家畜やペットなどの動物を個別に識別するための技術として、RFID(無線周波数識別)が世界的に活用されています。このシステムは、動物の体内に埋め込まれたり装着されたりするマイクロチップ(トランスポンダ)と、それを読み取る装置(トランシーバー)の間でデータをやり取りすることで機能します。この通信の整合性を保ち、世界中で互換性を持たせるために定められているのが、国際標準規格であるISO 11784とISO 11785です。
Key Facts
- ISO 11784は、チップに格納される識別コードの構造(データ形式)を規定している。
- ISO 11785は、チップの起動方法やデータの転送プロトコル(通信手順)を規定している。
- 標準的なキャリア周波数は134.2 kHzである。
- 主な通信方式には、高速読み取りが可能なFDX(全二重方式)と、シンプルな構成のHDX(半二重方式)がある。
- さらに高度な機能を持つチップについてはISO 14223、適合性試験についてはISO 24631で規定されている。
RFIDによる動物識別の仕組み
動物用RFIDシステムは、情報を保持する「トランスポンダ」と、それを読み取る「トランシーバー」で構成されます。トランシーバーが発する電波によってトランスポンダが起動し、固有の識別コードを含むビット列が送信されます。この際、単にIDを送るだけでなく、正しくデータを受信できたかを確認するためのチェックビットなどが含まれています。
ISO 11784では、この識別コードがどのような構成になるかを定義しています。例えば、IDの最初の3桁は製造メーカーを識別するためのコードとして割り当てられており、これにより世界的に重複のない個体管理が可能になります。
通信プロトコルの詳細:FDXとHDX
ISO 11785では、トランスポンダとリーダー間の通信プロトコルを定めています。現在、主に利用されているのは以下の2つの方式です。
FDX(全二重方式)
FDX(Full Duplex)は、リーダーが発する起動電波を受けている間、同時にデータを送信できる方式です。これにより、連続的な読み取りが可能となり、効率的に個体を識別できるというメリットがあります。特にFDX-Bなどの規格が広く普及しています。
HDX(半二重方式)
HDX(Half Duplex)は、リーダーの起動電波がオフになった瞬間に、蓄えていたエネルギーを使ってデータを送信する方式です。リーダー側で強い起動電波と弱い応答電波を同時に処理する必要がないため、受信機の設計を簡素化できる利点があります。一方で、電波が出ている間は送信できないため、FDXに比べると読み取り速度に制約があります。
技術仕様の比較まとめ
以下に、ISOで承認されている主要なプロトコルの技術的な違いをまとめます。
| 項目 | FDX (Full Duplex / FDX-B) | HDX (Half Duplex) |
|---|---|---|
| 変調方式 | ASK | FSK |
| 動作周波数 | 129-133.2 kHz / 135.2-139.4 kHz | 134.2 kHz |
| チャンネルコード | DBP (Differential biphase) | なし |
| シンボル時間 | 0.23845 ms | 0.1288 ms (1) / 0.1192 ms (0) |
| テレグラム長 | 128ビット | 112ビット |
なお、125kHzの周波数を使用し10ビットコードを用いる「FDX-A」という方式が存在しますが、これはISO規格には準拠していません。
データ構造とテレグラムの構成
送信されるデータ(テレグラム)の構成は、方式によって異なります。どちらの方式でも、ISO 3166に基づく国コードや、個体識別用のIDビット、エラー検出のためのCCITT CRC(巡回冗長検査)が含まれています。
- HDXの構成: スタートビット(8)、動物インジケーター(1)、予約ビット(14)、追加データインジケーター(1)、国コード(10)、IDビット(38)、CRC(16)、アプリケーションビット(24)の順で構成されます。
- FDXの構成: スタートビット(11)、IDビット(38)、国コード(10)、追加アプリケーションビット(1)、予約ビット(14)、動物ビット(1)、CRC(16)、アプリケーションビット(24)の順で構成されます。また、FDXでは8ビットごとにフレーミングビット('1')が挿入されます。
特許とライセンスについて
これらの国際標準に準拠した製品を開発する場合、一部の伝送方法に関する特許が関わっている可能性があります。ISOは特許の有効性について直接的な立場は表明していませんが、FDX-B技術などの一部の特許保持者は、権利を行使しないことや、合理的かつ非差別的な条件でライセンス交渉に応じることをISOに表明しています。
Frequently Asked Questions
ISO 11784とISO 11785の違いは何ですか?
簡単に言うと、ISO 11784は「どのようなデータ(コード)を書き込むか」というデータ構造のルールを定めたものであり、ISO 11785は「どのようにデータを送受信するか」という通信手順(プロトコル)を定めたものです。
FDXとHDXのどちらが優れていますか?
用途によります。FDXは連続して読み取りができるため、迅速な識別が必要な場合に適しています。一方、HDXは受信機の構造をシンプルにできるため、コストや設計の面でメリットがあります。
125kHzのチップはISO規格に適合していますか?
いいえ、125kHzを使用するFDX-Aなどの方式はISO 11784/11785の規格に準拠していません。国際的な互換性が必要な場合は、134.2kHz帯の規格準拠品を選択する必要があります。
マイクロチップのIDはどうやって決まりますか?
ISO 11784に基づき、最初の3桁の製造メーカーコードと、それに続く国コード、および個別の識別番号を組み合わせることで、世界で唯一のIDが構成されます。
ISO 11784/11785以外に関連する規格はありますか?
はい。より高度な機能を持つトランスポンダを規定するISO 14223や、これらの規格への適合性および性能をテストするための手順を定めたISO 24631があります。