世界で最も権威ある知識の集積の一つであるブリタニカ百科事典(Encyclopædia Britannica)は、1768年の創刊以来、人類の知を体系化し続けてきました。英国で誕生し、後に米国へと拠点を移したこの百科事典は、単なる情報の集まりではなく、時代の学術水準を反映する鏡のような存在です。
かつては豪華な装丁の多巻本として家庭や図書館の象徴であったブリタニカですが、時代の変化とともにCD-ROM、そして現在のオンライン形式へとその姿を変えてきました。2016年からは完全にデジタル版へと移行し、現代の高速な情報更新ニーズに応えています。
Key Facts
- 創刊年: 1768年(250年以上の歴史を持つ)
- 最終印刷版: 2010年発行の第15版(全32巻、32,640ページ)
- 現在の形態: Britannica.com によるオンライン専用配信
- 寄稿者: 2008年時点で4,411名の記名寄稿者が参加
- 言語: 英国英語(British English)
知の体系を築いた版の変遷
ブリタニカはこれまで合計15の主要な版を刊行してきました。初期の版は少数の巻数で構成されていましたが、知識の拡大に伴い、その規模は飛躍的に増大しました。特に第1版では、アンドリュー・ベルによる精巧な彫版が導入され、視覚的な情報提供の基礎が築かれました。


19世紀に入ると、ブリタニカは学術的な価値をさらに高めます。例えば、エジプトのヒエログリフ解読に貢献したトーマス・ヤングによる記事など、当時の最先端の研究成果が直接掲載されるようになりました。

黄金期と商業的な拡大
第9版は学術的な頂点の一つとされ、多くの知識人が寄稿しました。編集者のトーマス・スペンサー・ベインズらの指導のもと、極めて高い水準の内容を実現しましたが、その人気ゆえに米国では大量の海賊版が出回るという事態にもなりました。


その後、20世紀初頭の第11版では販売数が100万セットに達し、世界的な普及を遂げます。この時期の広告戦略は非常に強力であり、ナショナル ジオグラフィック誌などのメディアを通じて広く宣伝されました。

構造の刷新と近代化
1974年に登場した第15版(New Encyclopaedia Britannica)では、情報の検索性を高めるために大胆な再編が行われました。具体的には、短い記事をまとめた「マイクロペディア(Micropædia)」、詳細な解説を記した「マクロペディア(Macropædia)」、そして知識の体系図を示す「プロペディア(Propædia)」の3つの構成要素に分けられました。

また、配送用の頑丈な木箱を用いて届けられた第14版など、物理的な書籍としての存在感も強かった時代がありました。

多様な展開とデジタルへの移行
一般向けの大百科事典だけでなく、子供向けに特化した「チルドレンズ・ブリタニカ(Children's Britannica)」などの派生版も展開され、幅広い世代への教育に貢献しました。

しかし、インターネットの普及とWikipediaなどのデジタル百科事典の台頭により、膨大なコストと時間を要する印刷版の維持は困難となりました。1994年にオンライン版を開始し、段階的に移行を進めた結果、2012年には印刷版の出版を完全に停止しました。
版ごとの詳細まとめ
| 版 / 補遺 | 刊行年 | 規模・特徴 | 主な編集者 |
|---|---|---|---|
| 第1版 | 1768–1771 | 3巻 / 2,391ページ | William Smellie |
| 第9版 | 1775–1889 | 24巻 + インデックス | T. S. Baynes / W. R. Smith |
| 第11版 | 1910–1911 | 28巻 + インデックス | H. Chisholm / F. H. Hooper |
| 第14版 | 1929–1933 | 24巻(継続的な改訂を実施) | J. L. Garvin / F. H. Hooper 他 |
| 第15版 | 1974–2010 | 最大32巻(3つの構成要素に分立) | W. E. Preece / P. W. Goetz 他 |
| Global Edition | 2009 | 30巻(コンパクト版) | Dale Hoiberg |
Frequently Asked Questions
ブリタニカ百科事典は現在も本で買えますか?
いいえ、印刷版の出版は2012年に終了しました。現在は公式ウェブサイト(Britannica.com)を通じてデジタル形式で提供されています。
第15版の「プロペディア」「マイクロペディア」「マクロペディア」の違いは何ですか?
プロペディアは知識の全体的な構造を示す導入部、マイクロペディアは簡潔な記事と索引を兼ねた巻、マクロペディアは特定の主題について深く掘り下げた詳細な論文形式の記事をまとめた巻です。
Wikipediaなどの無料百科事典と何が違うのですか?
ブリタニカは、ノーベル賞受賞者を含む専門の学者や権威ある寄稿者による査読済みの記事を提供しており、情報の正確性と信頼性を重視した編集体制を維持している点が特徴です。
かつて子供向けの版もありましたか?
はい。「Britannica Junior」として1934年に創刊され、後に「Britannica Junior Encyclopædia」へと名称変更されました。1984年の印刷まで提供されていました。
印刷版の最後はどのような構成でしたか?
2010年に発行された最終的な第15版は、全32巻、合計32,640ページという膨大なボリュームで構成されていました。
References
- According to Kister, the initial 15th edition (1974) required over $32 million to produce.
- Vol. I has (viii), 697, (i) pages, but 10 unpaginated pages are added between pages 586 and 587. Vol. II has (iii), 1009, (ii) pages, but page numbers 175–176 as well as page numbers 425–426 were used twice; additionally page numbers 311–410 were not used. Vol. III has (iii), 953, (i) pages, but page numbers 679–878 were not used.
- Archibald Constable estimated in 1812 that there had been 3,500 copies printed, but revised his estimate to 3,000 in 1821.
- According to Smellie, it was 10,000, as quoted by Robert Kerr in his "Memoirs of William Smellie." Archibald Constable was quoted as saying the production started at 5,000 and concluded at 13,000.
- 10,000 sets sold by Britannica plus 45,000 genuine American reprints by Scribner's Sons, and "several hundred thousand sets of mutilated and fraudulent 9th editions were sold..." Most sources estimate there were 500,000 pirated sets.
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