建設業界におけるデジタル変革の核となるBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)。その情報をライフサイクル全体でどのように管理し、共有すべきかを世界的に定義したのが「ISO 19650」シリーズです。この国際標準は、情報の作成から交換、検証、そして安全な保管に至るまでのプロセスを体系化し、プロジェクトに関わるすべての関係者が共通のルールで動くことを可能にします。
もともとは英国のPAS 1192シリーズという仕様をベースに、ISO/TC 59/SC 13によって国際規格化されました。現在では、英国BIMフレームワークのような各国独自のガイドラインと併せて活用されており、公共・民間を問わず世界中の大規模プロジェクトで採用されています。
Key Facts
- 目的:建設資産のライフサイクル全般におけるBIM情報管理の標準化。
- 構成:概念から運用、セキュリティ、安全衛生までをカバーする全6パートで構成。
- 核心的ツール:情報の単一ソースとなる「共通データ環境(CDE)」の活用を重視。
- 最新動向:2025年に安全衛生に関するパート6が追加され、2026年には一部パートの改訂が予定されている。
ISO 19650の全体構造と各パートの詳細
ISO 19650は、単一の規格ではなく、役割やフェーズに応じて詳細を定めたシリーズ形式となっています。以下に各パートの役割をまとめます。
基礎概念と設計・建設フェーズ(パート1・2)
パート1(2018年発行)では、情報管理の根幹となる用語や原則、役割、そして情報提供サイクルの概念を定義しています。また、CDEにおけるステータスコードや承認プロセスの基本方針もここで示されます。
パート2(2018年発行)は、設計および建設段階に特化したプロセスを規定しています。ここでは、BIM実行計画(BEP)や、マスター情報提供計画(MIDP)、タスク情報提供計画(TIDP)といった具体的な成果物の作成と、それに基づいた発注・入札プロセスとの整合性が求められます。
運用フェーズと情報交換の質(パート3・4)
パート3(2020年発行)は、建物の完成後の運用、メンテナンス、改修段階に焦点を当てています。プロジェクト情報モデル(PIM)から資産情報モデル(AIM)への移行プロセスや、情報の更新を促すトリガーイベントについて定義しています。
パート4(2022年発行)は、情報の「交換」そのものの品質を担保するための基準です。情報の提供者、受信者、レビュー者の役割を明確にし、検証および受理するための判定基準を設けることで、モデルの信頼性を高めます。
セキュリティと安全衛生の管理(パート5・6)
パート5(2020年発行)では、機密性の高い情報に対するセキュリティ管理を扱います。資産やプロジェクトに関連する機密情報の分類と制御方法を規定し、BIM管理の中にセキュリティの視点を組み込んでいます。
パート6(2025年発行)は、ライフサイクル全体を通じた安全衛生情報の共同管理を目的としています。特に高リスク建築物における「ゴールデン・スレッド(情報の黄金の糸)」の維持を支援し、設計責任者や施工責任者がリスク情報を構造的に管理できるよう設計されています。
情報管理を支える重要コンセプト
共通データ環境(CDE)
CDE(Common Data Environment)とは、プロジェクトに関わる全者が合意した唯一の情報ソースです。ここでは、作業中(WIP)、共有、公開、アーカイブというステータス遷移によるバージョン管理が行われ、誰がいつ何を更新したかという監査可能性が確保されます。
役割の定義と情報要求
本規格では、責任範囲を明確にするため、「任命側(Appointing Party)」「主任命側(Lead Appointed Party)」「任命側(Appointed Party)」という一貫した役割名称を使用しています。また、組織(OIR)、資産(AIR)、プロジェクト(PIR)の各レベルでの情報要求や、交換情報要求(EIR)を用いて、必要な情報を具体的に定義します。
ISO 19650 シリーズ概要まとめ
| パート | 名称 | 発行年 | 主な焦点 |
|---|---|---|---|
| Part 1 | 概念と原則 | 2018 | 基本用語、CDEの概念、情報サイクル |
| Part 2 | 資産の提供フェーズ | 2018 | 設計・建設時のプロセス、BEP/MIDP/TIDP |
| Part 3 | 資産の運用フェーズ | 2020 | 運用・保守、PIMからAIMへの移行 |
| Part 4 | 情報交換 | 2022 | 交換プロセスの判定基準、検証と受理 |
| Part 5 | セキュリティ管理 | 2020 | 機密情報の分類とアクセス制御 |
| Part 6 | 安全衛生情報 | 2025 | リスク情報の共有、安全衛生のライフサイクル管理 |
Frequently Asked Questions
ISO 19650はどのような背景で誕生したのですか?
英国で策定されたPAS 1192シリーズというBIM仕様を国際的に標準化することを目的に、ISO/TC 59/SC 13によって開発されました。
CDE(共通データ環境)を導入するメリットは何ですか?
情報のバージョン管理やステータス遷移(作業中から公開まで)を厳格に行うことで、関係者間での情報の不整合を防ぎ、監査可能な透明性の高い管理が可能になります。
PIMとAIMの違いは何ですか?
PIM(プロジェクト情報モデル)は設計・建設段階で作成されるモデルであり、AIM(資産情報モデル)は運用・保守段階で活用されるために最適化されたモデルを指します。
今後の規格改訂の予定はありますか?
パート1から3については2024年からレビューが行われており、パート1と2の修正案(DIS)は2026年3月、パート3の修正案は2026年6月に公開される予定です。
パート6で言及されている「ゴールデン・スレッド」とは何ですか?
特に高リスクな建築物において、設計から運用まで一貫して正確な安全衛生情報を保持し続けるための「情報の連鎖」のことを指します。
References
- "Better building with new International Standards for BIM". ISO.org. 21 January 2019. Retrieved 10 October 2025.
- "Guidance Part 2: Processes for Project Delivery (4th ed., April 2020)" (PDF). UK BIM Framework. April 2020. Retrieved 10 October 2025.
- "ISO 19650-1:2018". ISO.org. Retrieved 10 October 2025.
- "ISO 19650-2:2018". ISO.org. Retrieved 10 October 2025.
- "ISO 19650-3:2020". ISO.org. Retrieved 10 October 2025.
- "ISO 19650-4:2022". ISO.org. Retrieved 10 October 2025.
- "ISO 19650-5:2020". ISO.org. Retrieved 10 October 2025.
- "ISO 19650-6:2025". ISO.org. Retrieved 10 October 2025.
- "Proposed changes to ISO19650 BIM standard unveiled". Digital Construction Today. 2 March 2026. Retrieved 4 March 2026.
- "ISO 19650-4:2022 (preview)" (PDF). Iteh Standards (preview). Retrieved 10 October 2025.