現代の産業オートメーションにおいて、ネットワーク上のデバイスやアプリケーション間でリアルタイムのプロセスデータや監視制御情報をやり取りすることは不可欠です。この通信を標準化し、異なるメーカー間の相互運用性を確保するために策定されたのがManufacturing Message Specification (MMS)です。ISO 9506として定義されているこの規格は、製造現場における高度なデータ交換の基盤となっています。

Key Facts

  • 正式名称: Manufacturing Message Specification (MMS)
  • 規格番号: ISO 9506
  • 策定機関: 国際標準化機構 (ISO) / ISO/TC 184/SC 5
  • 主な目的: ネットワーク化されたデバイス間でのリアルタイムデータ転送と監視制御の標準化
  • 核心概念: 仮想製造デバイス (VMD) を中心としたオブジェクト管理
  • 現在の主流: TCP/IPスタック上での運用

MMSが定義する3つの主要要素

MMSは単なる通信プロトコルではなく、データの構造から伝送ルールまでを包括的に定義しています。主に以下の3つの要素で構成されています。

1. 標準オブジェクトの定義

すべてのデバイスに共通して存在するべきオブジェクト群を定義しています。その中心となるのが仮想製造デバイス (VMD: Virtual Manufacturing Device)であり、このVMDの下に変数、ドメイン、ジャーナル、ファイルなどの具体的なオブジェクトが紐付けられます。これらのオブジェクトに対して、「読み取り」「書き込み」「イベント通知」といった操作を実行することが可能です。

2. 標準メッセージの体系

クライアントとサーバーの間で、前述のオブジェクトを監視または制御するために交換されるメッセージ形式を規定しています。これにより、異なるベンダーの機器であっても共通の言語で制御指示や状態確認が行えます。

3. エンコーディングルール

定義されたメッセージを、実際にネットワークで伝送可能なビットやバイトの列に変換するためのマッピングルールを定めています。

通信スタックの進化:OSIからTCP/IPへ

MMSの通信基盤は、時代の技術トレンドに合わせて大きな転換を遂げました。

初期のOSI参照モデルベース

1990年に策定された当初、MMSはISO/IEC 9506-1(サービス定義)および9506-2(プロトコル仕様)として標準化されました。この時点では、完全な7層のOSIネットワークプロトコルスタックを採用していました。アプリケーション層から物理層まで、すべてISO規格に基づいた厳格な階層構造を持っていました。

しかし、このOSIスタックは実装の難易度が非常に高く、産業界に広く普及するには至りませんでした。

TCP/IPへの移行と普及

1999年、ボーイング社がインターネットプロトコル(TCP/IP)を利用した新しいMMSバージョンを開発しました。このアプローチでは、OSIモデルの下位4層をTCP/IPに置き換え、トランスポート層にRFC 1006(ISO Transport over TCP)を導入しました。一方で、上位3層(アプリケーション、プレゼンテーション、セッション層)には引き続き従来のOSIプロトコルを維持しています。

このハイブリッドな構成により、実装のハードルが大幅に下がり、MMSは世界的に認められた標準規格として普及することとなりました。

MMS規格のまとめ

MMS規格の基本情報
項目 詳細
規格番号 ISO 9506
策定年 1990年(最新版は2003年8月2日)
管理組織 ISO/TC 184/SC 5
適用領域 オートメーションシステムおよび統合
通信基盤 当初はOSIスタック → 現在はTCP/IP (RFC 1006経由)

Frequently Asked Questions

MMSとは具体的にどのような役割を果たす規格ですか?

ネットワークに接続された産業用デバイスやアプリケーション間で、リアルタイムのプロセスデータや監視制御情報をやり取りするための共通言語(メッセージ仕様)を定義する国際規格です。

VMD(仮想製造デバイス)とは何ですか?

MMSにおける最上位のオブジェクト概念です。デバイス内の変数やファイルなどのあらゆるデータオブジェクトを包含する仮想的な器として機能し、管理の単位となります。

なぜ初期のOSIスタックからTCP/IPへ変更されたのですか?

元のOSIプロトコルスタックは実装が非常に複雑で困難だったため、普及が進みませんでした。汎用的なTCP/IPスタックを採用することで、実装が容易になり、世界的な普及につながりました。

現在のMMSではどの層にOSIプロトコルが残っていますか?

上位3層である「アプリケーション層(ACSEなど)」「プレゼンテーション層(ASN.1など)」「セッション層」には、引き続きOSIのプロトコルが使用されています。

MMSの最新バージョンはいつ発行されましたか?

最新のバージョンは2003年8月2日に発行されています。