粘弾性(Viscoelasticity)の基礎と構成モデル

多くの物質は、完全に弾性的な性質(バネのような挙動)か、完全に粘性的な性質(液体のような挙動)のどちらか一方だけを持っているわけではありません。粘弾性とは、これら両方の特性を併せ持つ材料の挙動を指します。19世紀にジェームズ・クラーク・マックスウェルやロード・ケルビン、ルートヴィヒ・ボルツマンらによって研究され始めたこの概念は、現代のポリマー科学や生物力学において不可欠な理論となっています。

粘弾性材料の最大の特徴は、その応答が「時間」と「温度」に依存することです。例えば、一定の力を加え続けた際に時間とともに変形が増大したり、一定の変形を維持した際に内部の応力が減少したりします。このような挙動は、単純な弾性体やニュートン流体では説明できず、専用の数学的モデルを用いて解析されます。

Key Facts

  • 時間依存性: 応力や歪みの応答が時間の経過とともに変化する。
  • 履歴現象(ヒステリシス): 負荷時と除荷時の経路が異なり、エネルギーが熱として失われる。
  • クリープと緩和: 一定応力下での歪み増加(クリープ)と、一定歪み下での応力減少(応力緩和)が発生する。
  • 温度影響: 材料の剛性(スティフネス)は温度によって変動する。
  • 非線形性: 変形量が大きい場合、応力と歪みの関係は非線形となる。

材料の応答特性と分類

材料に歪み速度(単位時間あたりの変形量)を加えた際の応力の反応によって、物質は以下のように分類されます。応力が歪み速度に正比例する場合はニュートン流体と呼ばれます。一方で、この関係が直線的でないものは非ニュートン流体に分類されます。また、応力が歪み速度に依存せず一定の閾値を持つ場合は、塑性変形を示す挙動となります。

Different types of responses ( σ {\displaystyle \sigma } ) to a change in strain rate ( d ε / d t {\displaystyle d\varepsilon /dt} )

粘弾性材料を純粋な弾性体と比較すると、応力-歪み曲線において「ヒステリシスループ」が現れることがわかります。これは、荷重をかけてから取り除くまでのサイクルで、一部のエネルギーが熱として散逸したことを意味します。

Stress–strain curves for a purely elastic material (a) and a viscoelastic material (b). The red area is a hysteresis loop and shows the amount of energy lost (as heat) in a loading and unloading cycle. It is equal to ∮ σ d ε {\textstyle \oint \sigma \,d\varepsilon } , where σ {\displaystyle \sigma } is stress and ε {\displaystyle \varepsilon } is strain.[3]

線形粘弾性と非線形粘弾性

線形粘弾性

変形量が比較的小さい範囲では、応力と歪みの関係を線形(比例関係)として扱うことができます。この場合、材料の応答はボルテラ方程式などの積分形式で表現され、クリープ関数や緩和関数を用いて記述されます。

非線形粘弾性

大きな変形が伴う場合、線形近似は成り立たず、より現実的な非線形モデルが必要となります。これには、上対流マックスウェルモデルやOldroyd-Bモデル、また複雑なメモリ関数を用いるワグナーモデルなどが用いられます。

粘弾性の構成モデル

粘弾性を数学的に表現するため、弾性を表す「バネ(Spring)」と粘性を表す「ダッシュポット(Dashpot)」を組み合わせた機械的モデルが考案されました。

代表的な線形モデル

  • マックスウェルモデル: バネとダッシュポットを直列に接続したモデル。応力緩和の記述に適しています。
  • ケルビン・フォークトモデル: バネとダッシュポットを並列に接続したモデル。ゴムや木材などの低負荷時の挙動に適していますが、完全な応力緩和は表現できません。
  • 標準線形固体モデル(Zenerモデル): 2つのバネと1つのダッシュポットを組み合わせたもので、クリープと応力緩和の両方を適切に記述できる最もシンプルなモデルです。
Comparison of creep and stress relaxation for three and four element models
Maxwell model
Schematic representation of Kelvin–Voigt model

