多くの民主主義国家では、議員の任期を制限することで権力の固定化を防いでいます。しかし、世界には終身議員(Life Senator)と呼ばれる、任期制限なく生涯にわたって議席を保持できる制度を持つ国や、かつて導入していた国が存在します。この制度は、国家への多大な貢献を称える名誉職としての側面と、政治的な安定や権力継承の手段としての側面を併せ持っています。
Key Facts
- 定義: 立法府の上院(またはそれに相当する機関)において、生涯にわたる任期を持つ議員のこと。
- 現代の事例: イギリスの貴族院(一部を除く)やイタリア、ロシア、コンゴ民主共和国などで制度が維持されている。
- 任命基準: 元国家元首であることや、科学・芸術・社会分野での顕著な功績が基準となることが多い。
- 傾向: 南米諸国など、かつては元大統領に終身議員権を付与する国が多かったが、反民主主義的であるとして廃止される傾向にある。
現代における終身議員制度の運用
現在も終身議員制度を維持している国々は、それぞれ異なる任命基準を設けています。
欧州の事例:イタリアとロシア
イタリアでは、大統領が社会、科学、芸術、文学などの分野で卓越した功績を挙げた人物を最大5名まで終身議員として任命できます。また、元大統領は当然に終身議員となる権利を有しています。
ロシアでは2020年の憲法改正により、大統領が国家や公共活動への貢献に基づき最大30名の議員を任命でき、そのうち7名を終身とすることが可能になりました。また、弾劾されていない元大統領も終身議員となる権利を持ちますが、これは将来的な権力移行への準備であると分析されています。
イギリスの貴族院
イギリスの貴族院(House of Lords)のメンバーは基本的に終身 tenure です。ただし、聖職者である「貴族精神的議員(Lords Spiritual)」の26名は70歳で引退することが期待されています。また、自発的な辞任や、不適切行為による除名もあり得ます。
アフリカの事例:コンゴ民主共和国とルワンダ
コンゴ民主共和国では、2006年の憲法により元大統領に終身議員の資格が与えられており、2025年時点ではジョセフ・カビラ氏が唯一の終身議員となっています。ルワンダにおいても、元大統領が最高裁判所に申請し、承認されれば上院議員となることが認められています。
歴史的に導入されていた制度と変遷
かつては多くの国で終身議員制度が存在しましたが、時代の変化とともに廃止されてきました。
北米と欧州の過去の制度
カナダではかつて終身任命制でしたが、1965年の憲法改正により75歳での定年制が導入されました。これにより、1999年に最後の終身議員が辞任し、制度は事実上消滅しました。フランスの第三共和政時代には「不変議員(inamovible)」と呼ばれる終身議員がいましたが、1884年に新任への適用が廃止され、1918年に最後の議員が死去して途絶えました。
ルーマニアでは1923年憲法に基づき、王位継承者や宗教指導者、元大臣などに「当然の議員(senator de drept)」としての資格を与えていましたが、1946年に共産党主導の政府によって廃止されました。
南米における「元大統領の特権」
南米の多くの国では、シモン・ボリバールの思想の影響もあり、元大統領に終身議員の地位を与える習慣がありました。しかし、現在は民主主義に反するとして廃止が進んでいます。例えば、チリでは2005年の改革で廃止され、ベネズエラでは1999年の憲法改正で上院自体が廃止されました。ペルーでもかつては存在しましたが、2024年の上院復活に際しても、国民的な不人気から終身議員制度は復活しませんでした。
唯一、パラグアイでは現在も元大統領に終身議員の地位が認められていますが、発言権のみで投票権は持たないという制限付きの形式となっています。
その他の歴史的事例
古代ローマの元老院は、紀元前753年の建国からビザンツ帝国の崩壊まで、基本的に終身制の議員で構成されていました。また、ブラジル帝国時代(1826〜1889年)には、皇帝が任命する終身議員制度が存在していました。ソマリアでも1960年憲法の下で元大統領に終身の議席が認められていた時期があります。
終身議員制度の比較まとめ
| 国・地域 | 現在の状況 | 主な任命基準・特徴 |
|---|---|---|
| イタリア | 維持 | 大統領による功績者任命(最大5名)および元大統領 |
| イギリス | 維持 | 貴族院メンバー(聖職者を除く基本終身) |
| ロシア | 維持 | 大統領による任命(最大7名)および元大統領 |
| パラグアイ | 維持 | 元大統領(発言権あり、投票権なし) |
| カナダ | 廃止 | 1965年に75歳定年制を導入 |
| チリ | 廃止 | 2005年の憲法改革により廃止 |
Frequently Asked Questions
終身議員とは具体的にどのような権限を持つのでしょうか?
国によって異なります。イタリアやロシアのように通常の議員と同様の権限を持つ場合もあれば、パラグアイのように「発言はできるが投票はできない」という限定的な権限しか持たない場合もあります。
なぜ終身議員という制度が存在するのですか?
主な理由は、国家への多大な貢献をした人物の知見を政治に活かすことや、元国家元首に名誉ある地位を提供して政治的な安定を図るためです。また、歴史的な伝統(イギリスの貴族制など)に基づいている場合もあります。
アメリカ合衆国に終身議員制度はありますか?
いいえ、ありません。1787年の憲法制定会議において、アレクサンダー・ハミルトンが民主主義の激しさを抑えるために終身制を提案しましたが、採用されず、現在は6年の任期制となっています。
終身議員は途中で辞めることはできないのですか?
可能です。イギリスの貴族院の例にあるように、自発的に辞任したり、引退したりすることができます。また、重大な不適切行為があった場合には除名される仕組みを持つ国もあります。
南米でこの制度が廃止された主な理由は何ですか?
選挙を経ずに議席を持つことが、現代の民主主義的な価値観(平等や代表制)に反すると見なされるようになったためです。特に「反民主主義的」であるという批判が強まり、多くの国で憲法から削除されました。
References
- Constitution de la République démocratique du Congo, Article 104 (paragraph 6): "Les anciens Présidents de la République élus sont de droit sénateurs à vie." (Loosely translated, this means "Former Presidents of the Republic are senators by right for life.") Source
- "République démocratique du Congo, Constitution du 1er août 1964, Article 75 (paragraph 4): "En sus des sénateurs visés au 2e alinéa du présent article, font de droit, partie à vie du Sénat les anciens présidents de la République."".
- Constitution of the Republic of Paraguay, 1992, Article 189 (subsection 1): "(1) Former presidents of the Republic who were democratically elected will be national senators for life, except for those who were impeached from office. (2) They will not count toward a quorum. They will have the right to speak, but not to vote."
- Закон РФ о поправке к Конституции РФ от 14.03.2020 N 1-ФКЗ "О совершенствовании регулирования отдельных вопросов организации и функционирования публичной власти". Ст. 1
- Constitution of the Republic of Rwanda, Article 82, section 5° (second paragraph): "Former Heads of State who honourably completed their terms or voluntarily resigned from office become members of the Senate by submitting a request to the Supreme Court." Source
- "Les sénateurs inamovibles". Archived from the original on 18 June 2006.
- La Chiraquie veut protéger son chef quand il quittera l'Elysée, , 14 January 2005
- See also the constitutional amendment proposals by senator
- Paz de Henríquez, Norma (3 June 1998). La conveniencia o no de los senadores vitalicios (PDF). Retrieved 10 January 2024.
- Frei retained his by being democratically elected in the and was from 2006 to 2008.