応力(ストレス)の基礎知識:材料力学における定義とメカニズム

私たちの身の回りにあるあらゆる構造物や製品は、常に何らかの力にさらされています。重力や外部からの圧力、摩擦などが加わったとき、材料の内部でそれらの力に抵抗しようとする状態を応力(ストレス)と呼びます。応力を正しく理解することは、建築物の安全性確保や製品の耐久性設計において不可欠な要素です。

固体材料に力が加わり「ひずみ(変形)」が生じると、バネのように元の形状に戻ろうとする内部的な弾性応力が発生します。一方、液体や気体などの流体では、体積が変化する変形に対してのみ持続的な弾性応力が生じます。また、流体であっても変形速度が時間とともに変化する場合、その変化に抵抗する「粘性応力」が作用します。これら弾性と粘性の応力を総称して機械的応力と呼びます。

Mechanical stress

Key Facts

  • 定義: 応力とは、材料内部の仮想的な断面における単位面積あたりの力を指す。
  • 単位: 国際単位系(SI)ではパスカル(Pa)が用いられ、1 Pa = 1 N/m² と定義される。
  • 種類: 面に垂直に作用する「垂直応力」と、面に平行に作用する「せん断応力」に大別される。
  • 限界: 材料の強度限界を超えた応力が加わると、塑性流動や破断などの永久変形が生じる。
  • 表現: 複雑な3次元的な応力状態は、3×3の行列である「コーシー応力テンソル」で記述される。

応力の科学的な定義と表現

物理学的な視点で見ると、応力は「力」という物理量と「面積」という幾何学的量を組み合わせた量です。材料の性質に関わらず、ある断面に作用する力をその面積で割ることで定量化できます。

静止した流体の場合、力は常に面に垂直に作用するため、これは一般的に「圧力」として知られています。しかし、固体や粘性流体では、力が面に斜めに作用することがあります。そのため、応力は単なる数値(スカラー)ではなく、方向を持つベクトルとして扱う必要があります。

The stress across a surface element (yellow disk) is the force that the material on one side (top ball) exerts on the material on the other side (bottom ball), divided by the area of the surface.

さらに、材料内部の応力状態は、断面の向きによって変化します。このため、あらゆる方向の応力を包括的に表現するために「コーシー応力テンソル」という概念が導入されました。これは3×3の対称行列で表され、材料内の任意の点における応力状態を6つの独立したパラメータで定義できます。

Components of stress in three dimensions

応力の主な種類とメカニズム

垂直応力(Normal Stress)

断面に対して垂直に作用する応力です。大きく分けて、材料を引き伸ばそうとする引張応力と、押し潰そうとする圧縮応力があります。例えば、均一な断面を持つ棒の両端から軸方向に力を加えた場合、応力 $\sigma$ は荷重 $F$ を断面積 $A$ で割った値($\sigma = F/A$)で近似されます。

Idealized stress in a straight bar with uniform cross-section.

ただし、この単純な計算は応力が断面全体に均一に分布していることを前提としています。実際には、固定端付近などで応力分布が不均一になることがあり、この場合の $\sigma = F/A$ は「平均応力(公称応力)」と呼ばれます。

The ratio σ = F / A {\displaystyle \sigma =F/A} may be only an average stress. The stress may be unevenly distributed over the cross section (m–m), especially near the attachment points (n–n).

せん断応力(Shear Stress)

断面に対して平行に作用し、材料をずらそうとする力です。例えば、水平な棒に互い違いの荷重がかかった際に発生します。せん断応力は、材料の層が互いに滑り合うような変形を引き起こします。

Shear stress in a horizontal bar loaded by two offset blocks.

