1971年、人類は火星探査における歴史的な転換点を迎えました。NASAのマリナー9号は、他の惑星の周回軌道に入った史上初の宇宙機として、火星の詳細な姿を地球に届けました。それまでのフライバイ(接近通過)ミッションとは異なり、軌道上から長期的に観測を行うことで、火星が単なる荒涼とした世界ではなく、ダイナミックな地質学的歴史を持つ惑星であることを明らかにしました。
このミッションは、単なる技術的な成功にとどまらず、予期せぬ自然現象への柔軟な対応によって、科学的な成果を最大化した事例としても知られています。

Key Facts
- 歴史的快挙: 他の惑星の周回軌道に到達した世界初の宇宙機。
- 広範なマッピング: 火星表面の約85%をカバーする7,329枚の画像を送信。
- 主要な発見: 太陽系最大の火山「オリンポス山」や巨大峡谷「マリネリス峡谷」を確認。
- 柔軟な運用: 到着直後の全惑星規模の砂嵐に対し、地球からのプログラム書き換えで対応。
- ミッション期間: 1971年5月30日に打ち上げられ、1972年10月27日まで運用。
ミッションの経緯と困難なスタート
もともとNASAは2機の探査機を派遣する計画でしたが、マリナー8号の打ち上げ失敗により、マリナー9号のみによる単独ミッションへと変更されました。このため、機体にはより高度な信頼性と柔軟性が求められました。
1971年11月14日に火星へ到達したマリナー9号を待ち受けていたのは、惑星全体を覆い尽くすほどの巨大な砂嵐でした。表面が完全に遮られていたため、当初の計画通りに撮影を行うことは不可能でした。しかし、NASAの運用チームは地球からコンピュータプログラムを書き換え、砂嵐が収まるまでカメラの運用を遅らせるという英断を下しました。この柔軟な対応こそが、後の詳細な表面観測を可能にした鍵となりました。

火星の正体を暴いた観測機器
マリナー9号は、当時の最先端技術を凝縮した観測装置を搭載していました。特に注目すべきは、視覚的な画像だけでなく、大気や温度を分析する分光計や放射計を備えていた点です。
視覚イメージングシステム
2種類のテレビカメラ(広角のカメラAと狭角のカメラB)を搭載し、1ピクセルあたり約98メートルという、当時のフライバイミッションを遥かに凌ぐ高解像度での撮影を実現しました。これにより、風による浸食や堆積、さらには気象前線や霧のような現象まで捉えることができました。


大気と温度の分析装置
- 紫外線分光計 (UVS): 上層大気の組成を分析し、水素、酸素、オゾンの存在を検出しました。
- 赤外線干渉分光計 (IRIS): 二酸化炭素が主成分であることを確認し、水蒸気の存在や砂嵐の熱的特性を明らかにしました。
- 赤外線放射計 (IRR): 表面温度を測定し、火山活動の証拠となる熱源の探索を行いました。



驚異的な発見:火山と峡谷
砂嵐が晴れた後、マリナー9号が送信した画像は科学界に衝撃を与えました。それまで未知であった火星のダイナミックな地形が次々と明らかになったためです。
特に、太陽系で最大規模の火山であるオリンポス山の発見は象徴的です。中央火口の鮮明な画像により、これが巨大な火山であることが確定しました。また、全長約4,020キロメートルに及ぶ巨大な峡谷系マリネリス峡谷(Mariner 9にちなんで命名)の発見は、火星の地殻変動の歴史を物語る重要な成果となりました。


技術的ブレイクスルー:データ伝送と符号化
当時の宇宙機は計算能力や電力が極めて限定的でした。限られたリソースで正確に画像を送信するため、マリナー9号では「ハダマール符号」という誤り訂正符号が採用されました。これにより、送信中のデータにエラーが発生しても、効率的に修正することが可能となりました。
また、「グリーンマシン」と呼ばれる高速フーリエ変換を用いた回路を導入することで、地上での復号速度を3倍に向上させ、膨大な画像データの処理を効率化しました。

ミッションのまとめとその後
マリナー9号は、姿勢制御用のガスを使い果たした1972年10月27日に運用を終了しました。このミッションで得られた知見は、その後のバイキング計画などの火星探査の基礎となり、火星という惑星への理解を根本から変えました。
機体はその後も火星周回軌道に留まっていましたが、NASAの予測では2020年から2022年頃に大気圏に再突入し、燃え尽きたか、あるいは表面に衝突したと考えられています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 打ち上げ日 | 1971年5月30日 |
| 打ち上げ質量 | 997.9 kg |
| 電源 | 太陽電池パネル(500W) |
| 軌道周期 | 約11.9時間 |
| 送信画像数 | 7,329枚 |
| 観測範囲 | 火星表面の約85% |



Frequently Asked Questions
マリナー9号が「史上初」とされる理由は何ですか?
他の惑星(この場合は火星)の周回軌道に進入し、そこから長期的な観測を行った世界で最初の宇宙機だからです。それまでの探査機は、惑星のそばを通り過ぎるだけの「フライバイ」方式でした。
到着直後の砂嵐にどうやって対処したのですか?
地球から宇宙機のコンピュータプログラムを書き換え、カメラの作動を数ヶ月遅らせることで、砂嵐が収まって表面が見えるようになるまで待機させました。
このミッションで発見された最も重要な地形は何ですか?
太陽系最大の火山であるオリンポス山と、全長4,000kmを超える巨大なマリネリス峡谷です。これらは火星の地質学的活動を理解する上で極めて重要な発見となりました。
データ送信における「ハダマール符号」とは何ですか?
通信中に発生するデータの誤りを訂正するための数学的な符号化方式です。これにより、限られた電力と計算能力の中でも、高い信頼性で画像を地球に送信することができました。
マリナー9号は現在どこにあると考えられていますか?
運用終了後も軌道上にありましたが、時間の経過とともに軌道が減衰し、2020年から2022年頃に火星の大気圏に突入して消滅したか、表面に衝突したと推定されています。
References
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This article incorporates text from this source, which is in the . - "Mariner Mars 1971 Project Final Report" (PDF). . Archived from the original (PDF) on 27 May 2010. Retrieved 28 December 2011.
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