私たちの太陽系にある岩石惑星(水星、金星、地球、火星)および地球の衛星である月、そして準惑星ケレスには、それぞれ異なる形態と量で水が存在しています。かつては一部の天体は完全に乾燥していると考えられていましたが、近年の探査データは、揮発性物質としての水が太陽系の至る所に分布していることを明らかにしました。これらの水がどのようにして供給され、なぜ天体ごとに量に差が出たのかを探ることは、惑星進化を理解する鍵となります。

Key Facts
- 地球は全質量の約0.04%が水であると推定され、地殻とマントルに広範に保持している。
- 火星の極地には大量の水氷が存在し、過去には数百メートルの深さに相当する水に覆われていた可能性がある。
- 金星は現在極めて乾燥しているが、重水素比率(D/H比)から過去には地球の海洋に匹敵する水を持っていた可能性が示唆されている。
- 水星は太陽に近いため揮発性物質に乏しいと考えられていたが、実際には揮発性物質に富んでいることが判明した。
- 月の火山ガラスや岩石サンプルから、内部に水が含まれていることが科学的に証明されている。
各天体における水の現状と在庫量
地球:生命を育む水の惑星
地球の水圏には約1.46×1023 kgの水が存在し、さらに堆積岩の中に約0.21×1023 kgが含まれています。地殻全体の在庫量は約1.67×1023 kgに達します。また、マントル内にも0.5×1023〜4×1023 kgという相当量の水が潜んでいると考えられており、地球全体の質量に対する水の割合は控えめに見て約0.04%と推定されています。
火星:氷に覆われた赤い惑星
火星では、極地付近の地下に大量の水が存在することが確認されています。南極地域だけで、地球全体を11メートルの深さで覆う量(WEG)に相当する水氷があるとの推計があります。全極地を合わせるとWEG 30メートルに達し、地質学的な履歴を辿れば、かつてはWEG 500メートルという膨大な量の水が表面に存在した可能性が高いとされています。ただし、現在の低気圧(約6hPa)と低温環境では、液体としての水は不安定であり、ほとんどが氷か微量の水蒸気として存在しています。
金星:失われた海洋の謎
現在の金星大気中の水蒸気量はわずか200 mg/kg程度であり、過酷な高温高圧環境のため表面に水が存在することは不可能です。しかし、水素(1H)に対する重水素(2H)の比率(D/H比)を分析すると、地球の標準海水(VSMOW)の約120倍という極めて高い値を示しています。これは、軽い水素が宇宙空間へ逃げ出した結果であり、かつての金星には地球の水圏の少なくとも0.3%から、最大で地球の海一つ分に相当する水が存在していたことを示唆しています。
水星と月:意外な水の保持
水星は太陽に極めて近いため、長らく揮発性物質を持たない天体とされてきました。しかし、Mariner 10やMESSENGERによる探査の結果、外圏に水素、ヘリウム、酸素が検出され、特に極域に揮発性物質が存在することが分かりました。また、カリウム(K)の含有量から、太陽との距離さえ離れていれば地球と同等かそれ以上の水を蓄積できた可能性が指摘されています。
一方、月においても水は不可欠な要素であることが判明しています。アポロ計画で回収された岩石や火山ガラスの分析により、噴火前には260〜745 ppm wtという濃度の水が含まれていたことが分かりました。月のマントル源には約110 ppm wt、月全体のケイ酸塩部分には100〜300 ppm wtの水が含まれていると推定されています。
水の供給源とアクレション(集積)のメカニズム
岩石惑星がどのようにして水を得たのかを解明する最大の指標がD/H比(重水素・水素比)です。これを炭素質コンドライト(隕石の一種)や彗星の比率と比較することで、水の由来を推定できます。
外部からの供給モデル
地球の場合、彗星による寄与は10%未満とされ、小惑星帯の外側(2.5 AU以遠)で形成された水星サイズの惑星胚が水を運んできたという説が有力です。火星については、隕石の分析から得られた初期のD/H比に基づき、地球の水圏の6%〜27%に相当する量を集積したと考えられています。これは小惑星と彗星の両方から供給を受けたモデルと整合します。
物理吸着モデルという代替案
外部からの衝突以外に、太陽系形成時の星雲ガスから直接水を取り込んだ「物理吸着(physisorption)」という説があります。このモデルでは、500Kの高温環境下でも粒子表面に水が保持され、地球の水圏の数倍に相当する量を確保できた計算になります。この説は、特定の同位体比の不一致という問題を回避できるメリットがありますが、木星や土星の大気から推定される星雲のD/H比が地球のVSMOW値より大幅に低い(約8分の1)ため、依然として議論が続いています。
岩石天体における水在庫のまとめ
| 天体 | 現在の主な形態 | 推定在庫量・特徴 | 過去の推定状態 |
|---|---|---|---|
| 水星 | 極域の揮発性物質 | 揮発性物質に富む | 形成初期に水を蓄積した可能性 |
| 金星 | 微量の大気水蒸気 | 極めて乾燥(D/H比が高い) | 地球の海洋相当の水を保持 |
| 地球 | 液体(海洋)・地殻・マントル | 全質量の約0.04% | 安定した水圏を維持 |
| 月 | 岩石・ガラス内部の結合水 | 内部に100-300 ppm wt | マグマオーシャン期に大量に存在 |
| 火星 | 極地の氷・地下氷 | WEG 30m(極地合計) | WEG 500mの表面水が存在 |
Frequently Asked Questions
金星に水がほとんどないのはなぜですか?
