現代のデジタルコンテンツ配信において、ビデオ圧縮技術は不可欠な要素です。その中で、EVC (Essential Video Coding) は、従来の規格が抱えていた複雑なライセンス問題への解決策として登場しました。ISO/IEC 23094-1として標準化されたこの規格は、2020年4月にMPEGワーキンググループ11によって正式に承認されました。
EVCの最大の特徴は、特許リスクを回避するために設計された独自の構造にあります。Samsung、Huawei、Qualcommによる提案をベースに開発されたこのコーデックは、コスト効率と性能のバランスをユーザーが選択できる柔軟性を備えています。
Key Facts
- 標準規格名: ISO/IEC 23094-1 (MPEG-5 Part 1)
- 策定完了: 2020年4月
- ライセンス形態: ロイヤリティフリーのベースラインと、個別に選択可能な拡張ツールのハイブリッド構成
- 互換性: AVCやHEVC向けに開発されたハードウェアアクセラレータ(デコーダー)との互換性を維持
- AI拡張: MPAI-EVCにより、ベースライン比で25%以上の性能向上が目標とされている
特許リスクを回避する独自の設計コンセプト
EVCは、特許侵害の脅威から開発者を守るため、「ベース」と「拡張」という2つのツールセットを定義しています。この二層構造により、ライセンス費用を完全に排除することも、費用を払って圧縮効率を高めることも可能です。
ロイヤリティフリーのベースライン
ベースラインに含まれるツールは、公開から20年以上経過しているか、あるいはISOの定義で「タイプ1(ロイヤリティフリー)」として宣言されたもののみで構成されています。これにより、誰でも追加費用なしに利用できる安全な実装が可能です。
柔軟に選択できる拡張ツール
一方で、さらに高い圧縮効率を求める場合は、21種類の「拡張ツール」を追加できます。これらのツールは個別に有効・無効を切り替えられるため、特定のツールでライセンス上の問題が発生した場合でも、その機能だけをオフにしてベースラインの代替ツールに切り替えることができます。この設計により、デコーダーの互換性を損なうことなく、将来的なライセンス変更に柔軟に対応できます。
実装状況とエコシステム
EVCの実用化に向けて、オープンソースのプロジェクトや主要なマルチメディアフレームワークでの対応が進んでいます。
代表的な実装として、C99で記述された高速オープンソースエンコーダーXEVE (eXtra-fast Essential Video Encoder) があります。XEVEはカスタム3条項BSDライセンスの下で提供されており、ベースラインおよびメインプロファイルの両方をサポートしています。
また、広く利用されているFFmpeg(バージョン7.1以降)においても、外部ライブラリを介したエンコードおよび、XEVD (eXtra-fast Essential Video Decoder) によるデコードが公式にサポートされています。
次世代の進化:MPAI-EVC
さらに、AI(人工知能)を融合させたMPAI-EVCへの取り組みが進んでいます。これは、従来の圧縮ツールをAIベースのツールに置き換え、または改善することで、EVCベースラインプロファイルと比較して少なくとも25%の性能向上を実現することを目的としています。
EVCの仕様まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 標準化団体 | ISO / MPEG |
| 標準番号 | ISO/IEC 23094-1 |
| ベースライン | 20年以上前の技術またはロイヤリティフリー宣言済みツール |
| 拡張ツール | 21種類の個別に切り替え可能な有料ツール |
| 主な実装 | XEVE (Encoder), XEVD (Decoder), FFmpeg 7.1+ |
| AI拡張目標 | MPAI-EVCによりベースライン比25%以上の効率化 |
Frequently Asked Questions
EVCは完全に無料で使用できますか?
ベースラインプロファイルのみを使用する場合、ロイヤリティフリーのツールで構成されているため無料で利用可能です。ただし、メインプロファイルに含まれる一部の拡張ツールを利用する場合は、個別のライセンス契約が必要になる場合があります。
既存のハードウェアで再生できますか?
EVCは、AVC (H.264) や HEVC (H.265) などの旧規格向けに設計されたハードウェアアクセラレータ(デコーダー)との互換性を考慮して設計されており、特にベースラインプロファイルにおいてその互換性が維持されています。
XEVEとは何ですか?
XEVEは、C99言語で開発された高速なオープンソースのEVCエンコーダーです。ベースラインとメインプロファイルの両方をサポートしており、効率的なビデオ圧縮を実現します。
MPAI-EVCは何が違うのですか?
MPAI-EVCは、従来の数学的な圧縮手法にAIベースのツールを導入したものです。これにより、標準的なEVCベースラインよりも大幅に高い圧縮効率(25%以上の向上)を目指しています。
FFmpegでEVCを利用する方法は?
FFmpegバージョン7.1以降では、公式の外部ライブラリ(XEVEなど)およびデコーダーライブラリ(XEVD)を介して、EVCのエンコードとデコードを行うことが可能です。
References
- Pennington, Adrian (6 April 2019). "NAB 2019: Five trends to watch". . Archived from the original on 3 April 2019. Retrieved 6 April 2019.
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I saw the danger coming and designed a strategy for it. This would create two tracks in MPEG: one track producing royalty free standards (Option 1, in ISO language) and the other the traditional Fair Reasonable and Non Discriminatory (FRAND) standards (Option 2, in ISO language).
- Samuelsson, Jonatan; Choi, Kiho; Chen, Jianle; Rusanovskyy, Dmytro (2020). "MPEG-5 Part 1: Essential Video Coding". SMPTE Motion Imaging Journal. 129 (7). SMPTE: 10–16. :10.5594/JMI.2020.3001795. 225463271. Archived from the original on November 7, 2020. Retrieved 26 June 2021.
- McCann, Ken. "MPEG-5 Essential Video Coding (EVC)" (PDF). itu.int/en/ITU-T/Workshops-and-Seminars/20191008/Documents.
EVC uses a novel profile structure. The Baseline profile includes only technologies that are more than 20 years old or that were submitted with a royalty‑free declaration. In contrast, the Main profile adds a small number of additional tools that can be switched off independently—allowing decoders (including hardware accelerators originally developed for older standards such as AVC/HEVC) to continue operating on the Baseline profile.
- Ozer, Jan (October 15, 2019). "Inside MPEG's Ambitious Plan to Launch 3 Video Codecs in 2020". Retrieved June 12, 2020.
Though the EVC Main profile uses royalty-bearing "tools," these can be switched on and off with "limited loss of performance." This was the model deployed by Divideon and their xvc codec, and, in theory, it allows those deploying the technology to pick and choose both the performance and the associated royalty cost. (…) Two proposals were submitted in response to MPEG's call for proposals for MPEG-5 Part 1, and MPEG selected the proposal from Samsung, Huawei, and Qualcomm
- "eXtra-fast Essential Video Encoder (XEVE)". January 9, 2023 – via GitHub.