Tensile test of an Al-Mg-Si alloy. The local necking and the cup and cone fracture surfaces are typical for ductile metals.
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延性と展性の基礎知識材料科学における塑性変形のメカニズム

🗓 2026年8月10日

工業製品や建築構造物の設計において、材料が「どのように壊れるか」を理解することは極めて重要です。特に、強い力がかかった際にすぐに破断せず、形を変えて耐える能力は、安全性や製造効率に直結します。本記事では、材料科学の根幹をなす延性(えんせい)と展性(てんせい)について、そのメカニズムから定量的な評価方法までを詳しく解説します。

延性と展性の定義と違い

一般的に混同されやすい概念ですが、延性と展性は変形の方向によって区別されます。延性とは、材料を引っ張った(引張応力を加えた)際に、破断するまで大幅に伸びる性質を指します。一方、展性とは、叩いたり圧延したりして押し潰した(圧縮応力を加えた)際に、薄く広がる性質のことです。例えば、鉛は延性よりも展性が非常に高い材料として知られています。

これらの性質の根底にあるのが塑性変形です。これは、力を取り除いても元の形状に戻らない永久的な変形を指します。これに対し、力を除けば元に戻る変形は「弾性変形」と呼ばれます。延性が高い材料は、破断に至るまでに大きな塑性変形を許容できるため、曲げや引き伸ばしが必要な加工に適しています。

金は極めて高い延性を持ち、単原子レベルの極細ワイヤーにまで引き伸ばすことが可能です。

Gold is extremely ductile. It can be drawn into a monatomic wire, and then stretched more before it breaks.[12]

延性を決定づける科学的メカニズム

金属結合の役割

多くの金属が延性を示す理由は、その特有の金属結合にあります。金属結合では、価電子が特定の原子に固定されず、自由に動き回る「自由電子」として存在しています。このため、外部から力が加わった際に、原子同士が強い反発を受けることなく互いに滑り合うことができ、結果として材料全体が破断せずに変形します。

脆性材料との対比

一方で、セラミックスや半導体などの無機材料は脆性(ぜいせい)が強く、ほとんど塑性変形せずに突然破断します。これは、強いイオン結合や共有結合によって原子が強固に固定されており、原子の移動(転位の運動)が制限されているためです。金属の延性が1.2%から1200%以上の広い範囲に分布するのに対し、脆性材料の室温における延性は極めて低くなります。

延性の定量的な評価と測定

材料の延性は、主に引張試験によって数値化されます。代表的な指標は以下の2点です。

  • 破断伸び(%EL):元の長さに対する、破断時の伸び率。
  • 絞り(%RA):元の断面積に対する、破断箇所の断面積の減少率。

延性のある金属を引張試験にかけると、ある時点で局所的に断面積が減少するネック現象(くびれ)が発生し、最終的に「カップ・アンド・コーン」状の破断面を形成して破断します。

Tensile test of an Al-Mg-Si alloy. The local necking and the cup and cone fracture surfaces are typical for ductile metals.

対照的に、延性の低い材料(例えば球状黒鉛鋳鉄など)は、ほとんどくびれを作らずに破断します。

This tensile test of a nodular cast iron demonstrates low ductility.

また、試験片の形状(長さと直径の比率)によって測定される伸びの値が変動することがあり、より正確な評価にはネック発生時の歪みを特定することや、エネルギー吸収量を測る靭性試験の併用が推奨されます。

破断後の形状を比較すると、脆性破断、延性破断、そして完全な延性破断では、その外観に明確な差が現れます。

Schematic appearance of round metal bars after tensile testing. (a) Brittle fracture (b) Ductile fracture (c) Completely ductile fracture

延性脆性遷移温度(DBTT)の重要性

材料の延性は一定ではなく、温度によって劇的に変化します。ある温度を境に、材料の挙動が延性から脆性へと切り替わる温度を延性脆性遷移温度(DBTT)と呼びます。

温度がDBTT以下に下がると、材料は衝撃に対して曲がらずに粉砕しやすくなる「低温脆化」を起こします。この現象は歴史的に重大な事故を引き起こしました。例えば、第二次世界大戦中のリバティ船では、寒冷海域で船体に脆性破断が発生し、多くの船が沈没したことが知られています。

