物質は温度や圧力の変化によって、固体、液体、気体という異なる「相」の間を行き来します。通常、これらの状態が同時に安定して存在することは困難ですが、特定の条件下では3つの相が完璧なバランスで共存する瞬間があります。この特別な地点を熱力学では三重点と呼びます。
三重点は、物質の相転移を示す「昇華曲線」「融解曲線」「蒸発曲線」の3本が一点で交わる場所です。例えば、水銀の場合、温度が−38.8 °C、圧力が0.165 mPaの時にこの状態となります。

Key Facts
- 定義:固体・液体・気体の3つの相が熱力学的平衡状態で共存する唯一の温度と圧力のこと。
- 水の三重点:約273.16 K(0.01 °C)、圧力611.657 Paで発生する。
- 温度基準:ITS-90(国際温度尺度)において、水素や水などの三重点が温度定義の基準点として利用されている。
- 相の多様性:多形を持つ物質では、複数の固体相が関与する三重点が存在する場合がある。
- 特異例:ヘリウム4は昇華曲線を持たないため、通常の固体・液体・気体の三重点が存在せず、超流動相などが関わる特殊な三重点を持つ。
水の三重点とその物理的特性
水における三重点は、科学的に極めて重要な意味を持ちます。具体的には、温度273.16 ± 0.0001 K、蒸気圧611.657 Paという条件下で、氷(固体)、水(液体)、水蒸気(気体)が安定して共存します。
注目すべきは、液体としての水が存在できるのは、圧力がこの三重点以上のときだけであるという点です。例えば、宇宙空間のような極低圧環境では、氷に熱を加えても液体にならず、直接気体へと変化する「昇華」が起こります。一方で、三重点以上の圧力下では、氷は加熱されるとまず融解して液体になり、その後沸点に達して蒸発するという段階を踏みます。

水における特異な挙動
多くの物質にとって、三重点は液体が存在しうる最低温度となります。しかし、水は例外的な性質を持っています。水の相図を見ると、圧力をかけることで氷の融点が下がるという特異な挙動(点線で示される挙動)が見られます。そのため、三重点直下の圧力において、一定温度で圧縮を行うと「気体→固体→液体」という順で相が変化します。
高圧環境下での複雑な相変化
極めて高い圧力がかかると、水は単なる「氷」ではなく、15種類もの異なる氷の相(高圧相)を持つことが分かっています。これにより、複数の三重点が出現します。
例えば、温度251 K(−22 °C)、圧力210 MPaの地点では、通常の氷(氷Ih)、氷III、そして液体の水が共存します。また、固体相のみが3つ共存する場合もあり、氷II、氷V、氷VIが共存する三重点は218 K(−55 °C)、620 MPaで発生します。

水の相平衡まとめ
| 共存する相 | 圧力 | 温度 |
|---|---|---|
| 液体の水、氷Ih、水蒸気 | 611.657 Pa | 273.16 K (0.01 °C) |
| 液体の水、氷Ih、氷III | 209.9 MPa | 251 K (−22 °C) |
| 液体の水、氷III、氷V | 350.1 MPa | −17.0 °C |
| 液体の水、氷V、氷VI | 632.4 MPa | 0.16 °C |
| 氷Ih、氷II、氷III | 213 MPa | −35 °C |
| 氷II、氷III、氷V | 344 MPa | −24 °C |
| 氷II、氷V、氷VI | 626 MPa | −70 °C |
温度測定への応用と三重点セル
三重点の最大の特徴は、物質の純度が高ければ、誰がどこで測定しても常に同一の温度と圧力が得られるという「再現性」にあります。これを利用したのが三重点セルです。
これは、極めて純度の高い物質(99.9999%の純度、いわゆる「シックスナイン」)を封入した容器で、温度計の校正に使用されます。水の場合、同位体組成を一定にしたVSMOW(標準平均海水)が用いられます。国際温度尺度「ITS-90」では、水素、ネオン、酸素、アルゴン、水銀、水の三重点が、温度を定義するための重要な基準点として採用されています。
主要物質の三重点一覧
以下に、代表的な物質の気体・液体・固体三重点を示します(標準大気圧は101.325 kPa)。
| 物質 | 温度 [K] (°C) | 圧力 [kPa] (atm) |
|---|---|---|
| 水素 | 13.8033 K (−259.3467 °C) | 7.04 kPa (0.0695 atm) |
| アルゴン | 83.8058 K (−189.3442 °C) | 68.9 kPa (0.680 atm) |
| 二酸化炭素 | 216.55 K (−56.60 °C) | 517 kPa (5.10 atm) |
| 水銀 | 234.3156 K (−38.8344 °C) | 1.65 × 10 kPa (1.63 × 10 atm) |
| 水 | 273.16 K (0.01 °C) | 0.611657 kPa (0.00603659 atm) |
| ヨウ素 | 386.65 K (113.50 °C) | 12.07 kPa (0.1191 atm) |
Frequently Asked Questions
三重点と臨界点は何が違うのですか?
三重点は「固体・液体・気体」の3つの相が共存する点ですが、臨界点は「液体と気体」の区別がなくなる温度と圧力の点であり、それ以上の状態は超臨界流体と呼ばれます。
水の三重点は0°Cではないのですか?
厳密には0.01 °C(273.16 K)です。私たちが一般的に言う「氷点(0 °C)」は、標準大気圧(1 atm)における融点を指しており、三重点とは圧力が異なるため、わずかに温度が異なります。
なぜ三重点が温度計の校正に使われるのですか?
三重点は物質固有の物理定数であり、不純物がなければ環境に左右されず常に一定の温度を再現できるため、極めて精度の高い基準として利用可能です。
三重点以下の圧力では何が起こりますか?
三重点よりも低い圧力下では、液体相が存在できなくなります。そのため、固体に熱を加えると液体にならずに直接気体になる「昇華」という現象が起こります。
すべての物質に三重点はありますか?
ほとんどの物質に存在しますが、例外もあります。例えばヘリウム4は、通常の固体・液体・気体が共存する三重点を持たず、超流動相などが関わる特殊な共存点を持つことで知られています。
References
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