宇宙に浮かぶ星々や惑星には、地球と同じように「北極」や「南極」が存在します。しかし、広大な宇宙空間には上下の概念がないため、天文学では厳格な基準を用いてこれらの「極」を定義しています。恒星、惑星、小惑星、さらには彗星に至るまで、天体の回転や磁場を理解するための方向定義について詳しく見ていきましょう。
Key Facts
- 回転極の定義: 太陽系惑星の北極は、太陽系の不変平面に対して地球の北極と同じ側にあることで定義される。
- 回転方向の多様性: 多くの天体は反時計回りに回転するが、金星は時計回りであり、天王星はほぼ横倒しの状態で回転している。
- 小天体の定義: 小惑星や彗星などは、回転方向に基づいた「正の極」と「負の極」という呼称が用いられる。
- 磁気極と回転極: 両者は必ずしも一致せず、天王星のように大きく傾いているケースがある。
- 特殊な極: 同期回転する衛星には、主星に向く「近点極」やその反対の「遠点極」などが定義される。
回転軸による極の決定
天体の極は、その天体が回転する軸と、天球上の極との関係によって決まります。国際天文学連合(IAU)は、太陽系の惑星や衛星の北極を、不変平面(太陽系全体の平均的な軌道面)を基準に、地球の北極と同じ半球に位置する側と定義しています。
重要なのは、この定義が「回転する方向」とは無関係である点です。そのため、北極側から見たときに反時計回りに回転する天体もあれば、金星のように時計回りに回転する天体も存在します。また、天王星のように回転軸がほぼ垂直に寝ている特異な例もあります。なお、地球の天球赤道は不変平面に対して約23.44度傾いているため、不変平面の北側にあっても、地球基準の赤道座標では赤緯が負になる場合があります。
一方で、小惑星や彗星、矮惑星などの小さな天体は、回転軸が短期間で激しく変動(歳差運動)することがあります。そのため、2009年にIAUは右ねじの法則に基づいた定義を採用しました。右手の指を回転方向に巻いたとき、親指が指す方向を「正の極」、左手で同様に行った場合の方向を「負の極」と呼び、混乱を避けるために「北・南」という言葉を使わずに区別しています。
天体の極座標データ
惑星の北極を天球上に投影したものが「北天極」となります。以下の表は、J2000.0(2000年1月1日正午)時点の国際天球参照系(ICRF)に基づいた主要天体の極座標を示しています。ただし、月のように極の位置が激しく変動する天体もあります。
| 天体 | 北極(赤経 RA / 赤緯 Dec. / 星座) | 南極(赤経 RA / 赤緯 Dec. / 星座) |
|---|---|---|
| 太陽 | 286.13 / +63.87 / りゅう座 | 106.13 / −63.87 / りゅうこつ座 |
| 水星 | 281.01 / +61.41 / りゅう座 | 101.01 / −61.41 / じょうぎ座 |
| 金星 | 92.76 / −67.16 / ちょうぎ座 | 272.76 / +67.16 / りゅう座 |
| 地球 | — / +90.00 / こぐま座 | — / −90.00 / おくたん座 |
| 月 | 266.86 / +65.64 / りゅう座 | 86.86 / −65.64 / ちょうぎ座 |
| 火星 | 317.68 / +52.89 / はくちょう座 | 137.68 / −52.89 / ほ帆座 |
| 木星 | 268.06 / +64.50 / りゅう座 | 88.06 / −64.50 / ちょうぎ座 |
| 土星 | 40.59 / +83.54 / ケフェウス座 | 220.59 / −83.54 / おくたん座 |
| 天王星 | 257.31 / −15.18 / へびつかい座 | 77.31 / +15.18 / オリオン座 |
| 海王星 | 299.33 / +42.95 / はくちょう座 | 119.33 / −42.95 / とびうお座 |
| 冥王星(正の極) | 132.99 / −6.16 / うみへび座 | 312.99 / +6.16 / いるか座(負の極) |
なお、土星の衛星ヒペリオンや小惑星4179トゥタティスのように、形状が不規則で重力の影響を強く受ける天体は、安定した回転軸を持たず、極が表面をさまよったり一時的に消失したりする「カオス的回転」を起こすことがあります。
磁気極と軌道極
回転軸とは別に、天体には磁気極が存在します。これは磁力線が天体表面に対して垂直に交わる地点であり、地球と同様に磁場の向きによって北磁極と南磁極に分かれます。地球では回転軸と磁気軸はほぼ一致していますが、天王星のように回転軸が極端に傾いている天体では、磁気軸が回転軸から最大60度もずれている場合があります。
また、天体の公転軌道そのものにも方向性があり、その角運動量ベクトルが指す方向を軌道極と呼びます。例えば、地球の軌道極(黄道極)は、りゅう座の方向を指しています。
同期回転する衛星の特殊な極
木星の衛星イオのように、常に同じ面を主星に向けて回転する「同期回転」を行う衛星では、さらに4つの特殊な極が定義されます。
- 近点極(Near Pole): 主星が天頂(真上)に位置する点。
- 遠点極(Far Pole): 主星が天底(真下)に位置する点。
- 先行極(Leading Pole): 軌道進行方向の最前方に位置する点。
- 後行極(Trailing Pole): 軌道進行方向の最後方に位置する点。
これらの点は、軌道の離心率や他の衛星からの重力干渉による「秤動(ひょうどう)」というわずかな揺れがあるため、厳密には固定されておらず、平均的な位置として定義されています。
Frequently Asked Questions
なぜ小惑星には「北極」ではなく「正の極」という言葉を使うのですか?
小惑星や彗星の中には、回転軸が非常に短期間で変動し、数十年で北極と南極が入れ替わってしまうものがあるためです。不変平面に基づいた「北・南」の定義では混乱を招くため、回転方向に基づいた「正・負」という相対的な定義が採用されています。
すべての惑星は反時計回りに回転しているのでしょうか?
いいえ。太陽や地球を含む多くの天体は反時計回りに回転していますが、金星は時計回りに回転しています。また、天王星は回転軸がほぼ横倒しになっており、他の惑星とは全く異なる回転形態を持っています。
磁気極と回転極(地理的な極)は常に一致しますか?
一致しません。地球では比較的近い位置にありますが、天体によっては大きく異なります。例えば天王星では、磁気軸が回転軸から約60度も傾いていることが分かっています。
同期回転する衛星の「近点極」とは具体的にどのような場所ですか?
その衛星の表面で、常に主星(例えば木星)が真上に見える地点のことです。同期回転しているため、この地点からは常に主星が天頂に位置し続けます。
天体の極の位置は永遠に変わりませんか?
いいえ、多くの天体は歳差運動などによって極の位置が時間とともに変化します。特に月などの衛星は変動が激しく、座標データは特定の基準時刻(J2000など)における値として記録されています。
References
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