地球の地殻を構成する火成岩の中でも、ソレアイト系列(Tholeiitic magma series)は極めて重要な役割を担っています。これは亜アルカリ岩(subalkaline igneous rocks)に分類されるマグマの一種であり、マフィックな(苦鉄質な)マグマが分化し、よりシリカに富んだ組成へと進化していく過程を示す化学的な一連の流れを指します。
この系列には、ソレアイト玄武岩をはじめ、フェロ玄武岩、ソレアイト玄武岩質安山岩、ソレアイト安山岩、デイサイト、そして流紋岩まで、多様な岩石が含まれます。かつてはこれらの玄武岩を総称して「ソレアイト」と呼んでいましたが、現在は国際地質科学連合(IUGS)の推奨に基づき、「ソレアイト玄武岩」という呼称が一般的です。

Key Facts
- 主要な分布: 中央海嶺で生成され、海洋地殻の大部分を構成している。
- 化学的特徴: カルクアルカリ系列に比べ、鉄に富み、マグネシウムとアルミニウムが少ない。
- 還元的な環境: 酸素分圧が低い(還元的な)環境で結晶化し、鉄の含有量が増加しやすい。
- 月面岩石: 月で見つかるほぼすべての玄武岩がこのソレアイト玄武岩に該当する。
- 名称の由来: ドイツのザールラント州トーリー(Tholey)近郊の地域に由来する。
地球化学的な分類と分化プロセス
ソレアイト系列を理解する鍵は、マグマが冷えて固まる際の「酸化還元状態」にあります。ソレアイトマグマは還元的な性質を持っており、これが対照的なカルクアルカリ系列(酸化的な性質を持つ)との決定的な違いとなります。
結晶化の過程において、ソレアイトマグマではまずマグネシウムに富み鉄に乏しいカンラン石や輝石が優先的に析出します。その結果、残された液相(メルト)の中では相対的に鉄の濃度が高まっていくという特徴があります。一方、カルクアルカリマグマでは酸化が進んでいるため、磁鉄鉱(マグネタイト)が大量に析出し、鉄の濃度が安定したまま冷却が進みます。
このような組成の変化は、アルカリ(A)、鉄(F)、マグネシウム(M)の比率を示すAFM図で明確に視覚化できます。ソレアイト系列では、まずマグネシウムが急激に減少するため、図上でマグネシウムの頂点から遠ざかる軌跡を描き、その後アルカリの頂点へと向かいます。対してカルクアルカリ系列は、鉄とマグネシウムの比率が一定に保たれるため、ほぼ直線的にアルカリ側へ移動します。

組成による識別点
特に苦鉄質な端成分である玄武岩においては、アルミニウム含有量(Al2O3)で区別が可能です。ソレアイト玄武岩が12%〜16%であるのに対し、カルクアルカリ玄武岩は16%〜20%と高い値を示します。ただし、進化が進んだ珪長質(フェルシック)な岩石になると両者の区別は困難になり、一般的に花崗岩などはカルクアルカリ系列に分類されます。
岩石学的特徴(ペトログラフィー)
ソレアイト玄武岩の主成分は、カンラン石、単斜輝石、斜長石であり、少量の鉄チタン酸化物が含まれます。また、斜方輝石やピジョン輝石が見られることもあり、カンラン石の周囲をこれらのカルシウムに乏しい輝石が縁取る構造が観察されることがあります。
地質薄片の観察では、微粒な石基(グランドマス)の中にトリディマイトや石英が含まれることがありますが、フェルドスパトイド(長石様鉱物)は含まれません。また、他の玄武岩と同様に、ガラス質の石基を持つ場合もあります。


地質学的背景と生成メカニズム
ソレアイト岩は地球の地殻で最も一般的な火成岩であり、特に中央海嶺における海底火山活動によって大量に生成されます。ここで形成される玄武岩はMORB(Mid-Ocean Ridge Basalt:中央海嶺玄武岩)と呼ばれ、海洋地殻の主成分となっています。
これらのマグマは、地球のマントルを構成するレルゾライト(カンラン石、エンスタタイト、ディオプサイドからなる岩石)が、減圧溶融というプロセスを経て部分溶融することで発生します。この分化過程において、海洋地殻という環境がマグマを還元的に導くため、ソレアイト的な組成へと進化します。
なお、アルカリ玄武岩は中央海嶺では一般的ではなく、主に海洋島や大陸で噴出します。一方で、ソレアイト玄武岩は海洋地殻だけでなく、一部の海洋島や大陸でも見られます。また、月は極めて還元的な環境であるため、月面の玄武岩はすべてソレアイト系列に属しています。
まとめ:ソレアイト系列の特性一覧
| 比較項目 | ソレアイト系列 | カルクアルカリ系列 |
|---|---|---|
| 酸化還元状態 | 還元的な環境 | 酸化的な環境 |
| 鉄(Fe)の挙動 | 分化に伴い増加しやすい | 磁鉄鉱の析出により安定 |
| Al2O3含有量(玄武岩) | 12% 〜 16% | 16% 〜 20% |
| 主な分布域 | 中央海嶺(海洋地殻)、月面 | 島弧、大陸弧など |
| AFM図の軌跡 | 曲線的にアルカリ側へ移動 | 直線的にアルカリ側へ移動 |
Frequently Asked Questions
ソレアイト玄武岩とカルクアルカリ玄武岩の最大の違いは何ですか?
最大の違いはマグマの酸化還元状態にあります。ソレアイト系列は還元的な環境で形成されるため、結晶化の過程で鉄が液相に濃集しますが、カルクアルカリ系列は酸化的な環境であるため、磁鉄鉱として鉄が早期に析出し、組成が安定します。
MORBとは何のことですか?
MORBは「Mid-Ocean Ridge Basalt」の略称で、日本語では「中央海嶺玄武岩」と呼ばれます。中央海嶺の海底火山活動によって生成されるソレアイト玄武岩のことであり、地球の海洋地殻の大部分を構成しています。
なぜ月面の玄武岩はすべてソレアイト系列なのですか?
月は地球に比べて極めて還元的な(酸素が少ない)環境であるため、マグマが分化する際にソレアイト系列特有の化学的挙動を示すからです。
AFM図でソレアイト系列はどう見えますか?
AFM図(アルカリ・鉄・マグネシウムの3成分図)において、ソレアイト系列はまずマグネシウム(M)が急激に減少して図の左側へ移動し、その後、鉄(F)を失いながらアルカリ(A)の頂点へ向かうという、特徴的な曲線を描きます。
ソレアイト系列に含まれる岩石にはどのようなものがありますか?
玄武岩(ソレアイト玄武岩、フェロ玄武岩)から始まり、玄武岩質安山岩、安山岩、デイサイト、そして最も分化した流紋岩まで、シリカ含有量の増加に伴う一連の岩石が含まれます。
References
- Le Maitre et al. 2002
- Berndt, J.; Koepke, J.; Holtz, F. (2004). "An experimental investigation of the influence of water and oxygen fugacity on differentiation of MORB at 200 MPa". Journal of Petrology. 46 (1): 135–167. :2004JPet...46..135B. :10.1093/petrology/egh066.
- Philpotts and Ague 2009, pp. 143-146
- Philpotts and Ague 2009, p.144
- "Polarized Light Microscopy Digital Image Gallery: Tholeiitic Basalt" (Accessed 4/1/06)
- Mindat Location
📸 フォトギャラリー