高度な構成モデル

より複雑な材料挙動を再現するために、ジェフリーズモデルやバーガースモデル、あるいは複数のマックスウェル要素を並列に配置した一般化マックスウェルモデル(マックスウェル・ウィーチャートモデル)が利用されます。

Jeffreys model
Schematic of Maxwell-Wiechert Model

動的弾性率と温度依存性

振動する応力を加えた際、粘弾性材料では歪みの応答に位相差(タイムラグ)が生じます。これを解析するために複素弾性率(G)が導入されます。エネルギーを蓄える能力を示す「貯蔵弾性率(G')」と、エネルギーを散逸させる能力を示す「損失弾性率(G'')」の和として表現されます。

また、粘弾性特性は温度に強く依存します。温度が上昇すると一般に剛性は低下し、材料はより粘性的な挙動を示すようになります。

Temperature dependence of modulus

クリープと応力緩和のメカニズム

粘弾性材料にステップ状の負荷を与えた際、以下の2つの代表的な現象が観察されます。

  1. 粘弾性クリープ: 一定の応力を維持し続けたとき、時間とともに歪みが増加する現象です。粘弾性液体の場合、最終的に破断に至るまで変形し続けます。
  2. 応力緩和: 一定の歪みを維持させたとき、内部の応力が時間とともに減少していく現象です。
a) Applied stress and b) induced strain as functions of time over a short period for a viscoelastic material

粘弾性の測定手法(レオメトリー)

材料の粘弾性を定量化するために、レオメーターという装置が使用されます。せん断方向の変形を測定するせん断レオメトリーのほか、材料を軸方向に引き伸ばす伸長レオメトリーがあります。

特に高粘度のポリマー融液などの測定には、以下の装置が用いられます。

  • Meissner型: 対向回転ローラーを用いて一軸伸長させ、空気クッションでサンプルの垂れ下がりを防ぎます。
  • FiSER(フィラメント伸長レオメーター): 2枚のプレート間でサンプルを引き伸ばし、中心部の半径変化から歪み速度を算出します。
  • SER(Sentmanat伸長レオメーター): 円筒を対向回転させることでサンプルを伸長させ、トルク変換器を用いて応力を算出します。
Schematic of the SER extensional rheometer. The sample (brown) is held to two cylinders (grey) which are then counterrotated at varying strain rates. The torque required to strain the sample at these rates is calculated via a set of torque transducers present in the instrument. These torque values are then converted to stress values, and the stresses and strain rates are then used to determine the viscosity of the sample.

粘弾性特性のまとめ

粘弾性モデルと特性の比較
モデル名 構成要素 主な特徴・用途 記述可能な現象
マックスウェル バネ + ダッシュポット(直列) 粘性流体に近い挙動 応力緩和
ケルビン・フォークト バネ + ダッシュポット(並列) 弾性固体に近い挙動 遅延弾性(クリープ)
標準線形固体 バネ2個 + ダッシュポット1個 現実的な固体ポリマーの近似 クリープ & 応力緩和
バーガース マックスウェル + ケルビン 複雑な粘弾性流体・固体 永続的な変形を含む全挙動

Frequently Asked Questions

粘弾性と単純な粘性の違いは何ですか?

単純な粘性(ニュートン流体など)は、力を除いた瞬間に変形が止まり、元の形に戻ることはありません。一方、粘弾性は粘性と同時に弾性を備えているため、力を除いた後に一部または全部が元の形状に回復しようとする性質を持ちます。

応力緩和とは具体的にどのような現象ですか?

材料をある一定の長さに引き伸ばして固定したままにしたとき、内部で分子鎖が再配置されるため、維持するために必要な力(応力)が時間とともに減少していく現象のことです。

なぜ温度が上がると粘弾性特性が変わるのですか?

温度が上昇すると、材料内部の分子の熱運動が激しくなり、分子鎖の移動が容易になります。これにより、内部摩擦(粘性)が低下し、弾性的な拘束が弱まるため、剛性が低下します。

プロニー級数(Prony series)とは何に使われますか?

時間依存の緩和弾性率を指数関数の和として近似的に表現するための手法です。特に有限要素法(FEM)などのコンピュータシミュレーションにおいて、粘弾性挙動を効率的に実装するために広く利用されています。