地球上の地図に地名があるように、他の惑星や衛星の表面にある地形にも固有の名前が付けられています。これを惑星命名法と呼びます。天文学者が望遠鏡で未知の地表を観測し始めて以来、特に月や火星では多くの特徴的な地形に名前が付けられてきました。しかし、研究者が増えるにつれ、名称の混乱を避けるための統一的な基準が必要となりました。そこで1919年に設立されたのが国際天文学連合(IAU)であり、現在に至るまで太陽系天体の名称を標準化する権威として機能しています。
かつての地図では、現代の基準が確立される前に独自の名称が付けられていた例が多く見られます。

Key Facts
- 管理機関:国際天文学連合(IAU)の惑星系命名作業部会(WGPSN)が正式な承認を行う。
- 命名基準:原則として最大幅100メートル以上の地形が対象となる。
- 禁止事項:現代の政治的、軍事的、宗教的な意味を持つ名称は使用できない。
- 構成:多くの地名には「記述子(地形の種類を示す用語)」が付随する(例:Planitia=平原)。
- 目的:科学的な議論や地図作成において、特定の場所を正確に特定し共有すること。
名称が決定されるまでのプロセス
天体の表面画像が初めて得られた際、まずはIAUのタスクグループによって命名の「テーマ」が決定され、主要な地形に名前が付けられます。その後、高解像度の地図が作成される過程で、研究者からの要望に基づき追加の命名が行われます。
誰でも名称の提案が可能ですが、タスクグループによる審査を経て、最終的にWGPSN(惑星系命名作業部会)の承認を得ることで「正式名称」として確定します。承認された名前は「惑星命名ガゼッタ(Gazetteer of Planetary Nomenclature)」に登録され、公式な地図や論文で使用されます。
なお、探査機が活動している最中には、着陸地点や小さな岩石などに「非公式な名前」が付けられることがよくあります。これらは科学的な便宜上の呼称であり、IAUの厳格なルールに従わない限り、正式な地名としては認められません。
命名の基本ルールと記述子の役割
地名を付ける際は、混乱を防ぐために同一の名称を複数の天体で重複させないことが推奨されています。また、科学的価値が高い場合を除き、不必要に多くの名前を付けることは避けられています。
惑星の地名は通常、記述子と呼ばれる地形の種類を示すラテン語などの用語と組み合わせて構成されます。例えば、「Regio(地域)」や「Mons(山)」などがこれにあたります。ただし、クレーターの場合は記述子が暗黙的に含まれているため、個別の名称のみで表記されます。
一部の天体では、地形の性質に応じて特殊なルールが適用されます。例えば、火星や金星の谷やクレーターは、そのサイズによって命名規則が異なる場合があります。
以下に、代表的な記述子の例をまとめます。
| 記述子(単数/複数) | 意味・特徴 | 略称 |
|---|---|---|
| Planitia / Planitiae | 平原(低地) | PL |
| Mons / Montes | 山 | MO |
| Vallis / Valles | 谷 | VA |
| Chasma / Chasmata | 深い峡谷 | CM |
| Regio / Regiones | 色や反射率で区別される広域地域 | RE |
| Mare / Maria | 海(主に月の暗い平原) | ME |
冥王星のような遠方の天体では、その特徴的な形状に基づいた命名が行われています。


天体別の命名テーマ
IAUは天体ごとにユニークな命名テーマを設定しており、これによりその天体の個性が反映されています。
水星と金星
水星のクレーターには、亡くなった著名な芸術家や音楽家、作家の名前が付けられています。一方、金星の地名のほとんどは、神話や歴史上の女性の名前に統一されています(一部の例外を除く)。

火星とその衛星
火星の大きなクレーターには人口10万人未満の村の名前が、小さなクレーターには個別の名称が付けられています。また、衛星ダイモスの地名は、火星の衛星について書いた著者の名前に由来しています。


木星と土星の衛星
木星の衛星イオでは火や雷の神々、エウロパではケルト神話の人物などがテーマとなっています。土星の衛星タイタンでは、J.R.R.トールキンの『指輪物語』に登場する中つ国の地名や人物名が採用されているのが特徴的です。
天王星・海王星・冥王星
天王星の衛星はシェイクスピアやアレキサンダー・ポープの作品から、海王星のトリトンなどは水に関連する名称から選ばれています。冥王星では、神話や文学における「冥界」に関連する存在や場所がテーマとなっています。
また、衛星フォーベのような小天体でも、特定の文学作品に基づいた命名が行われています。

Frequently Asked Questions
なぜ地名にラテン語のような難しい言葉が使われるのですか?
天文学は歴史的に国際的な学問であり、特定の言語に偏らず、世界中の科学者が共通して理解できる標準的な言語としてラテン語が採用されてきたためです。
誰でも新しい地名を提案できるのでしょうか?
はい、提案自体は誰でも可能です。ただし、提案された名称がIAUの定めるルール(政治的・宗教的意味を含まないなど)に適合しているか、科学的な必要性があるかをタスクグループが審査し、最終的にWGPSNが承認する必要があります。
「非公式な名前」と「正式な名前」の違いは何ですか?
非公式な名前は、ミッション中の運用チームが便宜上付ける呼称(例:アイスクリームやキャラクターの名前)であり、内部的なコミュニケーションに使用されます。正式な名前はIAUによって承認され、公式地図や学術論文に記載される永続的な名称です。
非常に小さな岩石や丘にも名前が付くことはありますか?
原則として、最大幅が100メートル未満の地形には正式な名称は与えられません。ただし、科学的に極めて重要な価値がある場合は、例外的に認められることがあります。
同じ名前が別の惑星で使われることはありますか?
原則として、異なる天体間で同じ地名を重複させることは避けられています。ただし、その名称が極めて適切であり、混同の恐れが非常に低い場合に限り、例外的に許可されることがあります。
References
- Listed pronunciations are conventional or follow the words. However, some speakers use different (often variable) pronunciations that are closer to the Latin or Greek.
📸 フォトギャラリー






