夜空を見上げ、特定の星が常に同じ時刻に同じ位置に現れるとしたら、天体の観測は非常に効率的になります。しかし、私たちが日常的に使用している時計(太陽時)では、星の昇る時刻は毎日少しずつずれていきます。このズレを解消し、宇宙の座標系で天体の位置を正確に把握するために天文学者が利用するのが恒星時(こうせいじ)という時間体系です。
恒星時とは、簡単に言えば「遠くの固定された星々を基準とした地球の自転速度」に基づく時間尺度です。この基準を用いることで、天球上の天体が観測者の子午線を通過するタイミングを正確に予測することが可能になります。
Key Facts
- 恒星日は、地球が星に対して1回転する時間であり、太陽日より約4分短い。
- 1年(約365日)の間で、恒星日は太陽日よりもちょうど1回多くカウントされる。
- 恒星時は、地球の自転軸の揺れである歳差運動の影響を受ける。
- 現代の精密な測定では、恒星時に代わり地球回転角(ERA)という指標が用いられる。
恒星時と太陽時の根本的な違い
私たちが普段使っている「1日=24時間」という単位は、太陽が南中してから次に南中するまでの平均時間である平均太陽日に基づいています。しかし、地球は自転しながら同時に太陽の周りを公転しています。そのため、自転して1回転(360度)した時点では、公転による位置の変化があるため、太陽はまだ元の位置に戻っていません。太陽を再び同じ位置に見るためには、地球はさらに約1度分多く回転する必要があります。
一方で、恒星時は極めて遠方にある星を基準にするため、地球の公転による位置移動の影響をほとんど受けません。結果として、地球がちょうど1回転する時間である恒星日は、太陽日よりも短くなります。

具体的に、地球の恒星日は約86,164.09秒(23時間56分4.09秒)です。この「約4分の差」が毎日蓄積されるため、1年を通じると恒星日の回数は太陽日よりも1回多くなります。これは、地球が太陽の周りを1周することで、星から見て1回分余分に回転したことになるためです。

時間尺度の比較まとめ
| 項目 | 平均太陽時(日常の時間) | 恒星時(天文学の時間) |
|---|---|---|
| 基準となる天体 | 太陽 | 遠方の固定星 |
| 1日の長さ | 約24時間(86,400秒) | 約23時間56分4秒 |
| 1年間の日数 | 約365.24日 | 約366.24日 |
| 主な用途 | 社会生活、日時計 | 天体観測、座標特定 |
歳差運動と現代の定義
地球の自転軸は完全に固定されているわけではなく、コマのようにゆっくりと円を描いて回転しています。これを歳差運動と呼び、一周するのに約25,800年かかります。この現象により、基準となる「春分点」の位置がわずかに移動するため、厳密な意味での恒星日は、完全に固定された星に基づく回転周期(恒星回転周期)よりも約0.0084秒短くなります。
かつては、観測所の経線に星が通過する時間を計測し、星表と照らし合わせて時計を補正していましたが、1970年代以降、VLBI(超長基線電波干渉法)やパルサータイミングなどの高度な無線天文学の手法が登場しました。これにより、より精密な地球の回転状態を把握できるようになりました。
2003年からは、従来の恒星時に代わり、地球回転角(ERA: Earth Rotation Angle)という概念が導入されました。ERAは、天球上の固定された原点(天球中間原点)からの回転角をラジアンで測定するもので、歳差運動による原点の移動がないため、計算上の利便性が非常に高いのが特徴です。

それでも、過去のデータとの互換性や伝統的な天文学の慣習から、現在でも「地方恒星時(LST)」や「グリニッジ平均恒星時(GMST)」といった表記が使われています。これらはERAから歳差運動や章動(自転軸の微小な揺れ)の補正値を差し引くことで算出されます。

他の惑星における自転と公転の関係
恒星日と太陽日の関係は、地球以外の惑星でも同様に存在しますが、その比率は惑星の自転方向と速度によって大きく異なります。自転方向が公転方向と同じ「順行回転」の惑星では、地球と同様に太陽日が恒星日より長くなります。
しかし、金星や天王星のように自転方向が逆の「逆行回転」の惑星では、自転と公転が互いに補い合うため、太陽日が恒星日よりも短くなるという現象が起こります。例えば金星の場合、恒星日は地球日で約243日かかりますが、逆行回転の影響で太陽日は約116.75日となります。
Frequently Asked Questions
なぜ恒星時は太陽時より短いのですか?
地球が自転して360度回転したとき、同時に太陽の周りを公転しているため、太陽を再び同じ位置(南中)に見るには、さらに少しだけ多く回転する必要があるからです。星は非常に遠いため、公転による位置の変化が無視でき、360度の回転で元の位置に戻ります。
1年間に恒星日が1日多いのはなぜですか?
地球が太陽の周りを1周(公転)することで、星から見てちょうど1回分の追加回転が行われるためです。太陽から見た「1年」の間に、星から見ると「自転回数+1回」の回転が完了することになります。
地球回転角(ERA)と恒星時の違いは何ですか?
恒星時は春分点を基準にしていますが、春分点は歳差運動でゆっくり移動します。一方、ERAは天球上の固定された原点を基準にするため、原点自体が移動せず、より純粋な地球の回転量を測定できるという利点があります。
他の惑星でも「恒星日」という考え方は使われますか?
はい、使われます。天文学では特に指定がない限り、惑星の自転周期は恒星日(sidereal period)で表記されるのが一般的です。これにより、その惑星が物理的に1回転するのにかかる時間を正確に定義できます。
References
- A more precise definition is given below.
- "Sidereal day". www.britannica.com. Retrieved 30 April 2025.
- , "Glossary" s.v. hour angle, hour circle, sidereal time.
- , p. 78.
- .
- Bartlett, A. K. (1904). "Solar and Sidereal Time". . 12: 649–651. :1904PA.....12..649B.
- , p. 105.
- , Ch 3, "Systems of Time Measurement".
- , pp. 78–81, 112.
- "Celestial Intermediate Origin (CIO)". Glossary of the Conventions (2010). Archived from the original on 10 September 2015.
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