムによる汚染であると結論づけられています。なお、その年代は約41億年前と非常に古く、初期の火星の姿を留めています。

Allan Hills 84001 (ALH 84001)

その他の特筆すべき隕石

  • NWA 7034(ブラックビューティー):2011年にサハラ砂漠で発見。他の火星隕石の10倍もの水分を含み、最大44.2億年前の成分を含んでいることが分かっています。
  • カイドゥン隕石:1980年にイエメンに落下。炭素質コンドライトであるため厳密には火星隕石ではありませんが、火星の衛星フォボス由来である可能性が指摘されており、火星表面の破片を含んでいる可能性があります。
  • 遂州(Suizhou)隕石:1986年に中国に落下。地球上には存在しないマグネシウムケイ酸塩鉱物「エルゴレサイト」が含まれていることが確認されました。

火星隕石の概要まとめ

火星隕石の主要グループ比較
グループ名 主な岩石タイプ 特徴・重要点 推定形成年代
シャーゴッタイト 苦鉄質・超苦鉄質火成岩 最多のグループ。年齢パラドックスが存在。 ~1.8億年前(一部)
ナクライト 輝石に富む火成岩 液体の水に触れていた証拠がある。 約13~14億年前
シャシナイト 火成岩(希少) 極めて数が少なく、希少性が高い。 (ナクライトと同時代)
OPX (ALH 84001) 斜方輝石岩 微化石論争で有名。非常に古い。 約41億年前

Frequently Asked Questions

SNCグループとは何のことですか?

火星隕石の大部分を占める3つの主要な岩石グループ、シャーゴッタイト(S)、ナクライト(N)、シャシナイト(C)の頭文字を組み合わせた名称です。

ALH 84001に火星生命の証拠はありましたか?

かつて細菌のような構造が見つかり生命の痕跡として注目されましたが、その後の研究で地球上の物質による汚染であるという見解が一般的となりました。

火星隕石が地球に来るまでにはどのようなプロセスがありますか?

火星表面に巨大な小惑星などが衝突した際、その衝撃で岩石が宇宙空間に弾き出されます。その後、長い時間をかけて地球の重力圏に捉えられ、大気圏を通過して落下します。

「シャーゴッタイトの年齢パラドックス」とは何ですか?

火星の表面の多くが非常に古いにもかかわらず、一部のシャーゴッタイトが1億8000万年前という比較的最近に形成されたように見える矛盾のことです。

ブラックビューティー(NWA 7034)の特筆すべき点はどこですか?

他の火星隕石と比較して水分の含有量が極めて高く、また44.2億年前という火星の極めて初期の成分を含んでいる点です。