北極圏や亜北極圏などの極寒の地に足を踏み入れると、平原に突如として現れる円錐形の丘を目にすることがあります。これはピンゴ(Pingo)と呼ばれる周氷河地形の一種で、内部に巨大な氷の塊(氷核)を持つ特殊な丘です。ピンゴは氷河そのものではなく、寒冷地特有の地質プロセスによって形成されるため、地質学的に非常に重要な意味を持っています。
世界には11,000以上のピンゴが存在すると推定されており、特にカナダのトゥクトヤクトゥク半島周辺には1,350ものピンゴが密集しています。高さは3メートルから最大70メートル、直径は30メートルから1,000メートルにまで及びます。

Key Facts
- 正体:内部に氷の核を持つ、永久凍土地帯特有の円錐形丘。
- 分布:カナダ、アラスカ、シベリア、グリーンランド、中央アジアなど。
- 成長速度:非常に緩やかで、年間数センチメートル程度。
- 崩壊:内部の氷が融解すると、丘が陥没し逆円錐形の窪地となる。
- 名称の由来:イヌビアルクチュン語で「円錐形の丘」を意味する言葉から。
ピンゴの歴史と定義
ピンゴという言葉が科学的に用いられるようになったのは1938年のことです。北極圏の植物学者アルフ・エルリング・ポーシルドが、カナダおよびアラスカの先住民であるイヌビアルク人の言葉を借用して論文に記載したことが始まりでした。それ以前の1825年には、ジョン・フランクリンがマッケンジーデルタのエリス島で同様の地形を記録していますが、当時はまだ「ピンゴ」という名称は使われていませんでした。

形成される2つのメカニズム
ピンゴは、永久凍土環境下で水が凍結し、その体積膨張によって地表が押し上げられることで形成されます。その形成プロセスによって、大きく「閉鎖系」と「開放系」の2種類に分類されます。
1. 静水圧による閉鎖系ピンゴ(Hydrostatic Pingos)
閉鎖系ピンゴは、主に湖が堆積物で埋まった場所など、排水不良の平坦な地域で発生します。不浸透層に囲まれた地下水が、周囲の永久凍土の成長に伴って閉じ込められ、強い静水圧が発生します。この圧力によって水が押し上げられ、凍結して氷核となることで地表を盛り上げます。冬に凍結が進むと膨張し、夏に氷核が融解すると陥没するというサイクルを繰り返しながら成長します。

2. 水圧による開放系ピンゴ(Hydraulic Pingos)
開放系ピンゴは、外部の帯水層から地下水が供給されることで形成されます。地下水が自噴水のような圧力(アルテジアン圧)を持って上昇し、それが凍結して氷核を成長させます。閉鎖系とは異なり、帯水層が凍結しない限り水供給に制限がないため、不連続な永久凍土地帯や斜面の麓によく見られます。形状は円形よりも楕円形や長方形になりやすい傾向があります。

成長と崩壊のプロセス
ピンゴの成長は極めて緩やかです。例えば、カナダのイビュク・ピンゴは年間約2cmの速度で成長しています。一般的に、ピンゴは初期段階で底面の直径が最大に達し、その後は直径よりも高さが増していく傾向にあります。成長には数十年から数世紀という長い年月を要します。
一方で、内部の氷核が露出して融解すると、構造を支える力がなくなり、丘は崩壊します。これにより、かつての丘の形を反転させたような窪地が形成されます。このような崩壊したピンゴの跡は、かつてその地に永久凍土が存在していたことを示す重要な証拠となります。






世界各地のピンゴ分布
| 地域 | 主な特徴 | 特筆すべき点 |
|---|---|---|
| カナダ(トゥクトヤクトゥク) | 高密度に分布 | カナダ最高峰のイビュク・ピンゴが存在 |
| アラスカ | 開放系が主流 | 世界最高峰のカドレロシリック・ピンゴ(54m)がある |
| シベリア(ヤクーツク近郊) | 閉鎖系が高密度に分布 | レナ川沿いの沖積平野に500以上存在 |
| 中央アジア(チベット高原) | 世界最高標高に分布 | 標高4,000m以上の凍土地帯に形成 |
| グリーンランド | 西岸と東岸に分布 | ディスコ湾周辺に閉鎖系が適した環境がある |
| イギリス・スカンジナビア | 遺構(崩壊跡)のみ | 氷河時代に形成されたと考えられ、現在は池として残る |

