国際社会の平和と安全を担う国連安全保障理事会(UNSC)には、厳格な手続きに基づく公式会合だけでなく、より柔軟に意見を交わすための「アリア方式(Arria Formula)」と呼ばれる非公式な会合形式が存在します。この仕組みは、公式な枠組みでは困難な外部専門家や市民社会との対話を可能にし、安保理が現実的な状況を把握するための重要な窓口となっています。
Key Facts
- 性質:安保理理事国が招集する非公式な会合であり、公式な手続き上の制約を受けない。
- 参加者:理事国だけでなく、NGO、専門家、非国家主体、非理事国の代表などが参加可能。
- 目的:機密性を保ちつつ、外部からの直接的な証言や専門知見を理事国が収集すること。
- 根拠:国連憲章第30条(安保理が自らの手続き規則を定める権限)に基づき運用されている。
- 成果:公式決議への道筋をつけたり、拒否権などで公式会合が開けない際の代替手段となったりする。
アリア方式の誕生と歴史的背景
この形式が生まれたのは1992年のことです。当時、安保理議長を務めていたベネズエラのディエゴ・アリア大使は、ユーゴスラビア紛争におけるボスニア・ヘルツェゴビナでの惨状を直接報告したいというクロアチア人司祭、フラ・ヨコ・ゾルコ氏からの要望を受けました。
しかし、当時の安保理の公式ルールでは、理事国以外の個人が証言を行う仕組みがありませんでした。そこでアリア大使は、公式な会議室ではなく、代表者ラウンジという非公式な場所へ理事国を招き、直接的に証言を聞く場を設けたことが始まりです。これが後に「アリア方式」として制度化されました。

アリア大使がこの形式を重視したのは、大国との二国間協議では相手が「心地よい言葉」だけを伝えがちであると考えたためです。他の国々が同席する非公式な場であれば、より誠実で率直な議論が行われると確信していました。
公式会合との決定的な違い
アリア方式の最大の特徴は、その柔軟性にあります。通常の安保理会合では、15カ国すべての理事国の出席や厳格な議事進行が求められますが、アリア方式ではそれらの義務が免除されます。
運用の仕組み
会合は安保理の議長ではなく、招集した理事国がファシリテーター(進行役)として主導します。また、安保理理事国ではない国が、特定の専門家や組織からの報告が有益であると判断し、理事国と協力して開催することもあります。
参加者の拡大プロセス
導入当初は政府高官や国家元首に限定されていましたが、次第にその範囲は広がりました。1996年にはNGOの参加を求める動きがありましたが、当初は一部の常任理事国の反対に遭いました。しかし、1999年頃から安保理の運営方針がオープンな方向へ転換し、2000年4月にはNGOリーダーによる定期的なブリーフィングが正式に導入されました。
構造と手続き上の特徴
アリア方式は国連憲章の正式な規定に基づくものではなく、憲章第30条が認める「安保理が自らの手続き規則を定める権限」を利用して運用されています。そのため、固定されたスケジュールはなく、理事国が必要と感じたタイミングで随時開催されます。
| 項目 | 公式安保理会合 | アリア方式(非公式会合) |
|---|---|---|
| 招集・主導 | 安保理議長 | 招集した理事国(ファシリテーター) |
| 出席要件 | 全15理事国の出席が必要 | 招集国による裁量で決定 |
| 外部参加者 | 原則として制限あり | NGO、専門家、非国家主体などが可能 |
| 記録・公開 | 公式記録として公開 | 原則非公開(近年は一部Web配信あり) |
| 手続き | 暫定規則に従う | 柔軟な非公式形式 |
一般的な流れとしては、まず招集した理事国が趣旨説明を行い、その後、出席した専門家やゲストとの自由な討論が行われます。2016年のシリア・アレッポ情勢に関する会合を機に、一部の会合はUN Web TVで配信・アーカイブされるようになり、透明性が高まっています。
国際社会に与えた影響と具体例
アリア方式は、単なる情報収集の場に留まらず、具体的な政策転換や決議へとつながるケースがあります。
女性・平和・安全保障への貢献
2000年10月、紛争下における女性の状況やリーダーシップについて議論するアリア方式の会合が開かれました。これがきっかけとなり、安保理はオープンセッションを開催し、最終的に「女性・平和・安全保障」に関する歴史的な決議1325号を採択しました。これにより、女性を単なる被害者ではなく、平和構築の主体として認める視点が組み込まれました。
政治的停滞の突破口として
常任理事国の拒否権行使などで公式会合が開けない場合でも、アリア方式であれば議論を継続できます。例えば2018年3月、シリア情勢に関する公開会合が拒否権により阻止された際、フランスや米国などの理事国が即座にアリア方式の会合を組織し、人権高等弁務官からブリーフィングを受けることで、人権侵害の実態を共有し続けました。
Frequently Asked Questions
アリア方式の会合は誰でも参加できるのですか?
いいえ。招集した理事国が、その議題に必要であると判断した専門家、NGO、代表団などが招待される形式です。一般公開の会合ではありません。
この会合で決まったことは法的拘束力を持ちますか?
いいえ。アリア方式はあくまで「非公式な協議」であるため、ここで合意された内容に直接的な法的拘束力はありません。ただし、ここでの議論が後の公式決議の基礎となることは多々あります。
なぜ「非公式」である必要があるのですか?
公式な場では外交的な配慮から本音が出にくいためです。非公式な設定にすることで、理事国がより率直に意見を述べ、外部の専門家からも忖度のない情報を得られるようにしています。
アリア方式の会合はどのくらいの頻度で行われますか?
決まったスケジュールはありませんが、概ね月に1回程度のペースで開催される傾向にあります。理事国のニーズに応じて柔軟に決定されます。
NGOが参加することでどのようなメリットがありますか?
現場で活動するNGOが持つ一次情報や専門知見を、安保理理事国に直接届けることができるため、机上の議論ではない現実に基づいた意思決定を促すことができます。
References
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