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IS-ISプロトコルの仕組みとネットワーク運用における役割

🗓 2026年8月13日

現代の大規模な企業ネットワークやサービスプロバイダーのバックボーンにおいて、効率的な経路制御は不可欠です。その中核を担うプロトコルの一つがIS-IS (Intermediate System to Intermediate System)です。IS-ISは、単一の自律システム(AS)内で動作するリンクステート型の内部ゲートウェイプロトコル(IGP)であり、ネットワーク全体の構成情報を共有することで最適な通信経路を算出します。

もともとはDECnet Phase Vの一部として開発されましたが、後にISO/IEC 10589として国際標準化されました。OSI参照モデルに基づいた設計であり、IPネットワークだけでなく、接続レスモードネットワークサービス(CLNS)などの異なるネットワーク層プロトコルもサポートできる柔軟性が特徴です。

Key Facts

  • 動作原理: 全ルーターでリンクステートデータベース(LSDB)を同期し、ダイクストラ(Dijkstra)アルゴリズムを用いて最短経路を計算します。
  • レイヤー2動作: IPアドレスに依存せず、データリンク層(レイヤー2)上で直接動作するため、IPv4とIPv6の両方を効率的にサポート可能です。
  • 階層構造: レベル1(エリア内)とレベル2(エリア間)の2段階構造を持ち、大規模ネットワークの負荷を分散します。
  • 高い信頼性: サービスプロバイダーのバックボーンにおけるデファクトスタンダードとして広く採用されています。

IS-ISの基本概念と用語

IS-ISでは、一般的なネットワーク用語とは異なる独自の呼称が用いられます。これらを理解することが、プロトコルの動作を把握する第一歩となります。

  • 中間システム (Intermediate System): 一般的な「ルーター」に相当します。
  • エンドシステム (End System): ルーティングに参加しないホストやデバイスのことです。
  • 回路 (Circuit): LANやポイントツーポイントリンクなどのレイヤー2ブロードキャストドメインを指します。
  • 隣接関係 (Adjacency): ルーティング情報を交換し合う隣接ルーター間の関係です。

ルーティング情報の伝達メカニズム

IS-ISは、PDU(プロトコルデータユニット)と呼ばれるパケットを使用して情報をやり取りします。情報のやり取りは主に以下の4種類のPDUによって行われます。

1. IIH (IS-IS Hello PDU)

隣接ルーターとの関係を構築・維持するためのパケットです。ブロードキャストネットワークでは、優先度とシステムIDに基づきDIS (Designated Intermediate System)が選出され、効率的な情報交換を管理します。

2. LSP (Link State PDU)

実際の経路情報が含まれるパケットです。情報はTLV (Type-Length-Value)形式で符号化されており、拡張性が高いのが特徴です。LSPはシステムID、擬似ノードID、フラグメントIDで識別されます。

3. CSNP (Complete Sequence Number PDU)

DISが定期的に送信する要約パケットです。自身の持つLSPのシーケンス番号とチェックサムをリスト化して送信し、ネットワーク全体の同期状態を確認します。

4. PSNP (Partial Sequence Number PDU)

CSNPとの比較で不足している情報が見つかった場合や、特定のLSPの更新が必要な場合に、その要求を伝えるために使用されます。

アドレス体系とNET

IS-ISの最大の特徴は、インターフェースの識別をIPアドレスではなく、レイヤー2アドレス(MACアドレスなど)とNET (Network Entity Title)で行う点です。

NETはNSAPアドレスの一種で、以下の構成要素から成り立っています:

  • AFI (Address Family Identifier): アドレス体系を識別します(例:49はプライベートアドレス空間)。
  • エリアID: ルーターが所属するエリアを識別します。
  • システムID: ルーターを一意に識別する6バイトの値です。
  • NSEL: NETとして使用する場合、この値は必ず「0」である必要があります。

ネットワークの階層化:レベルとエリア

ネットワークの規模が拡大すると、すべてのルーターが全経路情報を保持することは負荷が高くなります。そこでIS-ISは「レベル」という概念でネットワークを分割します。

