ビデオ圧縮技術の最新規格であるVVC (Versatile Video Coding)、別名 H.266 は、従来の HEVC を継承し、より高効率なデータ圧縮を実現する規格です。超高解像度コンテンツの普及に伴い、この規格をサポートするエコシステムが急速に整備されつつあります。本記事では、現在の VVC 対応ソフトウェア、ハードウェア、および放送業界での導入状況について詳しく解説します。
主要な事実(Key Facts)
- 放送業界の採用: 欧州の DVB Project やブラジルの TV 3.0 で標準採用されており、次世代放送の基幹技術となっている。
- ハードウェア性能: 8K@120fps などの超高解像度・高フレームレート処理に対応した IP コアや SoC が登場している。
- ソフトウェアの進展: ffmpeg 7.1 で公式サポートが開始され、Windows や macOS の主要プレイヤーでも利用可能になっている。
- OS対応: Android 17 でストリーム形式と MIME タイプのサポートが追加された(実装は OEM 依存)。
VVC 対応ソフトウェアの現状
エンコーダーとデコーダー
VVC の実装には、参照ソフトウェアである VTM のほか、商用およびオープンソースの多様なツールが存在します。Fraunhofer HHI は、ソース利用可能なエンコーダー「VVenC」とデコーダー「VVdeC」を提供しています。また、Tencent Media Lab はリアルタイムデコーダーを提供しており、クラウドインフラを通じてトランスコーディングやストリーミングサービスを展開しています。オープンソース分野では、O266dec ライブラリや uvg266 エンコーダーが開発されています。
汎用的なマルチメディアフレームワークである ffmpeg は、バージョン 7.0 で実験的なデコードをサポートし、7.1 からは公式サポートへと昇格しました。2025年7月時点で、ソフトウェアデコーダーと QSV(Intel Quick Sync Video)ベースのハードウェアデコーダーの2種類が利用可能です。また、Windows 向けには LAV Filters(バージョン 0.79 以降)がデマルチプレクシングとデコードをサポートしています。さらに、LGPLv2.1 ライセンスの OpenVVC という不完全ながらもオープンソースのデコーダーライブラリも存在します。
商用ソリューションでは、Spin Digital が 8K@60 および 4K@120(共に 4:2:0 10-bit)に対応したリアルタイムソフトウェアエンコーダーを提供しています。
メディアプレイヤーと編集ソフト
エンドユーザーが VVC コンテンツを視聴するためのプレイヤーも増えています。Windows では、MPC-HC(clsid2版 v2.2.0以降)や MPC-BE(v1.7.0以降)、そして LAV Filters を介した Zoom Player Steam Edition(v19 beta 6以降)が対応しています。macOS では、2023年7月に対応した Elmedia Player や、バージョン 8.4 からサポートを開始した Infuse が利用可能です。また、Linux および Windows 向けに Spin Digital がリアルタイムデコーダー兼プレイヤーを販売しています。
動画編集の分野では、Windows 用の編集スイート VSDC がバージョン 11.2 から VVC をサポートしています。
ハードウェア実装とチップセット
VVC の高度な圧縮アルゴリズムを効率的に処理するため、専用のハードウェアアクセラレーションが不可欠です。多くの半導体メーカーが、デコーダー IP コアや SoC(System on Chip)の開発を進めています。
| メーカー | チップ/アーキテクチャ | タイプ | スループット/性能 |
|---|---|---|---|
| Allegro DVT | AL-D320 / AL-E320 | デコーダー/エンコーダー IP コア | 8K@120 |
| Amlogic | S905X5 | セットトップボックス SoC | 2x 4K@60 10 bit |
| Chips&Media | WAVE6 Gen2+ / WAVE63F1 | デコーダー IP コア | 8K@30 |
| Intel | Xe2-LPG / Xe3 | iGPU | - |
| MediaTek | Pentonic 2000 / 1000 / 800 / 700 | TV用 SoC | 8K@120 (2000) / 4K@144 (1000) |
| Realtek | RTD1319D | セットトップボックス SoC | 4K@60 |
| VeriSilicon | Hantro VC9000D / VC9800D | デコーダー | 8K@120 |
放送業界における VVC の導入
VVC は、次世代のデジタル放送規格において重要な役割を担っています。欧州、オーストラリアなどで広く利用されている DVB Project は、2022年2月に VVC を放送ツールの一部として組み込むことを発表しました。これにより、HEVC の後継として VVC (H.266) をサポートするチューナー仕様への改訂が行われています。
また、ブラジルの SBTVD フォーラムが推進する放送システム「TV 3.0」(2025年8月開始)でも MPEG-I VVC が採用されました。ここでは、放送およびブロードバンド配信のビデオベースレイヤーエンコーダーとして、MPEG-5 LCEVC と併用して運用されています。
その他の研究開発プロジェクト
標準的な実装以外にも、実験的な取り組みが行われています。例えば「Frameforge」は、SystemVerilog RTL によるハードウェアビデオ圧縮、Rust によるソフトウェアモデル、VVC/H.266 ビットストリーム生成、およびハードウェア・ソフトウェア検証を組み合わせたオープンソースの実験的プロジェクトです。
Frequently Asked Questions
VVC (H.266) とはどのような規格ですか?
VVC は Versatile Video Coding の略で、HEVC (H.265) の後継となる次世代ビデオ圧縮規格です。より高い圧縮効率を実現し、4K や 8K といった高解像度ビデオをより少ないデータ量で伝送することを目的としています。
Android で VVC を利用することはできますか?
Android 17 からストリーム形式と MIME タイプのサポートが追加されました。ただし、実際にデコードを行うための実装はデバイスメーカー(OEM)側で行う必要があるため、利用できるかは端末に依存します。
VVC 動画を再生できるおすすめのプレイヤーはありますか?
Windows では MPC-HC や MPC-BE、macOS では Infuse や Elmedia Player が対応しています。また、LAV Filters を導入することで、Zoom Player 等でも再生が可能です。
ffmpeg での VVC サポート状況はどうなっていますか?
ffmpeg はバージョン 7.0 で実験的なデコードをサポートし、バージョン 7.1 で公式サポートとなりました。現在はソフトウェアデコーダーのほか、Intel QSV ベースのハードウェアデコーダーが利用可能です。
VVC はどのような放送規格で採用されていますか?
欧州を中心とする DVB Project の規格や、ブラジルの次世代放送システム TV 3.0 などで採用されており、今後のデジタル放送の標準技術として期待されています。