地球の表面には、かつて巨大な氷の塊が移動した痕跡が深く刻まれています。氷河地形とは、氷河の移動や融解というダイナミックなプロセスによって形成された地表の形態を指します。特に第四紀の氷河時代に広がった大陸氷床の影響を強く受けており、フェノスカンジアやアンデス山脈南部などの地域に顕著に残されています。一方で、サハラ砂漠のように、非常に古く希少な化石氷河地形が点在する地域もあります。
Key Facts
- 氷河地形は、氷の重量による「浸食」と、運ばれた物質が積もる「堆積」の2つの主要プロセスで形成される。
- 浸食地形の代表例には、U字谷やカール(圏谷)、氷河擦痕などがある。
- 堆積地形は、分級されていない堆積物である「ティル」や、融氷水による「氷河性堆積物」で構成される。
- 氷河の移動方向は、岩盤に残された擦痕などの痕跡から判別することが可能である。
氷河による浸食:大地を削り取る力
氷河が蓄積した雪と氷の自重で拡大すると、底面にある岩石を押し潰し、削り取りながら移動します。この強力な研磨作用(アブレーション)によって、鋭利な山頂や深い谷などの特徴的な地形が作り出されます。
代表的な浸食地形として、氷河の起点となるお椀状の窪地カール(圏谷)や、それが階段状に連なったカール階段が挙げられます。また、複数のカールが合流して形成される鋭い山頂はホーンと呼ばれ、その間にある切り立った稜線はアレートと呼ばれます。

谷の形状にも劇的な変化が現れます。氷河が谷を深く広く削ることで、断面がアルファベットのU字に見えるU字谷(氷食谷)が形成されます。この谷に海水が浸入すると、フィヨルドとして知られる深い入り江になります。また、主谷に合流する小さな谷が途中で途切れたような形状になる懸谷(吊り谷)では、しばしば壮大な滝が見られます。

さらに、岩盤の表面には氷河が運ぶ小石などが擦りつけた溝である氷河擦痕が残り、氷河がどちらの方向へ流れたかを示す重要な手がかりとなります。また、羊の背中のような丸みを帯びた岩山であるロッシュ・ムトネも特徴的です。


氷河による堆積:運ばれた物質の集積
氷河が後退(融解)すると、それまで運んでいた岩石や砂などの堆積物(氷河漂礫)が地表に取り残されます。このようにして形成されるのが堆積地形です。
氷河が運ぶ堆積物の多くは、粒子の大きさが不揃いなティルと呼ばれる未分級の堆積物です。これが盛り上がってできた堤のような地形をモレーンと呼び、氷河の末端にできる終端モレーンや、側面にできる側モレーンなどがあります。また、氷河によって遠方まで運ばれ、元の地質とは異なる場所に置かれた巨大な岩は氷河漂礫(迷い石)と呼ばれます。

一方で、氷河の下を流れる融氷水によって運ばれた堆積物は、水流による選別が行われるため、粒径が揃った「氷河性堆積物」となります。これにより、蛇行した川底が盛り上がってできた堤状のエスカーや、氷の穴に堆積物が落ち込んでできた丘状のケーム、そして氷河末端から平原へ広がるアウトウォッシュファン(氷河前縁扇状地)などが形成されます。

氷河が創り出す湖沼と氷の造形
氷河の活動は、独特な湖沼群も生み出します。氷河が後退する際に取り残された氷塊が融けてできた窪地に水が溜まったものをケトル湖と呼びます。また、カールの中に形成された湖はターン、モレーンによって流れがせき止められたモレーン堰止湖などがあります。さらに、一連のモレーンによって数珠つなぎにできた湖はパテルノスター湖と呼ばれます。
地形だけでなく、現存する氷河自体も特異な景観を呈します。谷に沿って流れる谷氷河や、氷の表面に深く刻まれた亀裂であるクレバス、そして氷の滝とも言えるアイスフォールなどが、極地や高山地帯の象徴的な風景となっています。
学術的な議論と再検討
一部の地形については、その成因を巡って議論が続いています。例えば、ロッシュ・ムトネの形状は氷河による浸食だけでなく、氷河以前の節理(岩の割れ目)や熱帯地域での風化による影響があるという説が提唱されています。
また、高地の平坦面を氷河が削り取ったとする「氷河バズソー(電動のこぎり)効果」という仮説もありますが、ノルウェーの段丘状の地形やグリーンランドの高原地帯の状況と矛盾するため、多くの学者によって否定されています。さらに、ハドソン湾やボトニア湾のような巨大な盆地は、氷河の浸食よりもプレートテクトニクスなどの地殻変動による影響が大きいと考えられています。
氷河地形のまとめ
| 分類 | 代表的な地形 | 形成メカニズム | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 浸食地形 | U字谷、カール、ホーン | 氷河の重量と移動による削り取り | 鋭利な峰や深い谷、滑らかな岩盤 |
| 堆積地形 | モレーン、エスカー、ケーム | 氷河の後退に伴う物質の堆積 | 不揃いな岩屑(ティル)や砂礫の丘 |
| 湖沼地形 | ケトル湖、ターン、パテルノスター湖 | 氷塊の融解や堆積物によるせき止め | 円形の窪地や連なった湖沼群 |
Frequently Asked Questions
U字谷とV字谷の違いは何ですか?
V字谷は主に河川の浸食によって形成され、断面が鋭いV字型になります。一方、U字谷は巨大な氷河が谷底と側面を同時に削り取るため、底が平らで壁が切り立ったU字型の断面になります。
モレーンとは具体的にどのようなものですか?
氷河が岩石や砂を押し流し、それが氷河の端や末端に積み重なってできた堤のような地形です。氷河がどこまで到達したかを示す重要な指標となります。
フィヨルドはどのようにしてできるのですか?
氷河によって深く削られたU字谷に、氷河が後退した後に海水が流れ込むことで形成されます。非常に水深が深く、周囲を険しい崖に囲まれているのが特徴です。
氷河擦痕から何が分かりますか?
岩盤に刻まれた細い溝(擦痕)の方向を調べることで、過去に氷河がどの方向へ移動していたかを正確に特定することができます。
ティルと氷河性堆積物の違いは何ですか?
ティルは氷河によって直接運ばれ堆積したため、大きな岩から細かい泥までサイズが混在しています。対して氷河性堆積物は融氷水によって運ばれるため、水流による選別が起こり、粒子の大きさが比較的揃っています。
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