20世紀のフランス音楽界において、独自の精神性と前衛的なアプローチを追求し続けた作曲家がアンドレ・ジョリヴェ(André Jolivet)です。彼は単なる形式的な美しさではなく、音楽が本来持っていたはずの「呪術的」あるいは「宗教的」な力を現代に蘇らせることを生涯の使命としました。音響学への深い関心と、古代から現代に至る多様な音楽的影響を融合させた彼の作品は、聴き手に強烈な感情的体験をもたらします。
Key Facts
- 音楽的追求:音楽に本来備わっていた呪術的・儀式的な意味を取り戻すことを目指した。
- 主要な師:ポール・ル・フレムから古典的基礎を学び、エドガー・ヴァレーズから音響学と無調音楽を習得した。
- グループ活動:オリヴィエ・メシアンらと共に、人間性を重視した作曲を目指す「ラ・ジュヌ・フランス」を創設。
- 多彩なキャリア:コメディ・フランセーズの音楽監督を務め、舞台音楽から独奏曲、協奏曲まで幅広く執筆した。
- 革新的な楽器:初期の電子楽器であるオンデス・マルトノのための協奏曲を書き上げた。
波乱に満ちた音楽的形成期
1905年、パリのモンマルトルに生まれたジョリヴェは、芸術家の父とピアニストの母という文化的な環境で育ちました。14歳でチェロと絵画を学びましたが、当初は親の勧めにより教職の道を歩み、パリの小学校で教師として勤務していました。しかし、ある恩師の後押しで作曲の道へ進むことを決意し、ポール・ル・フレムに師事して和声法や対位法といった古典的な基礎を徹底的に叩き込まれました。

彼の音楽人生における大きな転換点は、アーノルド・シェーンベルクの音楽に出会い、無調音楽(特定の調性に縛られない音楽)に惹かれたことでした。その後、ル・フレムの紹介でエドガー・ヴァレーズに師事します。ジョリヴェはヴァレーズの唯一のヨーロッパ人弟子となり、音の塊(サウンド・マス)やオーケストレーション、そして音楽音響学という科学的な視点を学びました。
「ラ・ジュヌ・フランス」と精神性の追求
1936年、ジョリヴェはオリヴィエ・メシアン、ジャン=イヴ・ダニエル=ルシュール、イヴ・ボードリエと共に「ラ・ジュヌ・フランス(若きフランス)」というグループを結成しました。彼らは、当時の主流であった新古典主義の機械的な抽象性を否定し、より人間的で精神的な表現を追求しました。この活動の原点となったのは、前年に結成された前衛室内楽協会「ラ・スピラル」にあります。
ジョリヴェの創作意欲の核にあったのは、「音楽を、かつての宗教的信念を表現していた呪術的・喚起的な原初的な意味に戻す」ことでした。例えば、ピアノ曲『マナ(Mana)』は、ヴァレーズから譲り受けた6つの彫刻をフェティッシュな物体として捉え、その精神性を音に変換しようとした試みの産物です。
スタイルへの挑戦と多様なキャリア
ジョリヴェの作風は時代とともに変遷しました。初期の無調的なアプローチから、第二次世界大戦中にはより叙情的で調性のあるスタイルへと移行します。その後、これら二つの対照的な方向性を融合させた独自の折衷案に到達し、1945年の『ピアノソナタ第1番』などにその成果が見て取れます。
また、彼は若い頃からの夢であった舞台音楽の世界でも成功を収めました。1945年から1959年までコメディ・フランセーズの音楽監督を務め、モリエールやシェイクスピアなどの名作に計14作品の音楽を提供しました。さらに、世界各地への旅から得たエジプト、中東、アフリカ、アジアの音楽的要素を、彼自身のフランス的な感性で再構築し、作品に取り入れました。

晩年には、フルート、ピアノ、チェロなど多種多様な楽器のための協奏曲を執筆しました。これらの作品は極めて高い技巧(ヴィルトゥオーゾ)を要求されることで知られています。また、1947年には初期の電子楽器であるオンデス・マルトノ(電子発振器を用いた鍵盤楽器)のための協奏曲を完成させるなど、常に新しい音の可能性を模索し続けました。
主要作品のまとめ
| カテゴリー | 代表作 | 特徴・備考 |
|---|---|---|
| 室内楽・独奏曲 | リノスの歌、5つの儀式舞曲、マナ | 呪術的・儀式的な性格が強い作品が多い |
| 協奏曲 | オンデス・マルトノ協奏曲、フルート協奏曲 | 高度な演奏技術を要求するヴィルトゥオーゾ作品 |
| 管弦楽 | 交響曲(全3曲)、デルポイの組曲 | 音響学的なアプローチと精神性の融合 |
| 舞台・声楽 | オペラ『ドロレス』、アンティゴネ | コメディ・フランセーズでの経験を反映 |
ジョリヴェは1974年、69歳でパリにてこの世を去りました。未完となったオペラ『無名戦士(Le Soldat inconnu)』を遺し、モンマルトル墓地に埋葬されました。

Frequently Asked Questions
アンドレ・ジョリヴェの音楽の最大の特徴は何ですか?
音楽に「呪術的」または「儀式的な」原初的な意味を取り戻そうとした点です。単なる形式美ではなく、宗教的な信念や感情的な爆発を表現することに重点を置きました。
「ラ・ジュヌ・フランス」とはどのようなグループでしたか?
メシアンらと共に結成した作曲家グループで、当時の新古典主義的な傾向(機械的・抽象的な構成)に反対し、より人間的で精神的な音楽の再構築を目指しました。
エドガー・ヴァレーズからどのような影響を受けましたか?
ヴァレーズから音楽音響学、無調音楽、そして「音の塊(サウンド・マス)」という概念を学びました。これにより、ジョリヴェの作品に現代的な音響アプローチが組み込まれました。
オンデス・マルトノとはどのような楽器ですか?
1928年に発明された初期の電子楽器です。ジョリヴェはこの楽器の特異な音色に着目し、1947年に協奏曲を書き上げました。
彼の作品はどのような演奏者に向けられていますか?
特に協奏曲などの作品においては、極めて高い技術的な熟練度を持つヴィルトゥオーゾな演奏者が想定されており、演奏上の難易度が非常に高いことで知られています。
References
- Duchesneau, M. (2007). L'avant garde musicale et ses sociétés à Paris de 1871 a 1939. Mardaga.
- Guigue, H. (1978). Avec...Andre Jolivet. Flammarion, Paris.
- Rae, C. (2006): "Jolivet on Jolivet. An Interview with the Composer's Daughter", in: The Musical Times, Spring 2006.
- Décès de l’artiste Merri Jolivet
- "André Jolivet: Six études (1931)" (work details) (in French and English). . 35081. Retrieved 4 July 2022.
- "Trois temps : pour piano / André Jolivet". . 1992. Retrieved 21 July 2021.
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