レベル1 (L1)

エリア内部のルーティングを担当します。L1ルーターは自身の所属するエリア内のLSDBのみを保持します。

レベル2 (L2)

エリア間を接続するバックボーンを形成します。L2ルーターはエリアをまたいだルーティング情報を保持し、異なるエリア間の通信を可能にします。

レベル1/2 (L1/L2)

境界ルーターとして機能し、L1とL2の両方のLSDBを保持します。L1ルーターがエリア外へ通信したい場合、このL1/L2ルーターへトラフィックを転送します。この際、L1/L2ルーターはLSP内のATTビット (Attached Bit)を立てて、自身が外部エリアに接続していることを通知します。

高度な運用機能と最適化

オーバーロードビット (OL bit)

ルーターが過負荷状態にあること、またはメンテナンス中であることを示すフラグです。このビットがセットされると、そのルーターは宛先としての通信は受け付けますが、中継ルーター(トランジット)としては利用されなくなります。これにより、BGPなどの他プロトコルの収束を待ってからトラフィックを流すといった制御が可能です。

ワイドメトリック (Wide Metrics)

初期のIS-IS(ナローメトリック)ではコスト値の上限が低く、高速回線が普及した現代のネットワークでは不十分でした。これを解決するために導入されたのがワイドメトリックです。リンクメトリックを24ビット、パスメトリックを32ビットまで拡張し、より詳細な経路制御を可能にしました。

マルチトポロジーとIPv6対応

IS-ISはレイヤー2で動作するため、新しいTLVを追加するだけでIPv6などの新プロトコルに対応できます。また、IPv4とIPv6で物理的な経路が異なる場合に、それぞれ独立して最短経路ツリーを計算する「マルチトポロジー」機能を備えており、トラフィックのブラックホール化を防ぎます。

IS-ISの主要特性まとめ
項目 内容 備考
動作レイヤー データリンク層 (Layer 2) IPに依存しない設計
経路計算アルゴリズム ダイクストラ (SPF) 最短経路を算出
階層構造 レベル1 / レベル2 エリア分割による負荷軽減
識別子 NET (Network Entity Title) システムIDを含む固有アドレス
主な用途 ISPバックボーン、大規模エンタープライズ 高い拡張性と安定性

Frequently Asked Questions

OSPFとIS-ISの決定的な違いは何ですか?

最大の違いは動作レイヤーです。OSPFはIP(レイヤー3)上で動作しますが、IS-ISはデータリンク層(レイヤー2)で動作します。そのため、IS-ISはIPアドレスに依存せず、IPv4やIPv6など複数のネットワーク層プロトコルを同一の仕組みで効率的にサポートできます。

DIS (Designated Intermediate System) の役割は何ですか?

LANなどのブロードキャスト環境において、全ルーター間で個別に隣接関係を築くと通信量が増大します。DISは代表者として選出され、LSPの配布や同期(CSNPの送信)を一括管理することで、ネットワークの負荷を大幅に削減します。

オーバーロードビットを意図的に設定するメリットは?

ルーターのメンテナンス時に非常に有効です。OLビットを立てることで、そのルーターを中継経路から除外させ、通信を他の経路へ迂回させることができます。これにより、サービスを停止させることなく設定変更や再起動を行うことが可能です。

ワイドメトリックが必要な理由は何ですか?

従来のナローメトリックでは、設定できるコスト値の上限が低すぎたため、10Gbpsや100Gbpsといった超高速回線が混在する環境で、適切な経路優先順位を付けることが困難になったためです。ワイドメトリックにより、非常に大きなコスト値を設定できるようになりました。

BFD (Bidirectional Forwarding Detection) との連携はなぜ重要ですか?

IS-ISのHelloパケットによる障害検知は、CPU負荷を抑えるために数秒単位の間隔に設定されることが一般的です。BFDを併用することで、ミリ秒単位の超高速な障害検知が可能になり、ネットワークの切り替え時間を劇的に短縮できます。

References

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