20世紀初頭のウィーンで誕生した新ウィーン楽派(Zweite Wiener Schule)は、西洋音楽の歴史における最大の転換点の一つを築いた作曲家集団です。中心人物であるアーノルド・シェーンベルクと、その弟子であるアルバン・ベルク、アントン・ウェーベルンらによって形成されたこのグループは、伝統的な調性音楽の枠組みを打ち破り、全く新しい音楽言語を模索しました。
彼らの音楽的旅路は、後期ロマン派の拡張された調性から始まり、やがて中心となる調を持たない「無調(atonality)」、そして厳格な構成を持つ「十二音技法」へと進化していきました。この革新的なアプローチは、後の現代音楽やセリエリズムに決定的な影響を与えることになります。

Key Facts
- 中心人物:アーノルド・シェーンベルク、アルバン・ベルク、アントン・ウェーベルン。
- 音楽的変遷:後期ロマン派的な調性 → 無調(表現主義) → 十二音技法へと移行。
- 十二音技法:半音階の12音すべてを均等に扱うことで、特定の調性を排除する作曲手法。
- 影響:ピエール・ブーレーズらによる、リズムや強弱まで体系化する「セリエリズム」へと発展。
- 本質:シェーンベルクの教本は保守的であったが、彼の創造的な姿勢が弟子たちに多大な影響を与えた。
音楽的革新:無調から十二音技法へ
新ウィーン楽派の最大の特徴は、音楽から「中心となる音(主音)」を排除したことにあります。初期の彼らは、感情を激しく表現する表現主義的な無調音楽を追求しましたが、その後、シェーンベルクはより体系的な作曲法として十二音技法を考案しました。
この技法では、西洋音楽の半音階に含まれる12個の音すべてを一度ずつ使用して「基本列(プライム・シリーズ)」という旋律を作成します。この列を基盤とし、以下のような変形(置換)を加えることで楽曲を構成します。
- 逆行(Retrograde):基本列を後ろから逆向きに演奏する。
- 反行(Inversion):音程の上下を反転させる。
- 逆行反行(Retrograde-Inversion):反転させた列をさらに逆向きに演奏する。

こうした厳格な手法は、後にピエール・ブーレーズなどの作曲家によって拡張され、音高だけでなくリズムやアーティキュレーション、強弱までも数値化して制御する「セリエリズム」へと進化しました。
楽派の構成メンバーと多様な個性
新ウィーン楽派は、単一のスタイルを強制する組織ではありませんでした。中心の3人であっても、その作風は大きく異なります。例えば、ウェーベルンはシェーンベルクの原則に極めて忠実な構成を追求しましたが、ベルクはより叙情的なアプローチを取りました。また、ロベルト・ゲルハルトやニコス・スカルコッタスのように、自国の民族音楽を融合させた作曲家も存在しました。
メンバーの範囲は広く、初期の弟子であるエルンスト・クレネクやエゴン・ヴェレス、さらにはベルリンでのマスタークラスに参加した人々や、彼らの弟子たち(ハンス・エーリヒ・アポステルなど)まで含まれます。一方で、シェーンベルクの親族であるアレクサンダー・ツェムリンスキーは、伝統的な調性を維持したため、楽派への含め方については議論があります。
また、このグループは音楽家のみならず、テオドール・アドルノのような哲学者や、グスタフ・クリムト、エゴン・シーレといった芸術家、さらには多くの文学者とも深い交流を持っていました。
新ウィーン楽派の概要まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 主要作曲家 | A.シェーンベルク、A.ベルク、A.ウェーベルン |
| 音楽的段階 | 拡張調性 → 無調(表現主義) → 十二音技法 |
| 核心的技法 | 12音の等価な扱い、基本列とその変形(逆行・反行など) |
| 後世への影響 | ダルムシュタット夏季現代音楽講習会、セリエリズムの確立 |
| 対比概念 | 第一ウィーン楽派(ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェン) |
文化的な影響と遺産
彼らの試みは音楽の世界に留まらず、20世紀の文化全般に波及しました。トーマス・マンやトーマス・ピンチョンといった作家たちが彼らの音楽に触発され、文学作品に取り入れた例があります。また、現代のポップカルチャーにおいても、ドラマ『ザ・ソプラノズ』の中でウェーベルンの作品(Op.27)が使用されるなど、その前衛的な響きは今なお強い存在感を放っています。
哲学者テオドール・アドルノは、成熟した十二音技法を、未知の未来へ宛てられた「ボトルの中の手紙」に例えました。それは当時の聴衆には理解されにくいものでしたが、結果として音楽の可能性を根本から広げることになったのです。
Frequently Asked Questions
新ウィーン楽派と第一ウィーン楽派は何が違うのですか?
第一ウィーン楽派は、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンらによる古典派音楽の黄金時代を指します。対して新ウィーン楽派は、20世紀初頭にシェーンベルクらが主導した、調性を解体し無調や十二音技法を追求した前衛的なグループです。
十二音技法とは具体的にどのようなルールですか?
半音階の12音すべてを一度ずつ使い切るまで、同じ音を繰り返さないというルールで「音列」を作成し、それを楽曲の基礎とする手法です。これにより、特定の音が主音として強調されることを防ぎ、完全な無調性を実現します。
シェーンベルクは弟子にこの前衛的な手法を強制したのでしょうか?
いいえ。シェーンベルクが執筆した教本などは非常に伝統的で保守的な内容でした。弟子たちが前衛的な道に進んだのは、彼の指導内容よりも、彼自身の創造的な実践と姿勢に影響を受けたためであると考えられています。
この楽派の音楽はその後どのように発展しましたか?
第二次世界大戦後のダルムシュタット夏季現代音楽講習会などを通じて、ウェーベルンの思想が再評価されました。そこから、音高だけでなくリズムや強弱まで体系化する「セリエリズム」へと発展し、ブーレーズやシュトックハウゼンといった作曲家たちに受け継がれました。
References
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