世界大戦という未曾有の危機に直面したイギリスにおいて、国家の生命線である食料供給を維持するために不可欠だったのがWomen's Land Army(WLA:女性土地軍)です。軍に徴用された男性労働者の穴を埋めるため、多くの女性たちが農村へと赴き、過酷な労働に従事しました。彼女たちは親しみを込めて「ランドガール(Land Girls)」や「ランドラッシーズ(Land Lassies)」と呼ばれ、イギリスの戦時経済を根底から支えました。
Key Facts
- 設立目的:徴兵された男性に代わり、女性を農業労働力として配置し食料自給率を維持すること。
- 活動期間:第一次世界大戦中(1917年〜1919年)と第二次世界大戦中(1939年〜1950年)の二回にわたって組織された。
- 最大規模:第二次世界大戦時には、徴用制度の導入もあり、メンバー数が8万人を超えた。
- 派生組織:1942年には林業に従事する「Women's Timber Corps(女性材木軍)」が設立された。
- 社会的意義:階級や人種を超えて女性が社会的に重要な役割を担い、後の女性の地位向上に寄与した。
第一次世界大戦における誕生と展開
WLAの起源は、1899年から活動していた「女性農園・庭園連合(Women's Farm and Garden Union)」にあります。1916年、当時の農業大臣セルボーン卿との協議を経て、緊急時の戦時労働に従事する女性を募集するための組織が立ち上がりました。当初はルイズ・ウィルキンスの指導の下、あらゆる階層の女性に農業の重要性を説くプロパガンダ活動や募集活動に注力しました。
1917年4月には正式に「ランドアーミー(土地軍)」が結成され、指導者や監督官が配置されました。結果として約2万3,000人の女性が加入し、軍に奪われた10万人の労働力の一部を補いました。実際にはWLA以外にも、戦時中に約30万人の女性が農作業に従事していたと推定されています。
当時の賃金は週18シリングで、能力が高いと認められれば20シリング(1ポンド)まで昇給しました。また、功績を称える「グッドサービス・リボン」の授与や、公式雑誌『The Landswoman』の発行を通じて、彼女たちの連帯感と誇りが醸成されました。この組織は1919年11月に一度解散しています。


第二次世界大戦での再始動と拡大
1939年、再び戦争の足音が近づくと、イギリス政府は食料自給率の向上を急務と考えました。同年4月に史上初の平時徴用制度が導入されたことで農村の労働力不足が深刻化し、7月にWLAが再結成されました。名誉団長にはレディ・デンマンが就任し、当初は志願制でしたが、後に徴用制が導入されたことで、1944年までには8万人以上の規模にまで拡大しました。
メンバーの多くはもともと農村出身でしたが、3分の1以上はロンドンや北部工業都市からやってきた都市出身者でした。彼女たちは、作物の収穫から家畜の世話まで、農場運営に必要なあらゆる労働を担いました。


林業への展開と多様な背景
1942年には、林業分野を専門とする「Women's Timber Corps(女性材木軍)」が設立されました。ここに所属した女性たちは、口語で「ランバー・ジルズ(Lumber Jills)」と呼ばれ、1946年の解散まで森林資源の確保に貢献しました。
また、WLAは社会的な障壁に直面することもありました。1943年、アメリア・キングという黒人女性が人種を理由に採用を拒否されましたが、国会議員ウォルター・エドワーズが下院でこの問題を提起したことで、最終的に決定は覆されました。こうした事例は、当時の社会における人種差別の実態と、それを打破しようとする動きを象徴しています。

後世への記憶と称賛
WLAは1950年11月30日に正式に解散しましたが、その功績は忘れられていません。2007年には元メンバーのヒルダ・ギブソンの働きかけにより、環境・食糧・農村地域省(DEFRA)が記念バッジを制作し、生存していた4万5,000人以上の元メンバーに授与しました。
また、物理的な記念碑も各地に建てられています。2012年にはチャールズ皇太子(当時)によりスコットランドのモレイに、2014年にはスタッフォードシャーの国立記念樹木園(National Memorial Arboretum)に、WLAと女性材木軍を称える像が設置されました。さらに、ヨーク・ミンスターの「五人の姉妹」の窓には、第一次世界大戦中に職務で亡くなった10人のランドガールを含む女性たちの名が刻まれています。


