地球の内部から放出される火山ガスは、活火山だけでなく休火山からも排出される重要な物質です。これらのガスは、マグマや溶岩に溶け込んでいたもの、岩石の隙間に閉じ込められていたもの、あるいは火山活動で加熱された地下水を通じて地表に現れます。火山ガスは単なる噴火の副産物ではなく、地球内部の化学組成や活動状態を教えてくれる貴重な情報源となります。
ガスの供給源は多岐にわたり、マントル由来の原始的な成分から、地殻を通過する際に取り込まれた物質、さらには地下水や大気中の成分まで含まれています。このように、加熱によって気化しやすい物質は「揮発性物質」と呼ばれ、火山の挙動を左右する大きな要因となります。
Key Facts
- 主成分: 水蒸気が最も多く(60%以上)、次いで二酸化炭素(10〜40%)が大きな割合を占める。
- 放出形態: 激しい噴火時だけでなく、非噴火時の「受動的脱ガス」によって長期間にわたり放出され続ける。
- 環境への影響: 土壌や水の化学組成を変化させ、周辺の生態系に影響を与える。
- 観測の意義: ガスの成分や放出量の変化を分析することで、噴火の兆候を事前に察知できる。
- 人間活動との比較: 火山からの二酸化炭素放出量は、人類による化石燃料消費などの排出量に比べて極めて少ない。
火山ガスの組成と発生メカニズム
火山ガスの成分は、火山の場所やテクトニクス設定(プレートの境界条件)によって異なります。共通して最も多いのは水蒸気ですが、次いで二酸化炭素(CO2)、そして温度に応じて二酸化硫黄(SO2:高温時)や硫化水素(H2S:低温時)が含まれます。その他、窒素、アルゴン、ヘリウムなどの希ガスや、塩化水素、フッ化水素などのハロゲン化合物も検出されます。
特に、プレートの沈み込み帯にある火山では、海水がマグマに取り込まれるため、ホットスポットや海嶺の火山よりも水蒸気や塩素の含有量が多くなる傾向があります。

マグマからの脱ガスプロセス
マグマに溶け込んでいる揮発性成分の溶解度は、温度、圧力、およびマグマの組成に依存します。マグマが地表に向かって上昇し、周囲の圧力が低下すると、溶解度が下がり、ガスが気泡として分離する「脱ガス」が始まります。
この気泡の挙動はマグマの粘性によって異なります。粘性が低い場合は気泡が合体して上昇し、ストロンボリ火山のように小さな爆発を繰り返すことがあります。一方、粘性が高い場合は気泡がネットワーク状に留まり、ガスが逃げ場を失うとマグマが細かく砕かれ、激しい爆発的噴火へと発展します。

閉鎖系と開放系の脱ガス
脱ガスには大きく分けて2つのモデルがあります。「閉鎖系」では、ガスと親マグマが平衡状態を保ったまま共に上昇します。一方、「開放系」では、分離したガスが上のマグマ層を通り抜けて上昇するため、地表で観測されるガスは異なる深さで分離したガスの平均的な組成となります。
低温ガスと熱水系への影響
上昇するマグマ由来のガスが地下水(天水)と接触すると、蒸気が発生し、複雑な熱水系が構築されます。この高温の混合流体は周囲の岩石から成分を溶かし出し、流体のpHを低下させます。地表に達したこれらの低温ガス(400°C未満)は、温泉や蒸気として放出されます。深海では、これらの過飽和流体が冷たい海水と出会い、「ブラックスモーカー」と呼ばれる巨大な煙突状の構造物を形成します。
このような熱水による浸出や鉱物の再沈殿プロセスは、地質学的な時間をかけて経済的に価値のある鉱床を形成する重要なメカニズムとなっています。

