空を見上げたとき、白い糸を引いたように繊細で、刷毛で掃いたような筋が見えることがあります。これは巻雲(けんうん)、一般的に「絹雲」とも呼ばれる高層雲の一種です。その正体は液体の水ではなく、極低温の環境で形成された微細な氷の結晶です。ラテン語で「縮れ毛」や「 tendril(巻きひげ)」を意味する「cirrus」という名が示す通り、その独特な形状が特徴です。
巻雲は、暖かい乾燥した空気が上昇し、高高度にある鉱物ダストや金属粒子などの核に水蒸気が直接付着(凝華)することで誕生します。地球上のあらゆる場所で観測されますが、その形成高度は地域によって異なり、熱帯地方では非常に高く、極地方では比較的低い位置に現れます。

Key Facts
- 主成分:氷の結晶で構成されており、液体の水は含まれない。
- 出現高度:一般的に海抜6,000mから20,000mの極めて高い位置に形成される。
- 気候への影響:太陽光を透過させつつ地表からの赤外線を吸収するため、地球を温める効果がある。
- 予報のサイン:それ自体は雨を降らせないが、嵐や雨の前兆となることが多い。
- 光学現象:氷晶による光の屈折で、ハロー(光輪)やサンドッグなどの現象を引き起こす。
巻雲の構造と多様な形態
巻雲は単一の見た目ではなく、視覚的に区別できる5つの「種」に分類されます。これらはカステラーヌス、フィブラトゥス、フロッカス、スピッサトゥス、ウンキヌスの5種類です。さらに、これらは形状に応じてイントルトゥスやラディアトゥスなどの「変種」に細分化されます。

また、巻雲は単独で存在するだけでなく、激しい雷雨を伴う積乱雲の頂上部や、熱帯低気圧(台風やハリケーン)の周辺に広がる巨大なシールドとして現れることもあります。航空機が飛行した後に残る「飛行機雲(コントレイル)」も、本質的には人工的な巻雲の一種と言えます。

高度と厚みの変動
巻雲が形成される平均高度は、緯度によって大きく変動します。例えば、北緯・南緯65度付近の極圏では約7,000mですが、中緯度地域(45度付近)では約9,500m、熱帯地域(5度付近)では約13,500mまで上昇します。雲の厚みも多様で、わずか100mの薄い層から、最大で8,000mに達するものまで存在しますが、平均的な厚さは1,500m程度です。

氷の結晶と光学的な不思議
巻雲の内部には、10立方メートルあたり平均30万個という膨大な数の氷晶が含まれています。結晶のサイズは通常0.25ミリメートル程度ですが、状況によって数ミリメートルに達することもあります。なお、飛行機雲に含まれる結晶は、自然な巻雲よりもさらに小さく、0.001〜0.1ミリメートル程度であるのが一般的です。
これらの氷の結晶がプリズムのような役割を果たすため、太陽や月の光が屈折・反射し、美しい光学現象が生まれます。代表的なものに、太陽の周囲に現れる光の輪(ハロー)や、水平方向に現れる虹のような「環水平アーク」があります。

地球環境と気候への影響
巻雲は地球表面の最大25%(夜間の熱帯地方では最大70%)を覆っており、地球の熱収支に重要な役割を果たしています。薄い巻雲は、太陽からの可視光線はほとんど反射せずに透過させますが、地表から放出される赤外線(熱)を効率的に吸収して閉じ込めます。
例えば、厚さ100mの巻雲は太陽光を約9%しか反射しませんが、赤外線の約50%を遮断します。これにより、雲の下の気温を平均して10℃上昇させるという「温室効果」をもたらし、気候変動に寄与する可能性があります。
高層雲の親戚:巻積雲と巻層雲
巻雲と同じ高層に位置する雲として、巻積雲(けんせきうん)と巻層雲(けんそううん)があります。これらは見た目と性質が異なります。
- 巻積雲:小さな雲の塊が規則的に並んだ魚の鱗のような模様が特徴です。他の高層雲と異なり、氷晶だけでなく「過冷却水滴(氷点下でも液体のままの水)」を含んでいます。
- 巻層雲:空全体を薄いベールのように覆う白い層状の雲です。太陽や月が透けて見え、しばしばハローを伴います。この雲が厚くなり高度を下げて「高層雲」に変化すると、12〜24時間後に雨が降り始める傾向があります。



高層雲の比較まとめ
| 雲の種類 | 外観の特徴 | 主な構成成分 | 主な特徴・現象 |
|---|---|---|---|
| 巻雲 (Ci) | 白い筋状、繊細な糸状 | 氷晶 | 嵐の前兆、非常に高い高度 |
| 巻積雲 (Cc) | 小さな粒状、鱗状の模様 | 氷晶・過冷却水滴 | 波状のパターン |
| 巻層雲 (Cs) | 乳白色の薄い膜状 | 氷晶 | ハロー(光輪)の形成 |

地球外の巻雲
氷の結晶からなる雲という現象は、地球だけではありません。火星の表面上空でも巻雲のような雲が観測されており、これが火星における降雪現象に関与していると考えられています。また、ボイジャー2号の観測により、海王星にも巻雲が存在することが確認されています。


Frequently Asked Questions
巻雲から雨が降ることはありますか?
いいえ、巻雲自体から雨が降ることはありません。構成成分が氷の結晶であり、それが落下しても、より暖かい下層の空気中で蒸発または昇華するため、地上に届くことはありません。
巻雲が出ると天気が崩れると言われるのはなぜですか?
巻雲は、温暖前線などの接近に伴って最初に現れることが多いからです。特に巻層雲へと変化し、さらに厚い高層雲へと移行する場合、その後の12〜24時間以内に雨が降る可能性が高いため、気象予測の指標となります。
巻雲と巻積雲の違いは何ですか?
見た目の違いが大きく、巻雲が「筋状」であるのに対し、巻積雲は「粒状や鱗状」に見えます。また、物理的な違いとして、巻積雲には氷点下でも凍っていない「過冷却水滴」が含まれている点が挙げられます。
巻雲が地球温暖化に影響を与えるというのは本当ですか?
はい。巻雲は太陽光を透過させつつ、地表からの熱(赤外線)を吸収して閉じ込める性質があるため、正の放射強制力(温室効果)を持ち、大気を温める方向に働きます。
ハロー(光輪)はどのような仕組みで起こりますか?
巻雲や巻層雲に含まれる六角柱状の氷の結晶に、太陽や月の光が特定の角度で入射し、屈折・反射することで円形の光の輪として現れます。
References
- A hygrometer is a device used to measure humidity.
- The PALMS instrument utilizes an laser to vaporize aerosol particles in a vacuum. The ionized particles are analyzed with a mass spectrometer to determine mass and composition.
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