DBTTに影響を与える要因

  • 結晶構造:面心立方格子(fcc)構造の金属は広い温度範囲で延性を維持しますが、体心立方格子(bcc)構造のものは温度依存性が高く、DBTTが顕著に現れます。
  • 結晶粒径:一般に結晶粒を微細化すると、引張強度と延性が向上し、DBTTを低下させることができます。
  • 外部要因:中性子照射などの影響で格子欠陥が増えると、延性が低下しDBTTが上昇します。

Key Facts

  • 延性は引張時の塑性変形能であり、展性は圧縮時の変形能を指す。
  • 金属の延性は、自由電子による金属結合が原子の滑りを可能にすることで実現している。
  • 破断伸び絞りが延性を定量化する主要な指標である。
  • DBTT(延性脆性遷移温度以下では、材料は急激に脆くなり、衝撃で砕けやすくなる。
  • 純金は、あらゆる金属の中で最も高い延性と展性を持つ。
材料の機械的性質の比較
特性 延性材料(例:金、銅) 脆性材料(例:セラミックス、鋳鉄)
変形挙動 大きな塑性変形を伴う ほとんど変形せず破断する
結合様式 金属結合(自由電子) イオン結合・共有結合
破断面 くびれ(ネック)が見られる 平坦または不規則な破断面
加工適性 圧延、引き抜き、鍛造が可能 鋳造や熱成形が主

Frequently Asked Questions

延性と展性は同じ意味ですか?

厳密には異なります。延性は「引っ張った時の伸びやすさ」、展性は「叩いて広げた時の薄くなりやすさ」を指します。多くの金属はこの両方を備えていますが、材料によっては一方の性質がより強い場合があります。

なぜ低温になると金属は脆くなるのですか?

特にbcc構造の金属では、原子の滑り(転位の運動)に熱エネルギーが必要です。温度が下がるとこの運動が制限されるため、塑性変形ができなくなり、脆性破断が起こりやすくなります。

鋼の延性を変えるにはどうすればよいですか?

合金成分の調整が有効です。例えば、炭素含有量を増やすと一般に延性は低下します。また、結晶粒を微細化することで、強度を高めつつDBTTを下げる(延性を維持する)ことが可能です。

引張試験で得られる「伸び」の値は常に正確ですか?

いいえ。測定される伸びは試験片の寸法(アスペクト比)に依存するため、同じ材料でも形状によって値が異なることがあります。そのため、より普遍的な指標として「絞り(RA)」やネック発生時の歪みが重視されることがあります。

References

  1. "Malleability - Malleable Materials". Nuclear Power. Archived from the original on 2020-09-25. Retrieved 2020-11-14.
  2. DOE FUNDAMENTALS HANDBOOK MATERIAL SCIENCE. Vol. 1, Module 2 – Properties of Metals. U.S. Department of Energy. January 1993. p. 25.
  3. Brande, William Thomas (1853). A Dictionary of Science, Literature, and Art: Comprising the History, Description, and Scientific Principles of Every Branch of Human Knowledge : with the Derivation and Definition of All the Terms in General Use. Harper & Brothers. p. 369.
  4. Chandler Roberts-Austen, William (1894). An Introduction to the Study of Metallurgy. London: C. Griffin. p. 16.
  5. Rich, Jack C. (1988). The Materials and Methods of Sculpture. Courier Dover Publications. p. 129.  ..
  6. Callister, William D. (2015). Fundamentals of Materials Science and Engineering. Wiley.  .
  7. Tayler, Geoffrey Ingram (1934). "The mechanism of plastic deformation of crystals. Part 1.-Theoretical". Proceedings of the Royal Society A. 145 (855): 362–387. :1934RSPSA.145..362T. :10.1098/rspa.1934.0106.
  8. Budynas, Richard G. (2015). Shigley's Mechanical Engineering Design—10th ed. McGraw Hill. p. 233.  ..
  9. Ductility and its effect on material failure. The Engineering Archive. (n.d.). https://theengineeringarchive.com/material-science/page-ductility-material-failure.html
  10. Gren, David J. (1998). An introduction to the Mechanical Properties of Ceramics. Cambridge University Press.  .

📸 フォトギャラリー

Tensile test of an Al-Mg-Si alloy. The local necking and the cup and cone fracture surfaces are typical for ductile metals.
This tensile test of a nodular cast iron demonstrates low ductility.
Gold is extremely ductile. It can be drawn into a monatomic wire, and then stretched more before it breaks.[12]
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