地球の深部に大量に存在するかんらん石(オリビン)は、その鮮やかな緑色から宝石としても親しまれているだけでなく、惑星の構造を理解する上で極めて重要な鉱物です。化学組成はマグネシウムと鉄を含むケイ酸塩であり、地球の上部マントルの主成分として、プレートテクトニクスを駆動する固体流動に大きな影響を与えています。
Key Facts
- 化学組成: (Mg, Fe)2SiO4 の組成を持つネスシリケート(単独四面体ケイ酸塩)。
- 主成分: マグネシウム端成分のフォルステライトと、鉄端成分のファヤライトの固溶体。
- 分布: 地球の上部マントルの50%以上を占める極めて一般的な鉱物。
- 宝石名: 透明度の高いものは「ペリドット」として利用される。
- 宇宙的存在: 月、火星、隕石、さらには若い恒星の周囲の塵の中にも発見されている。
鉱物学的特性と結晶構造
かんらん石は、正方晶系に属するネスシリケート(orthosilicate)の一種です。その構造は、独立したSiO4四面体が、2価の金属陽イオン(MgまたはFe)によって結合された形式をとっています。この構造は磁鉄鉱などのスピネル構造に似ていますが、陽イオンの価数構成が異なります。
光学的な特徴としては、複屈折を持つ二軸晶であり、典型的にはオリーブ色(黄緑色)を呈します。これは微量のニッケルが含まれているためと考えられていますが、鉄の酸化によって赤色に変化することもあります。

原子レベルで見ると、酸素イオンが六方最密充填構造をとり、その八面体空隙の半分をMgやFeが、四面体空隙の1/8をSiが占めています。

物理的性質のまとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| モース硬度 | 6.5 – 7.0 |
| 密度 | 3.2 – 4.5 g/cm³ |
| 劈開 | 不良 |
| 光沢 | ガラス光沢 |
| 結晶系 | 正方晶系 (Pbnm) |
地球内部での挙動と相転移
かんらん石は、地表付近よりも地下深くで安定して存在します。特にマグネシウムに富むタイプは、地下約410kmまで安定していますが、それ以上の高圧環境では構造変化(相転移)を起こします。まずワズリー石(sorosilicate)へ、さらに地下約520kmではスピネル構造を持つリングウッダイトへと変化します。
これらの相転移は発熱反応であり、マントルの密度を不連続に増加させます。これは地震波の観測によって確認されており、マントル対流のダイナミクスに影響を与えています。また、高圧下のかんらん石は大量の水を保持できることが分かっており、地球上の海洋よりも多くの水がマントル内に溶け込んでいる可能性が指摘されています。
産出環境と地質学的意義
かんらん石は主に苦鉄質(mafic)および超苦鉄質(ultramafic)の火成岩に含まれます。特にかんらん石を40%以上含む岩石はペリドタイト(かんらん岩)と呼ばれ、さらに90%を超えるものはダナイトと呼ばれます。一方、鉄に富むファヤライトは稀であり、特定の花崗岩や流紋岩に見られます。
地表においては化学的に不安定であり、水に触れると速やかに風化してイディングサイト(粘土鉱物や鉄酸化物の混合物)へと変化します。このため、堆積岩の中にかんらん石が見つかることは稀です。

宇宙における分布
地球以外でも、かんらん石は広く分布しています。コンドライトやパライサイト(鉄にかんらん石の結晶が埋め込まれた隕石)などの隕石から検出されており、月や火星の表面、さらには小惑星イトカワからも発見されています。

さらに、遠方の若い恒星を取り巻く塵の円盤や、彗星の尾からもそのスペクトルシグネチャーが確認されており、太陽系形成初期の物質を理解する鍵となっています。
産業利用と環境への応用
工業面では、製鋼業におけるドロマイトの代替材や、アルミニウム鋳造用の砂として利用されています。特にかんらん石砂は、シリカ砂に比べて必要な水分量が少なく、鋳造時のガス発生を抑えられる利点があります。また、フィンランドではその高い密度と耐熱性から、サウナストーブの石として重宝されています。
ノルウェーは世界的な工業用かんらん石の供給地であり、大規模な露天掘り採掘が行われています。

気候変動対策への期待
近年、かんらん石の速い風化速度を利用した二酸化炭素(CO2)回収の研究が進んでいます。粉砕したかんらん石を海岸などに散布し、海水と反応させることでCO2を鉱物として固定する試み(Project Vestaなど)が行われています。また、カーボンニュートラルなセメント製造への応用も検討されています。
Frequently Asked Questions
ペリドットとかんらん石は何が違うのですか?
本質的には同じ鉱物です。かんらん石のうち、透明度が高く宝石品質のものを「ペリドット」と呼びます。かつてはクリソライトとも呼ばれていました。
なぜかんらん石は地球の内部に多いのですか?
かんらん石は非常に高い融点(特にマグネシウム端成分のフォルステライトは約1,900℃)を持ち、高圧環境で安定するため、地球の組成に近い上部マントルの主成分として存在しています。
火星にかんらん石があることは何を意味しますか?
かんらん石自体は火成活動の証拠となりますが、それが風化してイディングサイトに変化している場合、かつて火星に液体の水が存在していたことを示す強力な証拠となります。
かんらん石によるCO2回収はどのように機能しますか?
かんらん石が水と反応して風化する際、大気中の二酸化炭素を吸収し、炭酸塩鉱物(マグネシウム炭酸塩など)として安定的に固定するため、温室効果ガスの削減に寄与すると考えられています。
フォルステライトとファヤライトの違いは何ですか?
どちらもかんらん石グループの端成分です。フォルステライトはマグネシウムに富み、融点が高くマントルに一般的です。一方、ファヤライトは鉄に富み、融点が低く、産出量は比較的少ないのが特徴です。
References
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