音楽の世界には、心地よい調和だけでなく、あえて激しい衝突や緊張感を生み出す手法が存在します。その代表的なものがトーンクラスターです。これは、音階上で隣接する3つ以上の音を同時に鳴らすことで形成される特殊な和音のことを指します。一般的に西洋音楽では強い不協和音として知られていますが、その大胆な響きは20世紀以降の現代音楽に革命的な影響を与えました。
最も典型的なのは、半音階(クロマチック・スケール)に基づいたクラスターで、ピアノであれば隣り合う鍵盤を同時に叩くことで簡単に作り出せます。しかし、その定義は広く、全音階(ダイアトニック)や五音音階(ペンタトニック)、さらには微小音(マイクロトーン)を用いたバリエーションも存在します。

Key Facts
- 定義: 音階上で隣接する3つ以上の音が同時に鳴る和音。
- 特徴: 西洋音楽の文脈では強い不協和音として認識される。
- 適性: 複数の音を同時に出しやすい鍵盤楽器での演奏が特に一般的。
- 歴史的転換点: 20世紀初頭にレオ・オーンスタインやヘンリー・カウエルらによって体系的に探求された。
- 応用範囲: クラシックのみならず、ラグタイム、フリージャズ、現代の合唱曲まで幅広く利用されている。
トーンクラスターの構造と演奏技法
トーンクラスターの基本は「密集した音の塊」です。例えば、ピアノでド、ド♯、レの3つの鍵盤を同時に押せば、基本的なクロマチック・クラスターとなります。このような音の密集は、単なる和音というよりも「音の壁」のような効果を生み出します。

複雑な和音を1オクターブ以内に凝縮させた場合も、結果としてクラスターのような響きになります。例えば、13度和音を狭い範囲に押し込めることで、激しい不協和音が生まれます。
![A thirteenth chord collapsed into one octave results in a dissonant tone cluster[3]](/images/5f/37/5f37fc10bc00a8f697a0f78e9b909c61a40fa14a0d8cb0ed323b2eec7c8ecfd3.png)
また、倍音列の構造においても、高次倍音になればなるほど隣接する音との間隔が狭まり、自然界にクラスターに近い現象が現れることが知られています。

演奏方法についても工夫が凝らされています。指だけでなく、手のひらや前腕、あるいはフェルトを貼った木の棒などを用いて、広範囲の鍵盤を一度に押さえる技法が用いられます。こうした特殊な記譜法は、作曲家によって独自に開発されてきました。

西洋音楽における歴史的変遷
1900年以前の先駆的な試み
トーンクラスターは20世紀の発明と思われがちですが、実はそれ以前の作品にも断片的に見られます。1673年のハインリヒ・ビバーの作品や、1737年頃のジャン=フェリ・レベルのバレエ音楽『元素(Les Élemens)』では、混沌を表現するためにダイアトニック・クラスターが使用されていました。

バッハの作品においても、特定の箇所で密集した不協和音が現れます。例えば『音楽の捧げもの』や『フランス組曲第5番』の終止部分などで、その片鱗をうかがい知ることができます。



さらに、ドメニコ・スカルラッティはソナタの中で、数小節かけて不協和音を積み上げていくという、当時としては非常に大胆な手法を用いていました。

19世紀に入ると、シャルル=ヴァランタン・アルカンが低音域で激しく叩きつけるようなクラスターを導入し、後の前衛音楽への道筋をつけました。



また、L.M.ゴットシャルクの作品でも、特定のセクションで半音階的に密集した和音が組み込まれています。

20世紀初頭の革新と普及
1900年代に入ると、トーンクラスターは表現の中心的役割を担い始めます。ラグタイムの巨匠スコット・ジョプリンは、出版された楽曲の中でクラスターを用いたシーケンスを導入した最初期の作曲家の一人とされています。


その後、レオ・オーンスタインがこの技法を深く掘り下げ、大衆に広く知らしめました。彼の作品『野蛮人の踊り』などは、ほぼ全編がクラスターで構成されており、当時の聴衆に大きな衝撃を与えました。

同時期に、チャールズ・アイヴズも「グループ・コード」と呼ぶ独自のクラスターを追求していました。彼の『コンコード・ソナタ』では、遠くの教会の鐘の音を再現するために、フェルトを貼った木の棒で鍵盤を叩くという極めて独創的な手法を用いています。
そして、この技法を理論的に確立させたのがヘンリー・カウエルです。彼は単なる効果音としてではなく、音楽的な拡張や変奏のための重要な要素としてクラスターを定義しました。彼の代表作『マナウナンの潮』は、西洋音楽におけるクラスターの地位を決定づけた作品と言えます。

カウエルの影響は、名作曲家ベラ・バルトークにも及びました。バルトークはカウエルに連絡を取り、この技法を自身の作品に取り入れる許可を求めたという逸話が残っています。

現代音楽とジャズへの展開
その後、トーンクラスターはドビュッシーのような印象主義の作曲家から、ストックハウゼンやシュニトケといった現代音楽の巨匠まで、幅広く採用されました。また、オーケストラや合唱曲においても、音の密度を高めるための重要な手段となっています。





さらに、このアプローチは即興演奏の自由度が高いフリージャズの世界にも浸透し、セシル・テイラーなどのミュージシャンによって、感情の爆発や激しいエネルギーを表現する手段として活用されました。