等方性応力(Isotropic Stress)

あらゆる方向から均等に、かつ面に垂直に作用する応力状態です。圧縮方向であれば「静水圧」と呼ばれます。気体は引張応力に耐えられませんが、特定の条件下では液体が非常に高い等方性引張応力に耐えることがあります。

Isotropic tensile stress. Top left: Each face of a cube of homogeneous material is pulled by a force with magnitude F, applied evenly over the entire face whose area is A. The force across any section S of the cube must balance the forces applied below the section. In the three sections shown, the forces are F (top right), F 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}} (bottom left), and F 3 / 2 {\displaystyle {\sqrt {3}}/2} (bottom right); and the area of S is A, A 2 {\displaystyle {\sqrt {2}}} and A 3 / 2 {\displaystyle {\sqrt {3}}/2} , respectively. So the stress across S is F/A in all three cases.

応力の解析と実用的モデル

現実の構造物は複雑ですが、解析を簡略化するために以下のようなモデルが用いられます。

  • 1次元モデル: 釣り竿のような細長い物体は、軸方向の応力のみを考慮した1次元的なモデルとして扱われます。
  • 2次元モデル: 薄い鋼板などは、厚み方向を無視して平面的な表面としてモデル化します。
  • トラスモデル: 構造物を単純な部材の組み合わせと考え、各部材が軸方向の引張または圧縮のみを受けると仮定します。
For stress modeling, a fishing pole may be considered one-dimensional.
Simplified model of a truss for stress analysis, assuming unidimensional elements under uniform axial tension or compression.

また、曲げ応力(棒を曲げた際に外側が引張、内側が圧縮される状態)や、円筒形の容器壁に発生する周方向応力(フープストレス)など、形状に応じた特有の応力パターンが存在します。溶接されたタンクなどの複雑な形状では、これらの応力が組み合わさった「複合応力」の状態になります。

A tank car made from bent and welded steel plates.

急激な温度変化や衝撃によって生じる応力は、材料に亀裂を入れることがあります。例えば、半溶融状態のガラスを水に浸した際に生じる激しい応力は、特有のひび割れ模様(クラックレ)を作り出します。

Glass vase with the craquelé effect. The cracks are the result of brief but intense stress created when the semi-molten piece is briefly dipped in water.[10]

さらに、材料内部の微視的な視点では、粒子一つひとつが周囲の粒子から受ける応力の合計が、全体の応力状態を決定しています。

Illustration of typical stresses (arrows) across various surface elements on the boundary of a particle (sphere), in a homogeneous material under uniform (but not isotropic) triaxial stress. The normal stresses on the principal axes are +5, +2, and −3 units.

応力に関するまとめ

応力の基本分類と特徴
応力の種類 作用方向 主な現象・例 物理的影響
引張応力 面に垂直(外向き) ワイヤーの牽引 伸長・破断
圧縮応力 面に垂直(内向き) 柱への荷重 短縮・座屈
せん断応力 面に平行 ボルトの切断力 ずれ・滑り
等方性応力 全方向から垂直 深海での水圧 体積変化

Frequently Asked Questions

応力と圧力は何が違うのですか?

圧力は流体(液体や気体)において、常に面に垂直に作用するスカラー量です。一方、応力は固体を含むあらゆる材料で定義され、面に平行な力(せん断応力)も含めてベクトルやテンソルとして表現される、より広義の概念です。

「塑性変形」とはどのような状態ですか?

材料に加わる応力が、その材料固有の強度限界(降伏点)を超えたときに起こる現象です。この状態になると、力を取り除いても元の形状に戻らなくなり、永久的な変形が残ります。

コーシー応力テンソルが必要な理由は何ですか?

実際の材料内部では、一つの点において異なる方向へ同時に複数の力が作用しているためです。単一の数値やベクトルでは、あらゆる断面方向に対する応力を同時に記述できないため、行列形式のテンソルを用いて表現します。

平均応力(公称応力)と実際の応力はなぜ異なるのですか?

平均応力は「荷重 ÷ 初期断面積」という単純な計算に基づいています。しかし実際には、荷重が加わる接合部付近で応力が集中したり、変形によって断面積が変化したりするため、局所的な応力分布は不均一になります。

粘性応力とは何ですか?

流体において、変形が時間とともに変化する(流動する)際に、その速度に抵抗して生じる応力のことです。これは流体の「ねばりけ(粘度)」に由来します。