金星の極端な高温高圧環境では水が不安定であり、大気中の水素が太陽風などの影響で宇宙空間へ流出したためです。高いD/H比は、軽い水素が優先的に失われた証拠とされています。
月のような乾燥した天体にどうやって水が存在できるのですか?
表面にはほとんどありませんが、火山ガラスの気泡の中や岩石の結晶構造の中に、化学的に結合した形で水(OH基など)が保持されています。これは内部マントルから供給されたものです。
火星の「WEG」とは何を意味しますか?
WEG(Water Equivalent to a Global layer)とは、「もしその天体にある全ての水を均一に表面に広げた場合、どれだけの深さ(厚み)になるか」を示す指標です。
地球の水は彗星からやってきたのでしょうか?
かつては有力な説でしたが、現在の同位体比分析では彗星の寄与は10%未満と低く見積もられています。むしろ小惑星帯付近で形成された惑星胚などの小惑星由来の水が主であると考えられています。
水星に水があるというのは本当ですか?
はい。表面に海はありませんが、MESSENGERなどの探査機により、極域に揮発性物質が存在することが確認されており、太陽系で最も乾燥しているとは言い切れないことが分かっています。
References
- Broadfoot, A. L.; Shemansky, D. E.; Kumar, S. (1976). "Mariner 10: Mercury atmosphere". Geophysical Research Letters. 3 (10): 577–580. :1976GeoRL...3..577B. :10.1029/gl003i010p00577. 0094-8276.
- Slade, M. A.; Butler, B. J.; Muhleman, D. O. (1992-10-23). "Mercury Radar Imaging: Evidence for Polar Ice". Science. 258 (5082): 635–640. :1992Sci...258..635S. :10.1126/science.258.5082.635. 0036-8075. 17748898. 34009087.
- Evans, Larry G.; Peplowski, Patrick N.; Rhodes, Edgar A.; Lawrence, David J.; McCoy, Timothy J.; Nittler, Larry R.; Solomon, Sean C.; Sprague, Ann L.; Stockstill-Cahill, Karen R.; Starr, Richard D.; Weider, Shoshana Z. (2012-11-02). "Major-element abundances on the surface of Mercury: Results from the MESSENGER Gamma-Ray Spectrometer". Journal of Geophysical Research: Planets. 117 (E12): n/a. :2012JGRE..117.0L07E. :10.1029/2012je004178. 0148-0227.
- Peplowski, Patrick N.; Lawrence, David J.; Evans, Larry G.; Klima, Rachel L.; Blewett, David T.; Goldsten, John O.; Murchie, Scott L.; McCoy, Timothy J.; Nittler, Larry R.; Solomon, Sean C.; Starr, Richard D. (2015). "Constraints on the abundance of carbon in near-surface materials on Mercury: Results from the MESSENGER Gamma-Ray Spectrometer". Planetary and Space Science. 108: 98–107. :2015P&SS..108...98P. :10.1016/j.pss.2015.01.008. 0032-0633.
- Peplowski, Patrick N.; Klima, Rachel L.; Lawrence, David J.; Ernst, Carolyn M.; Denevi, Brett W.; Frank, Elizabeth A.; Goldsten, John O.; Murchie, Scott L.; Nittler, Larry R.; Solomon, Sean C. (2016-03-07). "Remote sensing evidence for an ancient carbon-bearing crust on Mercury". Nature Geoscience. 9 (4): 273–276. :2016NatGe...9..273P. :10.1038/ngeo2669. 1752-0894.
- Greenwood, James P.; Karato, Shun-ichiro; Vander Kaaden, Kathleen E.; Pahlevan, Kaveh; Usui, Tomohiro (2018-07-26). "Water and Volatile Inventories of Mercury, Venus, the Moon, and Mars". Space Science Reviews. 214 (5): 92. :2018SSRv..214...92G. :10.1007/s11214-018-0526-1. 0038-6308. 125706287.
- (2005), Report of Investigation
- Kulikov, Yu. N.; Lammer, H.; Lichtenegger, H. I. M.; Terada, N.; Ribas, I.; Kolb, C.; Langmayr, D.; Lundin, R.; Guinan, E. F.; Barabash, S.; Biernat, H. K. (2006). "Atmospheric and water loss from early Venus". Planetary and Space Science. 54 (13–14): 1425–1444. :2006P&SS...54.1425K. 10.1.1.538.9059. :10.1016/j.pss.2006.04.021.
{{}}: Cite uses deprecated parameter|citeseerx=() - Drake, M. J. (2005). "Origin of water in the terrestrial planets". Meteoritics & Planetary Science. 40 (4): 519–527. :2005M&PS...40..519D. :10.1111/j.1945-5100.2005.tb00960.x.
- Owen, (2007), news.nationalgeographic.com/news/2007/11/071128-venus-earth_2.html