トーンクラスターの概要まとめ
| 種類 | 構成音の間隔 | 主な特徴・効果 |
|---|---|---|
| クロマチック | 半音(Semitone) | 最も一般的で、強い緊張感と不協和音を生む。 |
| ダイアトニック | 全音階(Diatonic) | 特定の調性に沿った密集音。比較的調和がある。 |
| ペンタトニック | 五音音階(Pentatonic) | 民族的な響きや、独特の浮遊感を演出する。 |
| マイクロトナル | 微小音(Microtonal) | 半音よりさらに狭い間隔。極めて前衛的な響き。 |
Frequently Asked Questions
トーンクラスターは単なる「間違い」や「雑音」ではないのですか?
いいえ、現代音楽においてトーンクラスターは意図的に配置された音楽的要素です。ヘンリー・カウエルが説いたように、他の音符と同様に正確な記譜と演奏が求められる、計算された表現技法です。
どのような楽器で演奏できるのでしょうか?
3つ以上の音を同時に出せる楽器であればほぼすべて可能です。特にピアノなどの鍵盤楽器は、隣接する音を同時に押しやすいため、この技法に最も適しています。
なぜ不協和音であるトーンクラスターが使われるのですか?
調和した音だけでは表現できない「混沌」「激しさ」「自然界のノイズ」「精神的な緊張」などを表現するためです。また、音色としての「密度」や「塊」を追求する音響的なアプローチとしても利用されます。
この技法を広めた最も重要な人物は誰ですか?
レオ・オーンスタインがコンサートを通じて大衆に衝撃を与え、ヘンリー・カウエルがそれを理論化し、現代音楽の語彙として定着させたと言えます。
References
- For a discussion of the piece, see Keillor, Elaine (2004-05-10). "Writing for a Market—Canadian Musical Composition Before the First World War". Library and Archives Canada/Bibliothèque et Archives Canada. Retrieved 2011-08-29. The score of Tintamarre and its publication record[] are also available online via Library and Archives Canada/Bibliothèque et Archives Canada. See also Keillor (2000) and "Anger, Humfrey". Encyclopedia of Music in Canada. . Retrieved 2007-08-20. The early performance history of Tintamarre has not been established.
- See Broyles (2004), p. 78, for premiere of these works. The piano music for Ornstein's Sonata for Violin and Piano, Op. 31 (1915; not 1913 as is often erroneously given), also employs tone clusters, though not to the extent of Wild Men's Dance. Three Moods (c. 1914) for solo piano has been said to contain clusters (Pollack [2000], p. 44); perusal online of the published score, however, does not reveal any. Ornstein's solo piano piece Suicide in an Airplane (n.d.), which makes incontrovertible use of tone clusters in one extended passage, is often erroneously dated "1913" or "c. 1913"; in fact, it is undated and there is no record of its existence before 1919 (Anderson [2002]).
- Thomas B. Holmes (1985; 2002: p. 35[]) notes that the song Majority (aka The Masses), written by Ives in 1888 at the age of fourteen, incorporates tone clusters in the piano accompaniment. He correctly describes this as "a rebellious act for a beginning composer". He errs in calling it "probably the first documented use of a tone cluster in a score". Swafford (1998) observes that Ives chose to begin his 114 Songs (publ. 1922) with the work (pp. 227, 271, 325). And he too miscredits Ives with the "invention of the tone cluster" (p. 231). On the other hand, he valuably points to Ives's awareness that "tone clusters...had been there since time immemorial when large groups sang. The mistakes were part of the music" (p. 98).
- Swafford (1998), pp. 251, 252, 472, for descriptions; Sinclair (1999), passim, for proper dating of Scherzo: Over the Pavements, Concord Sonata, and other named pieces: Second String Quartet (1911–13, prem. 1946, publ. 1954); Decoration Day (c. 1912–13, rev. c. 1923–24, prem. 1931, publ. 1962); Fourth of July (c. 1911–13, rev. c. 1931, publ./prem. 1932).
- See Seachrist (2003), p. 215, n. 15, for an example of a claim that the "term was invented by Henry Cowell". Tone cluster had been used with a different meaning since at least 1910 by music theorist and educator (n.d., 111): referring to an example of three-part , "there is some good chord-form at almost every accent, some harmonic tone-cluster towards which the parts unanimously lead." See also his correspondence, "Schoenberg's 'Harmony,'" in The New Music Review and Church Music Review, vol. 14, no. 168 (November 1915), p. 404: "I have regretted that I did not, in revising my 'Material', lay still greater stress upon the accidental tone-clusters such as you illustrate"; "in Ex. 318, No. 5, you will find the Mozart tone-cluster which you give in your Ex. 11."
- For a discussion of the use of tone clusters in film scoring, see Huckvale 1990, pp. 1–35. For descriptions of their role in three individual films, Hosokawa 2004, p. 60n21; for To the Devil a Daughter, Huckvale 2008, pp. 179–181; and, for Close Encounters, Neil Lerner, "Nostalgia, Masculinist Discourse, and Authoritarianism in John Williams' Scores for Star Wars and Close Encounters of the Third Kind," in Off the Planet, pp. 96–107; 105–106.
📸 フォトギャラリー


![A thirteenth chord collapsed into one octave results in a dissonant tone cluster[3]](/images/5f/37/5f37fc10bc00a8f697a0f78e9b909c61a40fa14a0d8cb0ed323b2eec7c8ecfd3.png)





















