自然界の生物が進化するプロセスをコンピュータ上で再現し、最適なプログラムを自動的に作り出す技術、それが遺伝的プログラミング(Genetic Programming, GP)です。これは人工知能の一分野である進化計算に基づいた手法であり、人間がコードを一行ずつ書くのではなく、プログラムの「集団」を世代交代させながら、目的の機能を持つ個体を「進化」させます。
GPの最大の特徴は、解決策となるプログラム自体の構造を最適化できる点にあります。これにより、人間が事前に正解の形式を定義していなくても、データから最適な数式やアルゴリズムを導き出すことが可能です。

Key Facts
- 自然選択の模倣:適応度の高いプログラムが生き残り、次世代に特性を継承する。
- プログラムの表現:伝統的にツリー構造(木構造)で表現され、再帰的に評価される。
- 主要な演算:選択、交差(組み換え)、突然変異の3つの遺伝的操作を用いる。
- 人間超えの成果:ジョン・コーザらにより、人間が設計したプログラムと同等以上の性能を持つ事例が多数報告されている。
- 多様な表現形式:ツリー型以外に、線形GPやグラフベースのデカルト遺伝的プログラミングなどが存在する。
遺伝的プログラミングの歴史的展開
プログラムを「進化」させるという概念は、1950年にアラン・チューリングが提唱したことにまで遡ります。その後、ジョン・ホランドによる遺伝的アルゴリズム(GA)の理論的基盤が確立され、1980年代に入るとリチャード・フォーサイスが犯罪現場の証拠分類のためにツリー形式の小規模プログラムを成功させました。
現代的な「ツリーベースGP」の形を整えたのは、ニコル・クレイマーやジョン・コーザらです。特にコーザは1992年以降、数多くの著作やビデオを通じてGPを普及させ、人間が設計した手法に匹敵する「人間競争的(Human-competitive)」な結果を数多く提示しました。
初期のGAは固定長の表現が主流でしたが、GPは可変長の表現を採用したことで、より柔軟なプログラム構造の探索が可能となりました。これは、ロボットの軌道計画や、不規則な染色体を用いる「メッシー遺伝的アルゴリズム」などの先駆的な研究が影響しています。
プログラムをどう表現し、どう生成するか
プログラムの表現形式
GPでは、プログラムをメモリ上でツリー構造として保持するのが一般的です。内部ノードに演算子(関数)を、末端ノード(リーフ)にオペランド(変数や定数)を配置することで、数学的な数式を容易に表現し、再帰的に計算できます。このため、Lispのような関数型言語と親和性が高いのが特徴です。

一方で、命令型言語に近い「線形遺伝的プログラミング(LGP)」や、グラフ構造を用いる「デカルト遺伝的プログラミング(CGP)」など、ツリー以外の表現手法も開発されています。また、プログラムの中には実行結果に影響を与えない「イントロン(非コード領域)」が含まれることがありますが、これが変異の確率を変化させ、結果的に収束を早める効果があることが分かっています。
初期集団の生成方法
進化のスタート地点となる最初のプログラム集団は、主に以下の手法で作成されます。
- Grow法:ルートから順にノードを生成し、一定の深さに達するまでランダムに端末ノードか関数ノードを配置します。
- Full法:すべての枝があらかじめ決められた最大深さに達するまで生成し、均一な形状のツリーを作ります。
- Ramped half-and-half法:深さの異なる複数のグループを作り、それぞれのグループ内でGrow法とFull法を半分ずつ適用して、多様なサイズの個体を揃えます。
進化を促す遺伝的操作
選択(Selection)
定義された適応度関数(Fitness Function)に基づき、性能の良い個体を優先的に次世代の親として選び出します。代表的な手法に「トーナメント選択」があり、他にも適応度比例選択などが用いられます。また、最優秀個体を無条件で次世代に残す「エリート主義」を採用することで、性能の退化を防ぐことがあります。
交差(Crossover)
2つの親プログラムからランダムに部分木(サブツリー)を選び、それらを入れ替えることで新しい子プログラムを生成します。これにより、異なる個体が持つ優れた特性を組み合わせることが可能です。

突然変異(Mutation)
プログラムの一部をランダムに書き換える操作です。例えば、ある部分木を完全に新しいランダムなコードに置き換えたり、末端の変数だけを変更したりします。これにより、集団に新しい遺伝的バリエーションが導入され、局所解(局所的な最適解)に陥ることを防ぎます。