WLAの概要まとめ
| 項目 | 第一次世界大戦期 | 第二次世界大戦期 |
|---|---|---|
| 活動期間 | 1917年 〜 1919年 | 1939年 〜 1950年 |
| 主な役割 | 農作物の収穫・農業労働 | 農業労働および林業(Timber Corps) |
| 規模 | 約23,000人(WLA登録者) | 最大8万人以上 |
| 募集形態 | 志願制 | 志願制から徴用制へ移行 |
| 公式刊行物 | The Landswoman | The Land Girl |
大衆文化への影響
ランドガールたちの物語は、多くの映画やドラマの題材となってきました。1998年の映画『The Land Girls』や、BBCのドラマシリーズ『Land Girls』(2009-2011年)などが代表的です。また、推理小説や舞台劇、さらには『Call the Midwife』のような人気シリーズの中でも、当時の社会背景を象徴する存在として描かれています。
Frequently Asked Questions
ランドガールとは具体的にどのような仕事をしていましたか?
彼女たちは農場に派遣され、作物の種まき、除草、収穫といったあらゆる肉体労働に従事しました。男性労働者が軍に徴用されたため、それまで男性が行っていた過酷な農作業のすべてを担い、国民の食料を確保することが任務でした。
WLAは政府の直接雇用だったのでしょうか?
WLAは政府(農業省)によって組織・管理されていましたが、実際の雇用主は派遣先の農場主でした。WLAは適切な人員を必要とする農場へ女性を配置する役割を担っていました。
第二次世界大戦中のWLAにはどのような人々が参加しましたか?
農村出身者が多かったものの、ロンドンや北部の工業都市から移住してきた女性も3分の1以上を占めていました。また、人種的な差別もありましたが、黒人女性などの多様な背景を持つ人々も参加していました。
「ランバー・ジルズ(Lumber Jills)」とは何ですか?
1942年に設立された「Women's Timber Corps(女性材木軍)」のメンバーの愛称です。農業ではなく、戦時中に不可欠だった木材の調達など、林業に従事した女性たちのことを指します。
WLAの活動はどのような評価を受けていますか?
単なる労働力の補填にとどまらず、女性が社会的に重要な役割を果たせることを証明した活動として高く評価されています。2008年には生存者に記念バッジが授与され、国立記念樹木園などに記念碑が建てられるなど、国家的な貢献として記憶されています。
References
- ↑ "Before Rosie the Riveter, Farmerettes Went to Work"
- ↑ "History – WFGA". Retrieved 7 April 2021.
- 1 2 3 4 "WW1 Women Land Worker Organisations". Women's Land Army.co.uk. Retrieved 7 April 2021.
- ↑ "Wilkins [née Jebb], Louisa (1873–1929), agricultural administrator". (online ed.). Oxford University Press. 2004. :10.1093/ref:odnb/50178. . Retrieved 7 April 2021. (Subscription, Wikipedia Library access or UK public library membership required.)
- ↑ "brassard, British, Women's National Land Service Corps". Imperial War Museums. Retrieved 7 April 2021.
- ↑ "Formation". Women's Land Army.co.uk. Retrieved 8 April 2021.
- ↑ 97 years ago today: Presentation of Good Service Ribbons in Stafford, 1919
- ↑ "The Landswoman Magazine (WW1)". The Women’s Land Army. Cherish Watton. Retrieved 12 October 2018.
- ↑ 'Women's Land Army', , 6 October 1919, page
- ↑ "Timeline 1948 - Bedfordshire Women's Land Army - The Virtual Library". virtual-library.culturalservices.net. Retrieved 4 October 2020.
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