科学や技術の分野において、数値の意味を世界共通で正しく理解するためには、物理量と単位の厳格な定義が不可欠です。かつてその中心的な役割を担っていたのがISO 31という国際標準でした。この規格は、物理量の定義、測定単位、およびそれらの相互関係や表記方法を定めたものでしたが、現在はより包括的な規格へと統合されています。
ISO 31は、1992年に策定された後、時代の要請に合わせて改訂され、最終的にISO/IEC 80000へと引き継がれました。この移行は、単なる名称変更ではなく、電気技術分野の標準であったIEC 60027との統合による、より体系的な標準化を目指したものです。
Key Facts
- ISO 31は物理量と単位に関する旧国際標準であり、現在はISO/IEC 80000に置き換えられている。
- 全14パートで構成され、力学、熱、電気、音響など広範な科学分野をカバーしていた。
- ISO 31とIEC 60027の統合により、SI(国際単位系)と共に用いられる物理量と方程式の体系であるISQ(国際物理量系)が確立された。
- フランス語の直訳による「massic」や「volumic」といった独自の学術用語を英語圏の科学文献に導入した側面がある。
ISO 31の構成と後継規格への移行
ISO 31は、物理学の主要な領域を網羅するために14のパートに分かれていました。それぞれのパートは、現在のISO/IEC 80000の対応するセクションへと継承されています。
| ISO 31 パート | 対象分野 | 後継規格 (ISO/IEC 80000) |
|---|---|---|
| ISO 31-0 | 一般原則 | -1:2009 |
| ISO 31-1 / 31-2 | 空間、時間、周期現象 | -3:2007 |
| ISO 31-3 | 力学 | -4:2006 |
| ISO 31-4 | 熱 | -5 |
| ISO 31-5 | 電気および磁気 | -6 |
| ISO 31-6 | 光および電磁放射 | -7 |
| ISO 31-7 | 音響 | -8:2007 |
| ISO 31-8 | 物理化学および分子物理学 | -9 |
| ISO 31-9 / 31-10 | 原子・核物理学、核反応、電離放射線 | -10 |
| ISO 31-11 | 物理科学・技術用数学記号 | ISO 80000-2:2009 |
| ISO 31-12 | 特性数 | -11 |
| ISO 31-13 | 固体物理学 | -12 |
このように、ISO 31は基礎的な原則から高度な専門分野までを体系化しており、その精神は現在のISQ(International System of Quantities)へと受け継がれています。
言語的影響と専門用語の導入
興味深い点として、ISO 31-0の策定過程で、フランス語の表現をそのまま英語に置き換えた「借用訳(calques)」による新しい用語がいくつか導入されました。これらは一部の科学論文などで現在も使用されています。
- massic(質量あたりの):ある量をその質量で除した値(従来のspecificに相当)。
- volumic(体積あたりの):ある量をその体積で除した値(体積密度など)。
- areic(面積あたりの):ある量をその面積で除した値(表面密度など)。
- lineic(長さあたりの):ある量をその長さで除した値(線密度など)。
これらの用語は、物理的な定義をより厳密に区別するために提案されたものです。
各国における標準化の取り組み
国際標準であるISO 31に対し、各国でも独自のガイドラインが整備されてきました。例えばカナダでは「CAN/CSA-Z234-1-89」というメトリック実践ガイドが作成されましたが、これはISO 31-0の一部をカバーするにとどまり、全範囲を網羅したものではありませんでした。
米国においても、NIST(国立標準技術研究所)によるSP 811やSP 330、あるいはIEEE/ASTM SI 10などの文書が発行されています。これらはISO 31-0の多くの側面を補完していますが、ISO 31の全パートが定義していた包括的な物理量・単位リストを完全に代替するものではありません。
関連組織と参照リソース
物理量と単位の定義は、ISOだけでなく多くの国際機関の協力によって成り立っています。例えば、BIPM(国際度量衡局)はSI単位系に関する情報を公開しており、ISO 31-0の内容と深く関連しています。
また、物理学分野ではIUPAP(純粋・応用物理学国際連合)の文書(IUPAP-25など)がISO 31の基礎となり、化学分野ではIUPAC(純粋・応用化学国際連合)の定義や、通称「グリーンブック」と呼ばれる物理化学の量・単位・記号に関する書籍が重要な参照先となっています。
Frequently Asked Questions
ISO 31は現在も有効な規格ですか?
いいえ、ISO 31はすでに廃止(superseded)されており、現在はISO/IEC 80000に置き換えられています。
ISQとは何のことですか?
ISQ(International System of Quantities)は、国際単位系(SI)と共に使用される物理量と方程式の体系を指します。ISO 31とIEC 60027が統合されて誕生したISO/IEC 80000の中で定義されています。
ISO 31が導入した「massic」などの用語は一般的ですか?
これらはフランス語からの直訳であり、一部の科学文献で使用されていますが、一般的な英語表現(specificなど)に比べると限定的な使用にとどまっています。
ISO 31とISO 1000の違いは何ですか?
ISO 31は物理量とその関係性に焦点を当てた規格であり、ISO 1000はSI単位の使用方法や倍数に関する推奨事項をまとめたものです。これらはかつて「ISO規格ハンドブック」としてセットで提供されていました。
米国のNIST文書はISO 31の代わりになりますか?
NIST SP 811などの文書はISO 31-0(一般原則)の多くの内容をカバーしていますが、ISO 31の全パートに含まれていた詳細な物理量リストをすべて網羅しているわけではありません。
References
- "ISO 31-0:1992 Quantities and units — Part 0: General principles". International Organization for Standardization. Retrieved 8 May 2021.
- Tolga, G. O. K. (2016). The importance of symbols and units in natural science. The Eurasia Proceedings of Educational and Social Sciences, 4, 165-167.
- NIST SP811(§8.9)
- Mills, I. (1993). Quantities, units and symbols in physical chemistry/prepared for publication by Ian Mills...[et al.]. Oxford; Boston: Blackwell Science; Boca Raton, Fla.: CRC Press [distributor].
- Taylor, B. (1995). Guide for the use of the International System of Units (SI): the metric system. DIANE Publishing.
- Dietrich, P. M.; Streeck, C.; Glamsch, S.; Ehlert, C.; Lippitz, A.; Nutsch, A.; Beckhoff, B.; W. E. S., Unger (2015). "Quantification of silane molecules on oxidized silicon: are there options for a traceable and absolute determination?". Analytical Chemistry. 87 (19): 10117–10124. :2015AnaCh..8710117D. :10.1021/acs.analchem.5b02846. 26334589.
- Sertlek, H. Ö.; Slabbekoorn, H.; Ten Cate, C.; Ainslie, M. A. (2019). "Source specific sound mapping: Spatial, temporal and spectral distribution of sound in the Dutch North Sea". Environmental Pollution. 247: 1143–1157. :2019EPoll.247.1143S. :10.1016/j.envpol.2019.01.119. 30823343.