New American Standard Bible (NASB) の特徴と翻訳哲学
英語で聖書を学ぶ際、多くの研究者や信徒から信頼を集めているのがNew American Standard Bible (NASB)です。この翻訳は、現代的な英語を用いながらも、原文の構造を極めて忠実に再現することを目指して作成されました。学術的な厳格さと読みやすさのバランスを追求したNASBが、どのような背景で生まれ、どのような哲学に基づいて翻訳されているのかを詳しく解説します。
Key Facts
- 翻訳スタイル: 原文の構造を維持する「形式的等価(Formal Equivalence)」を採用。
- 発行元: 非営利団体である Lockman Foundation。
- 初版: 新約聖書は1963年、全巻(完結版)は1971年に出版。
- 主な改訂: 1977年、1995年(Updated Edition)、2020年に大規模な改訂を実施。
- テキスト根拠: 旧約聖書は Biblia Hebraica Stuttgartensia 等、新約聖書は Novum Testamentum Graece を基盤とする。
NASBの翻訳哲学:形式的等価へのこだわり
NASBの最大の特徴は、形式的等価(Formal Equivalence)という翻訳手法にあります。これは、意訳して自然な英語に整えることよりも、可能な限り原文の単語や文法構造をそのまま英語に反映させる「逐語訳」に近いアプローチです。
20世紀に登場した主要な英語訳聖書の中でも、NASBは最もリテラル(文字通り)な翻訳の一つであると評されています。もちろん、英語として完全に不自然になる場合や翻訳が不可能な箇所については、現代的な慣用句が用いられていますが、そうした箇所には脚注でより直訳に近い表現が添えられていることが多く、利用者が原文の意図を深く考察できるよう配慮されています。
翻訳の系譜と目的
NASBはゼロから作られたわけではなく、1901年の American Standard Version (ASV) を現代的にアップデートしたものです。ASV自体は1885年の Revised Version (RV) を基にしており、さらに遡れば King James Version (KJV) に辿り着きます。NASBの目的は、1901年以降に発見された新たな原典資料を取り入れ、古風な英語を現代的に刷新しつつ、神学的偏りの少ない正確な翻訳を提供することにありました。
神の御名(テトラグラマトン)の表記
NASBは、旧約聖書に登場する神の固有名称「YHWH(テトラグラマトン)」の扱いにおいて、先行するASVとは異なる方針を採りました。ASVでは「Jehovah(エホバ)」と表記していましたが、NASBでは伝統的な敬意に基づき、大文字でLORD(主)またはGOD(神)と訳しています。
これは、ユダヤ教の伝統において神の名を直接発音することを避けてきた歴史を尊重した結果です。特に「主(Adonai)」という言葉が直後に続く場合は、混同を避けるために「GOD」と訳し分けるという厳格なルールが適用されています。
時代に合わせた進化:1995年と2020年の改訂
Lockman Foundationは、言語の変化や学術的な進展に合わせて、定期的にテキストの更新を行っています。
1995年改訂(NASB 1995 / Updated Edition)
この改訂では、最新の写本研究に基づき、特に新約聖書のギリシャ語テキストの精度が向上しました。また、エリザベス朝時代の古風な表現(thyやthouなど)を排除し、文法や語彙を現代的に調整することで、正確性を維持したまま可読性を高めることに成功しました。
2020年改訂(NASB 2020)
最新の2020年版では、現代社会の視点に合わせた調整が行われました。例えば、「兄弟たち」という表現が男女両方を含む文脈である場合、補足的に「または姉妹たち」という言葉を斜体で挿入し、ジェンダーの正確性を向上させています。また、「let us」をより口語的な「let's」に変更し、文脈に応じた自然な促しを表現しています。さらに、初期の写本に存在しない箇所(括弧書きのテキスト)を本文から外し、脚注へ移動させることで、原典への忠実さをさらに追求しました。
翻訳チームの構成
NASBの翻訳は、Lockman Foundationが後援する専門家グループによって行われました。チームは、福音主義プロテスタントの保守的な教派(長老派、メソジスト、南部バプテストなど)に属する学者や、聖書言語および神学の博士号を持つ専門家らで構成されています。当初は翻訳者の匿名性が保たれていましたが、現在は公式サイトにて各版に貢献した学者の名前が公開されています。
NASBの概要まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 翻訳形式 | 形式的等価(逐語訳重視) |
| 主な根拠テキスト | BHS, BHQ (旧約) / NA28 (新約) |
| 出版年(完結版) | 1971年 |
| 最新改訂版 | 2020年版 |
| 推奨読解レベル | 11.0 (米国基準) |
Frequently Asked Questions
NASBはどのような人に向いていますか?
原文の構造を重視した翻訳であるため、聖書を深く研究したい方や、英語を通じて元のヘブライ語やギリシャ語のニュアンスを把握したい方に最適です。
「形式的等価」とは具体的にどういう意味ですか?
言葉の意味だけでなく、文法構造や単語の順序を可能な限り原文に近づけて翻訳する手法のことです。意訳を避け、文字通りの意味を伝えることを優先します。
1995年版と2020年版の大きな違いは何ですか?
2020年版では、ジェンダー表現の明確化(例:兄弟→兄弟または姉妹)や、より現代的な口語表現への変更、および写本に基づいた括弧書きテキストの脚注への移動が行われました。
NASBは特定の教派に偏った翻訳ですか?
翻訳チームは福音主義プロテスタントの多様な保守的教派から構成されていますが、特定の教義を押し出すのではなく、原典テキストへの忠実な翻訳を目指しています。
神の名前(YHWH)はどう訳されていますか?
基本的には大文字の「LORD」と訳されます。ただし、文脈の中で「主(Adonai)」という言葉が隣接している場合は、混同を避けるため「GOD」と訳されています。