現代のビジネス環境において、企業の透明性と倫理観は持続可能な成長に不可欠な要素です。その中で、国際標準化機構(ISO)が2016年に策定したISO 37001は、組織が贈収賄のリスクを軽減し、健全な企業文化を構築するための世界的な指針となっています。
この規格は、単なるルールの策定にとどまらず、贈収賄を防止・検出し、適切に対応するための「贈収賄防止マネジメントシステム(ABMS)」の構築、運用、および継続的な改善を目的としています。組織が誠実さと透明性を重視する文化を醸成するための具体的なアプローチを提供します。
Key Facts
- 目的:贈収賄の防止、検出、および対応能力の向上。
- 適用範囲:贈収賄に特化しており、詐欺やマネーロンダリングなどは対象外。
- 柔軟性:単独での導入だけでなく、ISO 9001(品質管理)などの既存システムと統合可能。
- 構成:ISO共通のハイレベルストラクチャー(HSL)に基づいた10の条項で構成。
- 根拠:OECDや米国司法省、英国司法省などの国際的な規制当局の指針を反映。
ISO 37001の概要と目的
ISO 37001は、組織が贈収賄という深刻なリスクに対処するための枠組みを提供します。このシステムを導入することで、組織は法的な遵守(コンプライアンス)を強化し、社会的な信頼を勝ち取ることが可能になります。
重要な点として、本規格は贈収賄のみを対象としています。そのため、カルテルや詐欺、マネーロンダリングといった他の腐敗行為を直接的に扱うものではありません。あくまで贈収賄という特定の課題に対し、組織としての防御力を高めることに特化した規格です。
また、このシステムは独立して運用することもできますが、品質管理のISO 9001や環境管理、安全管理などの他のマネジメントシステムと組み合わせて導入することも推奨されています。
策定の背景と世界的な展開
本規格は、ISO/PC 278プロジェクト委員会によって開発され、2016年10月15日に初めて発行されました。現在は、組織のガバナンスを専門とする技術委員会「ISO/TC 309」がその維持と今後の発展を担っています。
策定にあたっては、国際商工会議所(ICC)や経済協力開発機構(OECD)、トランスペアレンシー・インターナショナルといった国際機関の知見が盛り込まれました。さらに、米国司法省(DOJ)や米国証券取引委員会(SEC)、英国司法省といった世界的な規制当局のガイドラインも反映されており、実効性の高い内容となっています。
世界的に見ても、シンガポールやペルーの政府がこのシステムを採用しているほか、中国の深セン市では2017年に本規格をベースとした独自の「深セン標準」を公開しました。また、マイクロソフトやウォルマートといったグローバル企業も、認証取得への意向を示しています。
規格の構成と運用の留意点
ISO 37001は、他の多くのISO規格と同様に「ハイレベルストラクチャー(HSL)」を採用しており、以下の10の条項で構成されています。
| 条項番号 | 項目名 |
|---|---|
| 1 | 適用範囲 |
| 2 | 引用規格 |
| 3 | 用語及び定義 |
| 4 | 組織の状況 |
| 5 | リーダーシップ |
| 6 | 計画 |
| 7 | 支援 |
| 8 | 運用 |
| 9 | パフォーマンス評価 |
| 10 | 改善 |
運用の際、注意すべき点は、本規格が「マネジメントシステム」の要件を定めたものであるということです。包括的な不正防止策をすべて網羅しているわけではありません。また、要件の中に「適切」や「合理的」といった主観的な表現が多く含まれているため、認証の価値や実効性は、審査を行う認証機関の厳格さや精査の度合いに大きく依存します。
Frequently Asked Questions
ISO 37001は詐欺やマネーロンダリングも防止できますか?
いいえ、ISO 37001は贈収賄の防止に特化した規格です。詐欺、カルテル、マネーロンダリングなどの他の腐敗行為については、本規格の直接的な対象外となっています。
他のISO規格と一緒に導入することは可能ですか?
はい、可能です。ISO 9001(品質マネジメントシステム)などの既存のシステムと統合して運用したり、環境や安全に関するシステムと併せて導入したりすることができます。
この規格はどのような基準に基づいて作成されましたか?
OECDやトランスペアレンシー・インターナショナルなどの国際機関の指針に加え、米国司法省(DOJ)や英国司法省といった主要な規制当局のガイドラインが取り入れられています。
認証を取得すれば、完全に贈収賄を防げるということですか?
本規格は贈収賄を防止・検出・対応するための「システム」を構築することを目的としています。規格内に主観的な判断基準が含まれるため、実際の効果はシステムの運用状況や認証機関による審査の徹底度によって異なります。
References
- International Organization for Standardization, ISO 37001 – Anti-bribery management systems
- "ISO 37001:2016(en) Anti-bribery management systems". www.iso.org. Retrieved 10 February 2024.
- "ISO/TC 309 - Governance of organizations". ISO. 9 December 2021. Retrieved 10 February 2024.
- "ISO publishes powerful new tool to combat bribery". ISO. Retrieved 31 July 2017.
- "Jerry Fang: Local Chinese regulator develops anti-bribery management system based on ISO 37001 - The FCPA Blog - The FCPA Blog". www.fcpablog.com. 31 July 2017. Retrieved 31 July 2017.
- "Microsoft and Wal-Mart seek ISO 37001 Anti-Bribery Certification - The FCPA Blog - The FCPA Blog". www.fcpablog.com. 11 May 2017. Retrieved 31 July 2017.
- "Is there value in pursuing ISO 37001 certification or should a company's focus be on using it to strengthen existing anti-corruption compliance programs?". Deloitte United States. Archived from the original on 31 July 2017. Retrieved 31 July 2017.