古代エジプトのオキシリンコスで発掘されたアンシャル0162は、新約聖書の成立過程を解明する上で極めて重要な価値を持つギリシャ語写本です。ベルナール・パイン・グレンフェルとアーサー・サリッジ・ハントという二人の先駆的な研究者によって発見されたこの断片は、現在はニューヨークのメトロポリタン美術館に所蔵されています。
主要な事実(Key Facts)
- 発見地:エジプトのオキシリンコス
- 現在の所蔵先:メトロポリタン美術館(ニューヨーク)
- 物理的特徴:1ページ20行、サイズは16cm × 15cm
- テキストの特性:バチカン写本(Codex Vaticanus)に非常に近い内容
- 学術的評価:NA27において最重要級の証拠資料として位置づけられている
写本の物理的特徴と書写の質
この写本は、1ページあたり20行のテキストで構成されており、寸法は縦16cm、横15cmというコンパクトなサイズです。文字の整い方から、当時の専門的な訓練を受けた書記(プロの筆写者)によって作成された可能性が高いと考えられています。
また、本文中にはノミナ・サクラ(Nomina Sacra)と呼ばれる、神聖な名前を短縮して表記する当時の慣習が用いられています。具体的には、「イエス(ΙΗΣ)」、「主(ΙΣ)」、「聖霊(ΠΡΣ)」といった略称が確認されており、当時のキリスト教コミュニティにおける標準的な表記法に従っていたことがわかります。
成立年代を巡る議論
アンシャル0162の正確な成立時期については、専門家の間で議論が続いています。新約聖書研究所(INTF)は、この写本を4世紀のものと定義しています。一方で、研究者のコンフォートは、写本に見られる小文字のオミクロン(omicron)の形状に着目し、4世紀よりもさらに古い3世紀に属するものであると主張しました。
テキストの系統と学術的価値
この写本の最大の特徴は、そのテキストの内容が極めて初期の写本群と密接な関係にある点です。具体的には、パピルス66(P66)やパピルス75(P75)、そして有名なバチカン写本(B)と非常に近い読みを示しています。特に、シナイ写本(Sinaiticus)よりもバチカン写本に近い傾向があることが判明しています。
こうした特性から、『ギリシャ語新約聖書(Novum Testamentum Graece)』の第27版(NA27)では、アンシャル0162を「第一級の整合的な証人」として高く評価しています。特にその古さから、極めて重要な意義を持つパピルスやアンシャル写本の一つとして、特筆すべき重要性が強調されています。
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 初出 | 1908年(The Oxyrhynchus Papyriにて公開) |
| 推定年代 | 3世紀(コンフォート説)または4世紀(INTF説) |
| 親和性の高い写本 | パピルス66、パピルス75、バチカン写本 |
| 書記の属性 | 専門的な書記によるものと推測 |
Frequently Asked Questions
アンシャル0162はどこで発見されましたか?
エジプトのオキシリンコスにおいて、ベルナール・パイン・グレンフェルとアーサー・サリッジ・ハントによって発掘されました。
この写本は現在どこに保管されていますか?
アメリカ合衆国ニューヨーク市にあるメトロポリタン美術館のコレクションに含まれています。
テキストの内容は他の有名な写本と比べてどうですか?
バチカン写本に非常に近く、パピルス66やパピルス75とも高い親和性を持っています。シナイ写本よりもバチカン写本に近いテキストであるとされています。
成立年代についてはどのような見解がありますか?
INTFは4世紀としていますが、文字の形状(小文字のオミクロン)に基づき、3世紀のものだとする説(コンフォート)が存在します。
学術的にどのような評価を受けていますか?
NA27において、その古さと重要性から「第一級の証人」として非常に高く評価されており、新約聖書の校訂において不可欠な資料の一つとされています。