物質に力を加えた際、元の形状に戻ることなく永久的に形が変わる現象を塑性変形(Plasticity)と呼びます。これは材料科学や工学において極めて重要な概念であり、金属を曲げたり叩いて成形したりする加工プロセスの基礎となっています。一般的に、材料が弾性的な挙動から塑性的な挙動へと移行する境界を「降伏(Yielding)」と定義します。
多くの延性金属では、荷重をかけた直後は荷重に比例して伸びる「弾性変形」を示し、荷重を取り除けば元のサイズに戻ります。しかし、荷重が一定の閾値である降伏強度を超えると、変形速度が急激に増し、荷重を除去しても変形が残る塑性領域へと進入します。

Key Facts
- 塑性変形とは、応力を取り除いても回復しない不可逆的な形状変化のこと。
- 金属における塑性変形の主因は、結晶格子内の転位(Dislocations)の移動である。
- 加工硬化により、変形が進むほどさらに変形させるためにより高い応力が必要になる。
- 温度上昇は一般に金属の塑性を高め、熱間成形を可能にする。
- 降伏基準(トレスカやフォン・ミーゼス)を用いて、材料がいつ塑性変形を開始するかを判定する。
材料ごとの塑性メカニズム
塑性変形は多くの固体で観察されますが、その物理的な仕組みは材料の構造によって大きく異なります。
結晶性材料(金属など)
純金属の結晶では、主に「滑り(Slip)」と「双晶(Twinning)」という2つのモードで変形が起こります。滑りは原子面が互いにずれるせん断変形であり、転位の存在がこのプロセスを促進します。また、ナノスケールでは、特定の条件下で塑性変形が可逆的に起こる場合や、形状記憶合金に見られる擬弾性のような現象も確認されています。

非晶質および多孔質材料
ポリマーなどの非晶質材料には規則的な格子構造がないため、転位の概念は適用されません。代わりに、高静水圧応力領域でフィブリル(微細繊維)が形成されるクレイジング(Crazing)という現象が発生し、材料が白濁した外観を呈することがあります。一方、フォーム(泡)のようなセル状材料では、細胞壁の曲げモーメントが限界を超えた際の細胞再配置によって塑性が生じます。
土壌・岩石・コンクリート
粘土などの土壌では、粒子のクラスター再配置が塑性の主因となります。一方、岩石やコンクリートのような脆性材料では、微細なひび割れ(マイクロクラック)の形成と、それに伴う滑り運動が支配的です。
結晶における塑性流動の詳細
単結晶の挙動と温度依存性
単結晶の塑性流動は、臨界分解せん断応力($\tau_{CRSS}$)によって定義されます。これはシュミットの法則に従い、適用される荷重の方向と滑り面の角度によって決定されます。また、この応力値は温度によって3つの領域に分かれます。低温域では熱活性化が必要であり、中温域では温度に依存せず一定となりますが、高温域では拡散流動(ナバロ・ヘリング流動やコブル流動)などの時間依存的なメカニズムが支配的になります。

加工硬化のステージ
降伏後の塑性流動は、一般に3つの段階を経て進行します。第1ステージ(容易滑り)では低い硬化率で変形が進みますが、第2ステージ(線形硬化)では複数の滑り系が相互に干渉し、転位密度が増加するため、変形に大きな応力が必要となります。最終的に第3ステージ(飽和)に達すると、硬化率は再び低下します。

多結晶体における特性と粒界の影響
多結晶体は、単結晶とは異なり「粒界(Grain Boundary)」という欠陥が存在します。粒界は転位の移動を妨げる強力な障壁となり、個々の結晶粒内で転位が堆積することで応力勾配が生じます。これにより、多結晶体は一般に単結晶よりも高い強度を持つ傾向があります。
特に、粒径が小さいほど(微細粒であるほど)、転位が粒界に到達するまでの距離が短くなり、より多くの粒界障壁が存在するため、マクロな流動を開始させるためにより高い応力が必要となります。これは材料の強度を高める重要な手法となります。
塑性変形の数学的記述と判定基準
理論的アプローチ
塑性を記述する方法には、応力と歪みの関数として捉える「変形理論」と、転位論に基づき非線形方程式で状態変化を記述する「流動塑性理論」があります。前者は単純な荷重増加には有効ですが、塑性特有の不可逆性を完全に説明することは困難です。
降伏判定基準
材料がいつ塑性変形に至るかを判断するために、以下の2つの基準が広く用いられています。
- トレスカ基準:最大せん断応力が一定値に達したときに降伏すると考える理論。主に金属の破壊予測に適しています。
- フォン・ミーゼス基準:静水圧成分を除いた「有効応力(せん断エネルギー)」に基づき、楕円状の降伏曲面で判定する理論。


これらの基準により、応力状態が降伏曲面の内側にあれば弾性変形、表面に達すれば塑性変形が始まると判断されます。


まとめ:塑性特性の比較
| 材料タイプ | 主たるメカニズム | 特徴的な現象 | 強度への影響要因 |
|---|---|---|---|
| 単結晶金属 | 転位の滑り・双晶 | シュミットの法則 | 結晶方位、温度 |
| 多結晶金属 | 粒界による転位阻止 | 加工硬化、ホール・ペッチ効果 | 平均粒径(小さいほど強固) |
| 非晶質ポリマー | 自由体積の拡大 | クレイジング(白濁) | 分子構造、静水圧 |
| 岩石・コンクリート | マイクロクラックの滑り | 脆性的な塑性移行 | 微細構造、含水率 |
Frequently Asked Questions
弾性変形と塑性変形の決定的な違いは何ですか?
最大の違いは「可逆性」です。弾性変形は荷重を取り除くと元の形状に完全に戻りますが、塑性変形は荷重を除去しても永久的な変形が残り、元の状態には戻りません。
なぜ金属を叩き続けると硬くなるのですか?
これは「加工硬化」と呼ばれる現象です。変形が進むにつれて結晶内部に転位(格子の乱れ)が大量に発生し、それらが互いに移動を妨げ合うため、さらに変形させるためにより大きな力が必要になります。
温度が上がると塑性変形しやすくなるのはなぜですか?
熱エネルギーが供給されることで、転位が障害物を乗り越えやすくなる(熱活性化)ためです。また、高温域では原子の拡散が活発になり、転位の上昇(Climb)などの新たな変形メカニズムが働くため、より低い応力で変形が可能になります。
フォン・ミーゼス基準とトレスカ基準の使い分けは?
トレスカ基準は計算が単純で保守的な(安全側の)設計に向いており、最大せん断応力に注目します。一方、フォン・ミーゼス基準はせん断エネルギーに基づいたより精緻な近似であり、多くの延性金属の挙動をより正確に記述できるため、詳細な解析に用いられます。
多結晶体の方が単結晶より強いと言われるのはなぜですか?
多結晶体には「粒界」という境界線が無数に存在し、これが転位の移動を遮断する壁として機能するためです。特に粒が細かいほど壁の数が増え、材料全体の強度が向上します。
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