非爆発的な放出形態
ガスは必ずしも噴火に伴って放出されるわけではありません。岩盤の割れ目を通じた「移流」や、広範囲の透過性地盤から染み出す「拡散脱ガス」という形態があります。特に、硫黄が沈殿してできた噴気孔は「フマロール」と呼ばれ、100°C以下の低温なものは「ソルファタラ」、二酸化炭素が主成分の冷たい放出点は「モフェット」と区別されます。
地球環境への影響と排出量
火山ガスの中でも、温室効果ガスであるCO2と、気候や生態系に影響を与えるSO2が特に注目されています。興味深いことに、年間の総排出量で見ると、激しい噴火時よりも、静穏期にゆっくりと放出される「受動的脱ガス」による量の方が圧倒的に多いことが研究で示されています。
| ガス成分 | 噴火時の年間平均排出量 | 非噴火時(受動的脱ガス)の年間平均 |
|---|---|---|
| 二酸化硫黄 (SO2) | 約 2.6 Tg | 約 23.2 ± 2 Tg |
| 二酸化炭素 (CO2) | 約 1.8 ± 0.9 Tg | 約 51.3 ± 5.7 Tg |
もちろん、ピナトゥボ山(1991年)のような巨大噴火では、短期間に膨大な量のSO2(約18±4 Tg)が放出され、地球規模の気候変動を引き起こすことがあります。しかし、長期的な視点では受動的な放出が支配的です。また、人類による化石燃料消費によるCO2排出量(年間約34.1 Gt)と比較すると、火山の寄与はごく一部に過ぎません。

観測技術と噴火予測
ガスの組成変化は、地下のマグマの動きを直接的に反映するため、噴火予測の強力なツールとなります。例えば、CO2濃度の急上昇は、深部から新しい揮発性成分に富んだマグマが注入されたサインである可能性があります。
現代の観測では、以下のような手法が組み合わせて用いられています。
- 直接サンプリング: ギゲンバッハ瓶などの特殊な容器を用いてガスを回収し、ガスクロマトグラフィーや質量分析計で詳細に分析する。
- 遠隔センシング: DOAS(差分光吸収分光法)やFTIR(フーリエ変換赤外分光法)を用い、ガス雲(プルーム)を外から分析してSO2などの量を推定する。
- インサイチュ測定: 電気化学センサやMulti-GASシステムを用いて、火口付近でリアルタイムに成分比を測定する。
火山ガスによるリスクと危険性
火山ガスは、直接的な死因となるだけでなく、環境破壊の原因にもなります。主な危険性は以下の通りです。
- 酸性腐食と窒息: 強い酸性を持つガスによる組織の腐食や、酸素濃度の低下による窒息。
- エアロゾルの形成: SO2などが大気中で粒子化し、視程の悪化や酸性雨をもたらす。
- 低地への蓄積: CO2などの重いガスが、風のない日の低地に溜まり、人間や動物に深刻な影響を与える。
- 生態系への影響: 土壌や地下水の酸性化が進み、植物の枯死や水質悪化を招く。
Frequently Asked Questions
火山ガスの中で最も量が多いのは何ですか?
水蒸気(H2O)です。通常、全放出量の60%以上を占めており、次いで二酸化炭素(CO2)が多く含まれています。
噴火していない火山からもガスは出ているのですか?
はい。受動的脱ガスと呼ばれるプロセスにより、非噴火時でも長期間にわたってガスが放出され続けています。実際、年間の総排出量は噴火時よりもこの受動的な放出量の方が多いことが分かっています。
火山ガスは地球温暖化に大きく影響していますか?
自然な炭素循環の一部として重要ですが、現代の地球温暖化の主因ではありません。人類による化石燃料の燃焼やセメント製造によるCO2排出量は、火山からの排出量を遥かに上回っています。
ガス観測でどのように噴火を予測するのですか?
ガスの成分比(例:CO2/SO2比)や放出量の急激な変化を監視します。これにより、地下深部で新しいマグマが上昇してきたことや、圧力系が変化したことを察知し、地震や地殻変動のデータと合わせて分析します。
火山ガスによる健康被害にはどのようなものがありますか?
二酸化硫黄などの酸性ガスによる呼吸器への刺激や腐食、また二酸化炭素が低地に蓄積することによる窒息などが挙げられます。また、目に見えない拡散脱ガスエリアでは、気づかないうちに高濃度のガスにさらされる危険があります。
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