地球上の寒冷地やかつて氷河に覆われていた地域を訪れると、不自然に盛り上がった土手や、岩石が混じった不規則な丘が見られることがあります。これらはモレーン(堆積堤)と呼ばれる氷河特有の地形です。氷河は単に氷の塊ではなく、移動する過程で周囲の岩石や土砂を削り取り、運搬する巨大なコンベアのような役割を果たしています。氷が溶けた後に残されたこれらの堆積物は、過去の氷河の動きや範囲を解き明かす重要な手がかりとなります。
Key Facts
- 正体: 氷河によって運ばれ、堆積した未固結の岩屑(ティル)の集積体。
- 構成物: 微細な粘土(氷河粉)から巨大な巨礫まで、分級されていない多様な粒径を含む。
- 形成要因: 氷河の移動、堆積、および氷の融解というプロセスによって形成される。
- 指標としての役割: 終端モレーンは、氷河が過去に到達した最大前進地点を示す。
モレーンの構成成分と地質学的特徴
モレーンを構成する物質は、一般にティル(氷河ティル)と呼ばれます。これは氷河によって運ばれた岩屑やレゴリス(風化層)の混合物です。最大の特徴は、粒子の大きさが揃っていない「分級されていない」状態であることです。砂や砂利、さらには巨大な岩塊(ボルダー)が、非常に細かい粘土質の物質(氷河粉/glacial flour)の中に混在しています。
これらの岩石片は、氷河による摩耗を受けて角が取れた亜角状から円形を呈しています。堆積した形態は、氷河の表面に積み上がったものから、底面に押し付けられたもの、あるいは氷が溶けた後にシート状に広がったものまで多岐にわたります。
モレーンが形成されるメカニズム
モレーンの形成プロセスは、大きく分けて「受動的プロセス」と「能動的プロセス」の2つに分類されます。
受動的プロセス
氷河の表面に溜まっていた混沌とした堆積物が、氷の融解に伴ってそのまま地面に置かれる現象です。これにより、起伏に富んだ「ハンモッキー・モレーン」のような地形が作られます。
能動的プロセス
氷の移動そのものが堆積物を直接押し出したり、再構成したりするプロセスで、氷河構造運動(glaciotectonism)と呼ばれます。これにより、押し出しモレーン(プッシュ・モレーン)やスラストブロック・モレーンが形成されます。
また、氷河の縁から流れ出す氷河川が運んできた砂利や砂が扇状に堆積し、それが連結して長い堤防状のモレーンを形成することもあります。こうした再堆積の過程で、チリ南部のように金などの砂金鉱床(プラサー鉱床)が形成されるケースもあります。
場所と形状によるモレーンの分類
モレーンは、氷河のどの位置で形成されたか、あるいはどのような形状をしているかによって分類されます。
側堆石(ラテラル・モレーン)
氷河の流れに沿って側面に形成される平行な堤防状の地形です。谷壁の凍結破砕によって崩落した岩石や、支流から流れ込んだ堆積物が氷の上に乗り、氷の縁に蓄積します。高さは最大140メートルに達することもあり、氷河の縁に近いほど急峻な斜面を持つのが特徴です。




終端堆石(ターミナル・モレーン)と後退堆石
氷河の先端(末端)に堆積した岩屑の列を終端モレーンと呼びます。これは氷河が最大まで前進した地点を示す重要な指標です。一方、氷河が後退する途中で一時的に停滞した際に形成される小さな堤防を後退モレーン(リセッショナル・モレーン)と呼び、谷を横切る一連の ridges として観察されます。
中央堆石(メディアル・モレーン)
2つの谷氷河が合流した際、それぞれの側堆石が合わさり、合流後の氷河の中央を流れる堆積物の帯となります。氷が溶けると、谷底の中央に長い堤防状の地形が残されます。

底堆石(グラウンド・モレーン)とその他の特殊形態
氷河の底面に堆積し、氷が消えた後に不規則な起伏や緩やかな丘陵地帯として残ったものを底堆石(グラウンド・モレーン)と呼びます。また、氷床の下で氷流に垂直な肋骨状の地形を作るローゲン・モレーンや、氷河の下のクレバスから発達したとされるデ・ゲール・モレーンなど、氷床特有の形態も存在します。

その他の特殊なモレーン
- 北極プッシュ・モレーン: 永久凍土地域で、前進する氷河が凍結した堆積層を押し上げたもの。

- 氷上モレーン(スープラグレイシャル・モレーン): 氷河の表面に堆積物が蓄積したもの。
- ウォッシュボード・モレーン: 洗濯板のような低い起伏が連続する地形。
- ヴェイキ・モレーン: 厚い堆積物に覆われた氷が不規則に融解し、池と台地が混在する地形。

モレーンの特徴まとめ
| 種類 | 形成場所 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 側堆石 (Lateral) | 氷河の両側面 | 谷壁に沿った平行な堤防状の地形 |
| 終端堆石 (Terminal) | 氷河の最先端 | 氷河の最大前進地点を示す堤防 |
| 中央堆石 (Medial) | 氷河の合流点・中央 | 2つの側堆石が合流してできた中央の帯 |
| 底堆石 (Ground) | 氷河の底部 | 起伏のある平原や緩やかな丘陵 |
| 後退堆石 (Recessional) | 後退中の停滞地点 | 終端モレーンの後方に並ぶ一連の堤防 |
Frequently Asked Questions
モレーンと普通の土手の違いは何ですか?
最大の違いは、その構成物質(ティル)にあります。モレーンは氷河によって運ばれたため、巨大な岩から微細な粘土までが完全に混ざり合っており、水流による堆積物のように粒の大きさが揃っている(分級されている)ことがありません。
なぜ終端モレーンが重要視されるのですか?
終端モレーンは、その氷河が歴史上どこまで到達したかという「最大前進地点」を物理的に記録しているためです。これにより、過去の気候変動や氷河期の規模を推定することが可能になります。
氷河がなくなってもモレーンは残りますか?
はい、残ります。氷が溶けた後も、堆積した岩石や土砂は地形として地表に残ります。ただし、時間の経過とともに雨や風による侵食を受け、次第に平坦化したり破壊されたりすることがあります。
中央堆石はどのようにしてできるのですか?
2つの氷河が合流すると、それぞれの氷河の端にあった側堆石同士がぶつかり、合流後の氷河の真ん中に乗り移ります。そのまま氷の流れに乗って運ばれ、氷が溶けると谷の中央に堤防のような筋が残ります。
モレーンから金が見つかるのはなぜですか?
氷河が岩石を削り取り、運搬する過程で、比重の重い金などの鉱物が濃縮されることがあります。特に氷河の縁で砂利や砂が再堆積する際、特定の条件下でプラサー鉱床が形成されるためです。
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