気候変動が与える影響
地球温暖化に伴う北極圏の気温上昇は、永久凍土の融解を加速させています。ピンゴは内部に大量の地中氷を蓄えているため、表面の乱れや気温上昇に非常に脆弱です。氷楔(アイスウェッジ)が融解することで、ピンゴの崩壊が頻発し、跡地に小さな湖が形成される現象が見られます。これは北極圏の景観を根本的に変えるだけでなく、過去の気候記録を保持する地層の喪失を意味しています。
Frequently Asked Questions
ピンゴとパルサは何が違うのですか?
どちらも凍土による盛り上がりですが、ピンゴは内部に巨大な氷の核を持つ大規模な丘であるのに対し、パルサはより小規模な凍上現象による盛り上がりを指します。スカンジナビア地方ではパルサがピンゴと誤認されることがあります。
火星にもピンゴは存在しますか?
確定的な証拠は見つかっていませんが、「ピンゴのような特徴(PLFs)」を持つ地形が確認されています。ただし、規模や証拠が不十分であるため、正式にピンゴとは分類されていません。
ピンゴが崩壊するとどうなりますか?
内部の氷が溶けると地表が陥没し、逆円錐形の窪地になります。ここに水が溜まると「ピンゴ・ポンド(氷丘池)」と呼ばれる池になります。イギリスのノーフォーク地方には、氷河時代の崩壊したピンゴによる池が数百箇所残っています。
世界で最も高いピンゴはどこにありますか?
アラスカにあるカドレロシリック・ピンゴで、高さは54メートルに達します。現在も年間数センチメートルのペースで上昇し続けています。
References
- Pidwirny, M (2006). "Periglacial Processes and Landforms". Fundamentals of Physical Geography.
- Mackay, J. Ross (2 October 2002). "Pingo Growth and collapse, Tuktoyaktuk Peninsula Area, Western Arctic Coast, Canada: a long-term field study". Géographie Physique et Quaternaire. 52 (3): 271–323. :10.7202/004847ar. 1492-143X.
- Harris, Stuart A. (1988). Glossary of permafrost and related ground-ice terms. Permafrost Subcommittee, Associate Committee on Geotechnical Research, National Research Council of Canada. . 20504505.
- Grosse, G.; Jones, B. M. (2011). "Spatial distribution of pingos in northern Asia". The Cryosphere. 5 (1): 13–33. :2011TCry....5...13G. :10.5194/tc-5-13-2011.
- Mackay, J. Ross (1998). "Pingo Growth and Collapse, Tuktoyaktuk Peninsula Area, Western Arctic Coast, Canada: A Long-Term Field Study" (PDF). Géographie Physique et Quaternaire. 52 (3). University of Montreal: 311. :10.7202/004847ar. Retrieved 23 June 2012.
- Mackay, Ross (2011). "Pingos of the Tuktoyaktuk Peninsula Area, Northwest Territories". Géographie Physique et Quaternaire. 33. Department of Geography University of British Columbia: 3–61. :10.7202/1000322ar.
- Mackay, J. Ross (1 January 1988). "The Birth and Growth of Porsild Pingo, Tuktoyaktuk Peninsula, District of Mackenzie". Arctic. 41 (4). :10.14430/arctic1731. 1923-1245.
- "Six bizarre landforms created by global warming". New Scientist. Retrieved 2022-11-09.
- Yoshikawa, K. (2013). "Pingos". Treatise on Geomorphology. 8: 274–297. :10.1016/B978-0-12-374739-6.00212-8. .
{{}}: CS1 maint: periodical has ISBN () - "Formation of Closed System Pingos". Retrieved 25 April 2020.
📸 フォトギャラリー










