国家が国民に兵役を義務付ける徴兵制(Conscription)は、米国の歴史において国家の危機や大規模な紛争時に繰り返し導入されてきました。かつての強制的な動員から、現代の登録制度へと形を変えながら、この制度は社会的な議論と法的な争いの中心となってきました。
現在、米国では1973年以降、実際の徴兵は行われていませんが、制度自体は完全に消滅したわけではありません。特定の年齢の男性は、有事に備えて「選択的徴兵制度(Selective Service System: SSS)」への登録が義務付けられており、この登録を怠ると連邦政府の雇用や市民権の取得に影響が出る可能性があります。
Key Facts
- 現行制度: 18歳から25歳のすべての男性(市民および居住移民)にSSSへの登録義務がある。
- 自動登録への移行: 2026年12月18日より、政府データベースを利用した自動登録制度へ移行する。
- 徴兵の終了: 1973年1月に徴兵による入隊が終了し、完全な志願制軍隊へ移行した。
- 歴史的規模: 第二次世界大戦中には、約1,000万人が徴兵によって軍に入隊した。
徴兵制の黎明期から南北戦争まで
米国の初期における徴兵の試みは、南北戦争(1861-1865年)において本格化しました。南部連合は1862年に18歳から35歳の白人男性を対象とした徴兵法を制定しましたが、制度としての運用は困難を極めました。

一方、北部(合衆国)では1862年の民兵法を経て、1863年に初の本格的な国家徴兵法である「登録法(Enrollment Act)」が成立しました。これにより20歳から45歳の男性市民および市民権申請中の移民が対象となりました。しかし、この強制的な動員は激しい反発を招き、ニューヨークなどで暴動が発生する事態となりました。

世界大戦と制度の洗練
第一次世界大戦の教訓
1917年に制定された選択的徴兵法は、南北戦争時の混乱を教訓に設計されました。宗教的な信念や家族の扶養義務、不可欠な職業に従事している場合などの免除規定を設けることで、社会的な摩擦を軽減し、国家全体の戦力を最適化することを目指しました。選出には国民的な抽選方式が採用され、地域の民間人で構成される委員会が運用を担いました。



しかし、制度が整ったとはいえ、登録を拒否した者や召集令状を無視した者が数十万人規模で存在し、平和主義を掲げる人々による抵抗も起こりました。

第二次世界大戦と平時徴兵の導入
1940年、ルーズベルト大統領は「選択的訓練および奉仕法」に署名し、米国史上初の平時における徴兵を開始しました。これは真珠湾攻撃以前の準備段階として導入されたもので、後に戦争が激化すると、対象年齢が18歳から64歳まで大幅に拡大されました。この時期には、約4,900万人が登録し、1,000万人以上が実際に軍へ入隊しました。

冷戦期からベトナム戦争、そして志願制へ
第二次世界大戦後も、冷戦の緊張から1948年に再び平時徴兵法が制定されました。特に朝鮮戦争などの有事には、医師などの専門職を優先的に徴用する「ドクター・ドラフト」などの仕組みも導入されました。また、徴兵の可能性が存在することが、結果的に多くの若者を志願入隊へと駆り立てる心理的効果を生んでいたとも分析されています。
ベトナム戦争期(1964-1973年)には、約176万人以上が徴兵されました。しかし、戦争への反対運動が激化し、徴兵カードを焼却するなどの抗議活動が社会現象となりました。


1973年1月、国防長官メルビン・レアードにより徴兵令の発行停止が発表され、米国軍は完全な志願制へと移行しました。その後、1974年にはジェラルド・フォード大統領が徴兵忌避者への特赦を宣言しました。

現代の登録制度と法的論争
1980年、ジミー・カーター大統領は再び若年男性へのSSS登録を義務付けました。これは実際の徴兵を行うためではなく、有事の際に迅速に動員できる体制を維持するためです。登録を拒否することは法律上、重罪とされていますが、1986年以降、実際に起訴された例はほとんどありません。
近年では、女性を徴兵登録に含めるべきだという議論や、男性のみに義務を課すことの違憲性を問う訴訟などが起きています。また、2003年には男女双方を軍事または市民サービスに徴用する法案が提出されましたが、否決されました。
徴兵実績のまとめ
| 紛争名 | 活動期間 | 徴兵者数(概数) |
|---|---|---|
| 第一次世界大戦 | 1917年9月 – 1918年11月 | 約281万人 |
| 第二次世界大戦 | 1940年11月 – 1946年10月 | 約1,011万人 |
| 朝鮮戦争 | 1950年6月 – 1953年6月 | 約153万人 |
| ベトナム戦争 | 1964年8月 – 1973年2月 | 約186万人 |
Frequently Asked Questions
現在も米国で徴兵は行われていますか?
いいえ、1973年以降、実際の徴兵による入隊は行われておらず、現在は完全な志願制となっています。
誰がSelective Service System(SSS)に登録する必要がありますか?
米国に居住する18歳から25歳のすべての男性(米国市民および、書類の有無にかかわらず居住している移民)が対象です。
登録を忘れた場合、どのようなペナルティがありますか?
法律上は禁錮刑や罰金などの重い罰則が定められていますが、実際には連邦政府の雇用や職業訓練プログラム、移民の場合は市民権の取得が拒否されるという不利益が主となります。
2026年から変更される点は何ですか?
これまで本人が行う必要があった登録手続きが、政府のデータベースを利用して「自動的」に行われる仕組みに変更されます。
女性が徴兵される可能性はありますか?
過去に男女双方を対象とする法案が提出されましたが、否決されました。現時点では登録義務は男性のみに課されています。
References
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- Webster, Daniel (January 1955) [1814]. United States Congress House Testimony 1814; cited in House Hearings Volume 2, January 1955. U.S. Government Printing Office.
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