キング・ジェームズ訳聖書(KJV)の歴史と影響力

キング・ジェームズ訳聖書(King James Version, 通称KJV)は、英語圏において最も著名な聖書翻訳の一つであり、「認定訳(Authorized Version)」としても知られています。1604年にイングランド王ジェームズ1世(スコットランド王ジェームズ6世)の命により制作が始まり、1611年に出版されました。この翻訳は、イングランド国教会およびスコットランド教会のために作成され、英語の文学的発展に計り知れない影響を与えました。

KJVは、旧約聖書の39巻、新約聖書の27巻に加え、14巻の外典を含む計80巻で構成されています。その格調高い文体は、宗教的な枠を超えて英語という言語のスタンダードを形作ったと言われています。

Key Facts

  • 出版年: 1611年(1769年に標準的な改訂版が作成)
  • 翻訳手法: 形式的等価(原文の構造や言葉を忠実に再現する手法)
  • 構成: 旧約聖書、新約聖書、および外典の合計80巻
  • 主な典拠: 旧約はマソラ本文、新約はテキストス・レセプトゥスを採用
  • 著作権: イギリス国内では永久的に著作権が保持されているが、他国では事実上のパブリックドメイン

翻訳の背景と制作プロセス

KJVが誕生する前、英語圏にはウィリアム・ティンダルによる翻訳などの先駆的な試みがありました。しかし、教会としての統一的な基準となる翻訳の必要性が高まり、ジェームズ1世の主導で新たなプロジェクトが始動しました。

William Tyndale translated the New Testament into English in 1525.

翻訳作業は、ウェストミンスター、ケンブリッジ、オックスフォードの3つの拠点に分かれた委員会によって組織的に行われました。各委員会は担当する範囲が明確に分かれており、徹底した校閲と検討を経て一つのテキストにまとめられました。

翻訳委員会の分担

KJV翻訳委員会の担当範囲
委員会 担当箇所
第1ウェストミンスター委員会 創世記 〜 列王記下
第1ケンブリッジ委員会 歴代誌上 〜 雅歌
第1オックスフォード委員会 イザヤ書 〜 マラキ書
第2オックスフォード委員会 福音書、使徒行伝、ヨハネの黙示録
第2ウェストミンスター委員会 書簡(エピストル)
第2ケンブリッジ委員会 外典

この大規模なプロジェクトの総責任者(chief overseer)を務めたのは、リチャード・バンクロフト大主教でした。

Archbishop Richard Bancroft was the "chief overseer" of the production of the Authorized Version.

テキストの構成と特徴

KJVの翻訳においては、形式的等価(Formal Equivalence)という手法が採られました。これは、原文の言葉や文法構造を可能な限り維持しながら翻訳するアプローチであり、読者に原文に近いニュアンスを伝えることを目的としています。

使用された原典

  • 旧約聖書: ヘブライ語の「マソラ本文(Masoretic Text)」を基盤としています。
  • 新約聖書: ギリシャ語の「テキストス・レセプトゥス(Textus Receptus)」に基づいています。
  • 外典: 七十人訳(Septuagint)およびウルガタ(Vulgate)が参照されました。

初版の1611年版は、装飾的な頭文字や各書の冒頭にある装飾的なヘッドピースが特徴的でしたが、本文中に挿絵は含まれていませんでした。また、欄外注(Marginal notes)を用いて、他の翻訳案や聖書内の相互参照が示されていました。

The opening of the Epistle to the Hebrews of the 1611 edition of the Authorized Version shows the original typeface. The text of the Bible (only) is in black text. Marginal notes reference variant translations and cross references to other Bible passages. Each chapter is headed by a précis of contents. There are decorative initial letters for each chapter, and a decorated headpiece to each book, but no illustrations in the text.

出版後の変遷と現代への影響

1611年の初版以降、印刷上の誤りの修正や綴りの変更が繰り返されました。その後、1769年にオックスフォード版として出版されたものが、現代に至るまでの「標準的なテキスト」として定着しています。

Title page of the 1760 Cambridge edition

KJVはその文学的な美しさと権威から、多くの後続の翻訳(New King James Versionなど)のベースとなりました。また、「KJVのみ(King James Only)」という、この版こそが唯一正しい翻訳であると信じる運動も存在します。

God’s name JEHOVAH in Psalms 83:18

Frequently Asked Questions

KJVと他の聖書翻訳の最大の違いは何ですか?

最大の特徴は、初期近代英語を用いた格調高い文体と、「形式的等価」という原文に忠実な翻訳手法を採用している点です。現代の多くの翻訳が意味の分かりやすさを重視する「動的等価」を採用しているのに対し、KJVは形式的な再現性を重視しています。

「外典」とは何ですか?

旧約聖書と新約聖書の間に位置づけられる書物で、ユダヤ教の正典には含まれないものの、初期キリスト教で重要視されたテキストです。KJVの初版には14巻の外典が含まれていました。

なぜ1769年版が重要視されるのですか?

1611年の初版から長い年月を経て、綴りの標準化や誤植の修正が行われ、最も洗練された標準テキストとして確立されたのが1769年のオックスフォード版であるためです。

KJVは現在でも使われていますか?

はい、現在でも世界中で広く読まれています。特に伝統的な礼拝や、英語の古典文学としての研究、また特定の信仰グループにおいて不可欠なテキストとして利用され続けています。