宇宙の深淵を探るため、人類は地上だけでなく、空高くへと視線を向けました。SOFIA(成層圏赤外線天文台)は、NASAとドイツ航空宇宙センター(DLR)が共同で運営した、世界でも類を見ない「空飛ぶ天文台」です。高度1万メートルを超える成層圏まで上昇し、地上の望遠鏡では捉えきれない宇宙の赤外線を観測することで、星の誕生や銀河の中心など、宇宙の謎に迫りました。
Key Facts
- 正体:ボーイング747SPを改造した航空機搭載型の赤外線天文台。
- 目的:大気中の水蒸気による赤外線の吸収を避け、高精度な天体観測を行うこと。
- 主要設備:直径2.5メートルのカセグレン式反射望遠鏡を搭載。
- 運用期間:2010年の初観測から2022年9月29日の最終飛行まで。
- 成果:月面での水分子の検出や、火星大気中の酸素検出などに貢献。
空飛ぶ天文台の仕組みと優位性
赤外線天文学における最大の課題は、地球の大気中に含まれる水蒸気が赤外線を吸収してしまうことです。SOFIAはこの問題を解決するため、高度約12kmから13.7kmという成層圏まで上昇して観測を行いました。この高度では、大気中の水蒸気の大部分を突破できるため、赤外線波長の約85%を観測することが可能になります。
また、地上設置型の望遠鏡とは異なり、航空機であるため地球上のほぼあらゆる地点の上空へ移動でき、北半球と南半球の両方から天体を観測できるという柔軟性を備えていました。

高度な光学システム
機体に搭載されたのは、直径2.5メートルの反射望遠鏡です。主鏡には熱膨張が極めて少ないガラスセラミック素材のゼロデュアが採用され、極限環境下でも精度を維持できるよう設計されました。光学系にはカセグレン方式が用いられ、機体内部の限られたスペースに収めるため、特殊な形状の主鏡と遠隔操作可能な副鏡を組み合わせています。
観測された赤外線は、三次鏡(ダイクロイックミラー)によってナスミス焦点へと導かれ、そこで装着された各種科学観測装置によって分析されました。

機体「ボーイング747SP」の物語
SOFIAのベースとなったのは、ボーイング747の短胴型モデルである747SP(スペシャル・パフォーマンス)です。この機体はもともと超長距離飛行向けに設計されており、高い上昇能力と速度を持っていました。SOFIAとして運用されるにあたり、機体後方の左側に、飛行中に開閉可能な幅4.1メートル、高さ5.5メートルの巨大なドアが設置されました。

この機体には興味深い歴史があります。もともとはパンアメリカン航空で「クリッパー・リンドバーグ」として命名され、後にユナイテッド航空を経てNASAの手へと渡りました。2007年には、チャールズ・リンドバーグの孫であるエリック・リンドバーグ氏によって再び同名で再命名されるというエピソードも残っています。
科学的成果とミッションの完結
SOFIAは、10時間に及ぶ夜間飛行を繰り返し、彗星や星形成領域、銀河中心などの観測に従事しました。特に注目すべき成果として、以下の発見が挙げられます。
- 月面の水:太陽光が当たる月面において、水分子が存在することを検出。
- 火星の大気:約40年ぶりに火星大気中から原子状酸素を検出。
- 小惑星の組成:準惑星ケレスの表面が他の天体からの塵で覆われていることを解明し、小惑星上の水の検出にも成功。
しかし、高い運用コストと科学的生産性のバランスを考慮した結果、2022年9月29日に921回目の最終飛行を終え、その任務を完結しました。現在はアリゾナ州のピマ航空宇宙博物館に寄贈され、その姿を後世に伝えています。
SOFIA 概要まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 共同運営組織 | NASA / DLR / USRA / DSI |
| 使用機体 | ボーイング 747SP (登録番号 N747NA) |
| 望遠鏡口径 | 2.5メートル (主鏡 2.7メートル) |
| 観測波長 | 赤外線 (1~655μm) および 高速光学 (0.3~1.1μm) |
| 運用高度 | 約12km ~ 13.7km |
| 最終飛行日 | 2022年9月29日 |
Frequently Asked Questions
なぜわざわざ飛行機で観測を行うのですか?
地球の大気に含まれる水蒸気が赤外線を吸収してしまうため、地上からは特定の赤外線波長を観測することが困難だからです。成層圏まで上昇することで、この水蒸気の層を突き抜け、宇宙からの赤外線を直接捉えることができます。
SOFIAはどのような天体を観測していましたか?
主に星が誕生する領域、彗星、星雲、そして天の川銀河の中心部などを観測していました。また、月や火星、小惑星といった太陽系内の天体についても重要なデータを収集しました。
望遠鏡はどのようにして空に向けていたのですか?
機体後方の胴体に設置された巨大な専用ドアを飛行中に開放し、そこから2.5メートルの反射望遠鏡を外気(宇宙方向)にさらして観測を行っていました。
現在はどこでこの機体を見ることができますか?
ミッションを終えたボーイング747SP機は、アメリカ合衆国アリゾナ州ツーソン近郊にあるピマ航空宇宙博物館(Pima Air & Space Museum)に展示されており、一般公開されています。
References
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