地球の内部でマグマが生成され、冷却して岩石へと変化する過程では、化学元素が複雑に移動します。その中で、特定の鉱物の結晶構造に入り込みにくい性質を持つ元素を不適合元素(Incompatible Elements)と呼びます。これらの元素がどのように振る舞うかを理解することは、地球の地殻やマントルの進化を解明する鍵となります。
不適合元素の定義とメカニズム
不適合元素とは、岩石を構成する鉱物の陽イオンサイト(イオンが収まる空間)に対して、そのサイズ(イオン半径)や電荷が適合しない元素のことです。地球化学では、鉱物とメルト(溶融した岩石)の間で元素がどのように分配されるかを示す「分配係数」を用いて定義されます。不適合元素の場合、この分配係数が1よりも大幅に小さくなるため、固体よりも液体側に留まる傾向があります。
この性質により、マントルや地殻が部分的に溶けてマグマが発生する際や、マグマが冷却して結晶が分離する「分化作用(fractional crystallization)」が起こる際、不適合元素は結晶に取り込まれず、液相であるマグマ中に濃縮されていきます。
不適合元素の分類
不適合元素は、その化学的特性に基づいて主に2つのグループに分けられます。
1. 大イオン親石元素 (LILE)
LILE(Large-Ion Lithophile Elements)は、イオン半径が大きいことが特徴のグループです。代表的な元素には、カリウム (K)、ルビジウム (Rb)、セシウム (Cs)、ストロンチウム (Sr)、バリウム (Ba) などが含まれます。
2. 高電場強度元素 (HFSE)
HFSE(High-Field-Strength Elements)は、イオン価数(電気的な電荷)が高いことが特徴のグループです。これには、ジルコニウム (Zr)、ニオブ (Nb)、ハフニウム (Hf)、タンタル (Ta)、トリウム (Th)、ウラン (U)、および希土類元素 (REE) が含まれます。
希土類元素(REE)の詳細な分類
不適合元素の中でも特に重要な希土類元素(ランタノイド系列)は、その質量によってさらに2つのグループに分類されます。
- 軽希土類元素 (LREE):ランタン (La)、セリウム (Ce)、プラセオジウム (Pr)、ネオジウム (Nd)、サマリウム (Sm)
- 重希土類元素 (HREE):ユウロピウム (Eu) からルテチウム (Lu) まで
これらの元素の含有量によって、岩石やマグマの状態を評価できます。LREEが豊富であるか、あるいはわずかに減少している状態を「肥沃(fertile)」と呼び、逆にLREEが著しく欠乏している状態を「枯渇(depleted)」と表現します。
Key Facts
- 不適合元素は、サイズや電荷が合わないため鉱物の結晶構造に入りにくい元素である。
- 分配係数が1より大幅に小さいため、固体よりもメルト(液体)に濃縮される。
- LILEは「大きなイオン半径」を持つ元素群であり、HFSEは「高い電荷」を持つ元素群である。
- 希土類元素は質量によりLREE(軽)とHREE(重)に分けられ、LREEの量で岩石の「肥沃」か「枯渇」かが判断される。
| 分類名 | 特徴 | 代表的な元素 |
|---|---|---|
| LILE (大イオン親石元素) | イオン半径が大きい | K, Rb, Cs, Sr, Ba |
| HFSE (高電場強度元素) | イオン価数(電荷)が高い | Zr, Nb, Hf, Th, U, Ta, REE |
| LREE (軽希土類元素) | 希土類の中の低質量側 | La, Ce, Pr, Nd, Sm |
| HREE (重希土類元素) | 希土類の中の高質量側 | Eu 〜 Lu |
Frequently Asked Questions
不適合元素がマグマに濃縮されるのはなぜですか?
これらの元素は、結晶化してできる鉱物の構造(陽イオンサイト)に収まるには大きすぎたり、電荷が強すぎたりするためです。その結果、固体に取り込まれず、残った液体(メルト)の中に追い出される形で濃縮されます。
分配係数とは具体的に何を意味しますか?
ある元素が「固体(鉱物)」と「液体(メルト)」のどちらにどれだけ入りやすいかを示す比率のことです。不適合元素の場合、この値が1よりずっと小さいため、液体側に優先的に分配されます。
LILEとHFSEの決定的な違いは何ですか?
主な違いは「不適合である理由」にあります。LILEは主にイオンの「大きさ」が原因で結晶に入りにくいのに対し、HFSEは主にイオンの「電荷(価数)」が高いために反発し、結晶に入りにくいという特性があります。
「肥沃な岩石」と「枯渇した岩石」とはどういう意味ですか?
これは主に軽希土類元素(LREE)の含有量に基づいた表現です。LREEを多く保持している、あるいは減少が少ない岩石を「肥沃(fertile)」、LREEが大幅に失われた岩石を「枯渇(depleted)」と呼び、その岩石が辿った地質学的履歴を示します。
References
- Albarède, Francis (2003). Geochemistry: an introduction. Cambridge University Press. .
- Mange, Maria A.; Wright, David Thomas (2007). Heavy minerals in use. Vol. 58. Elsevier. p. 370. .