世界には数多くの言語が存在しますが、一つの言語の中にも時代による変遷や地域的な差異、あるいは使用される文字の違いといった「バリアント(変種)」が存在します。こうした細かな言語的差異を厳密に区別するために提案されたのが、国際標準規格のISO 639-6です。
この規格は、ISO/TC 37/SC 2によって開発され、言語のバリアントや言語族を表現するための4文字コードを導入しました。これにより、従来のISO 639-3では単一のコードでまとめられていた言語を、より詳細なレベルで識別することが可能になりました。
Key Facts
- 目的:言語のバリアントや言語族を詳細に識別するための4文字コードを提供すること。
- 開発主体:ISO/TC 37/SC 2および登録機関のGeoLangが研究・編纂を担当。
- 運用期間:2009年11月17日に発行され、2014年11月25日に撤回された。
- 主な機能:歴史的な言語形態と現代の復興言語の区別、および言語の祖先を辿る系統的な分類の提供。
- 文字の区別:同一言語であっても、使用される文字体系(スクリプト)が異なる場合に個別のコードを割り当てた。
ISO 639-6が解決しようとした課題
従来のISO 639-3では、ある言語に対して一つのコードが割り当てられていました。しかし、これでは「歴史的に話されていた言語」と「現代に復興した言語」を区別することができません。例えばマン島語の場合、ISO 639-3では単に「glv」と表記されますが、ISO 639-6では歴史的なマン島語(glvx)と復興後のマン島語(rvmx)を明確に使い分けることができました。
言語の系統樹と祖先へのアプローチ
ISO 639-6のデータベースの大きな特徴は、各言語や言語族をその主要な祖先へと紐付けていた点にあります。これにより、ユーザーは特定の言語がどのような系統を経て発展してきたのかという分類を辿ることができました。
以下に、英語を例とした系統的な分類の流れをまとめます。この構造により、現代英語から中英語、古英語、そしてさらに遡って印欧祖語や世界共通の未特定言語に至るまでの階層が可視化されていました。
| ISO 639-6コード | 言語・グループ名 | ISO 639-3範囲 | ISO 639-3タイプ | ISO 639-2/3コード |
|---|---|---|---|---|
| English | 英語 | 個別 | 生存 | eng |
| emse | 初期近代英語 (1485年頃–1660年頃) | 個別 | 生存 | (eng) |
| meng | 初期ミッドランド・南東中英語 | 個別 | 歴史的 | (enm) |
| enm | 中英語 (1066年頃–1350年頃) | 個別 | 歴史的 | enm |
| angl | アングロ・サクソン(古英語) (450年頃–1250年頃) | 個別 | 歴史的 | ang |
| nsea | アングリック(集団) | 集団 | - | (gmw) |
| gmcw | 北海ゲルマン語(インガヴェオニック) | 集団 | - | (gmw) |
| grmc | 西ゲルマン語 | 集団 | - | gmw |
| gem | ゲルマン語族 | 集団 | - | gem |
| ine | 印欧語族 | 集団 | - | ine |
| und | 世界(未特定) | 特殊 | - | und |
文字体系による詳細な分類
また、ISO 639-6は同一の言語であっても、使用される文字(スクリプト)が異なる場合にそれを区別する仕組みを持っていました。これは、複数の文化圏にまたがって使用された言語において非常に有用でした。
例えば、オスマン帝国で使用されていたオスマン・トルコ語(1500年–1928年)は、その表記方法に応じて以下のように細分化されていました。
- 基本コード (ota):オスマン・トルコ語全般
- アルメニア文字表記 (otah):アルメニア文字を用いたオスマン・トルコ語
- ギリシャ文字表記 (otap):ギリシャ文字を用いたオスマン・トルコ語
- ペルシア・アラビア文字表記 (ota):アラビア文字系を用いたオスマン・トルコ語
規格の撤回とその理由
2009年に公開されたISO 639-6でしたが、2014年11月25日に撤回されることとなりました。その主な理由は、この詳細すぎる分類体系を維持・管理し続けることの困難さと、実用面での有用性に対する懸念があったためです。
Frequently Asked Questions
ISO 639-6とはどのような規格でしたか?
言語のバリアント(変種)や言語族を詳細に区別するために、4文字のコードを割り当てた国際標準規格です。
ISO 639-3との最大の違いは何ですか?
ISO 639-3が言語を大まかに定義するのに対し、ISO 639-6は「歴史的形態か復興形態か」や「どの文字で書かれているか」といった、より細かいレベルでの識別を可能にしていました。
なぜこの規格は撤回されたのですか?
データの維持管理(メンテナンス)の難しさと、実際にどの程度有用であるかという点について懸念が生じたためです。
この規格ではどのような分類が可能でしたか?
特定の言語の祖先を辿る系統的な分類や、同一言語における異なる文字体系(例:オスマン・トルコ語におけるアラビア文字とギリシャ文字の使い分け)の区別が可能でした。
GeoLangとは何ですか?
ISO 639-6を支えるデータの研究および編纂を行った、ISOの登録機関のことです。