実社会への応用と高度な発展
GPは、正解の形式が未知である問題や、近似解で十分なケースで威力を発揮します。具体的な応用例は多岐にわたります。
- データ解析:シンボリック回帰による数式モデルの構築、曲線あてはめ。
- 産業利用:金融モデリング、化学産業のプロセス最適化、バイオインフォマティクス。
- 機械学習:特徴量選択、分類器の自動生成。
メタ遺伝的プログラミング
さらに高度な概念として、GPシステム自体をGPで進化させる「メタ遺伝的プログラミング」が提案されています。これは、交差や突然変異のルールそのものを進化させることで、人間が設計したアルゴリズムよりも効率的に解を導き出す仕組みを目指すものです。
GPの進化年表
GPの発展は、表現形式の多様化と効率化の歴史と言えます。
| 年 | 手法・概念 | 特徴 |
|---|---|---|
| 1992 | GPの導入 | コンピュータプログラムの集団を遺伝的に育成する手法を確立 |
| 2000 | デカルトGP / 文法ガイドGP | グラフ表現の導入や、初期化時の動的な文法 pruning の適用 |
| 2001 | 遺伝子発現プログラミング | 新しい適応アルゴリズムによる問題解決アプローチ |
| 2012 | マルチジーンGP / 幾何意味的GP | パラメータ推定と構造選択の組み合わせ、意味空間での直接探索 |
| 2015 | サロゲートGP / メメティック意味的GP | 意味論的な意識を持った進化探索の導入 |
| 2017 | 統計的GP | 統計情報を利用して構造化された部分木を生成 |
| 2018 | 多次元GP | 多次元特徴量に対応した新しいプログラム表現 |
Frequently Asked Questions
遺伝的アルゴリズム(GA)と遺伝的プログラミング(GP)の違いは何ですか?
GAは主に固定長の文字列(ビット列など)を最適化しますが、GPはプログラムという可変長の構造(主にツリー構造)を最適化します。つまり、GAは「パラメータの最適化」に近く、GPは「アルゴリズム自体の生成」を目的としています。
「局所解への早期収束」とはどのような現象ですか?
進化の過程で、全体の中では最高ではないものの、周囲よりは少し良い解(局所最適解)が見つかった際、集団全体がその解に似通ってしまい、真の最適解(グローバル最適解)に到達できなくなる現象です。これを避けるために、大きな初期集団や多様な突然変異が必要です。
適応度関数とは具体的に何を指しますか?
生成されたプログラムが、目的とするタスクをどれだけ正確に遂行できたかを数値化する指標です。例えば、数式を求める問題であれば、「正解の値とプログラムが出力した値の差(誤差)」が小さいほど適応度が高いと判定されます。
GPで作成したプログラムは人間が読めますか?
ツリー構造を数式やコードに変換すれば読むことは可能ですが、進化の過程で「イントロン」のような不要なコードが混入することが多く、人間にとって直感的でない複雑な構造になることがよくあります。
人間競争的(Human-competitive)な結果とはどういう意味ですか?
専門的な知識を持つ人間が設計したプログラムやアルゴリズムと同等、あるいはそれ以上の性能を、GPによって自動的に生成されたプログラムが達成したことを指します。
References
- "BEAGLE A Darwinian Approach to Pattern Recognition". www.cs.bham.ac.uk. Retrieved 2018-05-19.
- A personal communication with Tom Westerdale
- "A representation for the Adaptive Generation of Simple Sequential Programs". www.cs.bham.ac.uk. Retrieved 2018-05-19.
- "Non-Linear Genetic Algorithms for Solving Problems". www.cs.bham.ac.uk. Retrieved 2018-05-19.
- "Hierarchical genetic algorithms operating on populations of computer programs". www.cs.bham.ac.uk. Retrieved 2018-05-19.
- Goldberg. D.E. (1983), Computer-aided gas pipeline operation using genetic algorithms and rule learning. Dissertation presented to the University of Michigan at Ann Arbor, Michigan, in partial fulfillment of the requirements for Ph.D.
- "Genetic Programming: On the Programming of Computers by Means of Natural Selection". www.cs.bham.ac.uk. Retrieved 2018-05-19.
- "Genetic Programming:The Movie". gpbib.cs.ucl.ac.uk. 16 December 2020. Archived from the original on 2021-12-11. Retrieved 2021-05-20.
- "The effects of recombination on phenotypic exploration and robustness in evolution". gpbib.cs.ucl.ac.uk. Retrieved 2021-05-20.
- "Human-competitive results produced by genetic programming". www.cs.bham.ac.uk. Retrieved 2018-05-20.
📸 フォトギャラリー



