物質に力が加わった際、その内部で発生する抵抗力は方向によって性質が異なります。特に、材料の断面に対して平行に作用する力によって生じるストレスを「せん断応力(Shear Stress)」と呼びます。これは、物体を「ずらす」ように作用する力であり、建築構造物の設計から血管内の血流解析まで、幅広い科学・工学分野で極めて重要な概念です。
Key Facts
- 定義:材料の断面に平行に作用する単位面積あたりの力。
- 単位:SI単位系ではパスカル(Pa)が用いられる。
- 基本式:せん断応力 $\tau$ は、作用する力 $F$ を断面積 $A$ で割ることで算出される($\tau = F/A$)。
- 流体への適用:粘性を持つ流体が壁面を流れる際、速度勾配に応じて壁面せん断応力が発生する。
- 構造への影響:梁の内部応力や、土木構造物における地盤崩壊(地滑りなど)の要因となる。
せん断応力の基本概念とメカニズム
応力には大きく分けて、断面に垂直に作用する「垂直応力」と、断面に沿って平行に作用する「せん断応力」の2種類があります。せん断応力は、物体を切り裂く、あるいは層状にずらす力によって発生します。
例えば、直方体の底面を固定し、上面に平行な力を加えると、物体は平行六面体のように変形します。このとき、作用した力 $F$ を上面の面積 $A$ で除した値が平均せん断応力 $\tau$ となります。

この現象を立体的に捉えると、せん断力が加わることで材料内部にストレスが分散し、形状の変化(せん断ひずみ)を引き起こす様子が分かります。

純粋せん断と材料特性
等方性材料において、せん断応力 $\tau$ とせん断ひずみ $\gamma$ の関係は、せん断弾性係数(横弾性係数)$G$ を用いて $\tau = \gamma G$ と表されます。この係数 $G$ は、ヤング率 $E$ とポアソン比 $\nu$ を用いて $G = E / 2(1 + \nu)$ と定義され、材料がどれだけ「ずれ」に耐えられるかを示します。
分野別:せん断応力の具体的な適用例
1. 構造力学におけるせん断
建築や機械設計で用いられる「梁(はり)」では、内部にせん断応力が発生します。これはジュラフスキーの公式(Zhuravskii shear stress formula)として知られ、以下の式で定義されます:$\tau = fQ / Ib$。ここで、$f$ は全せん断力、$Q$ は断面一次モーメント、$I$ は断面二次モーメント、$b$ は幅を指します。
また、航空機の機体などに使われるセミモノコック構造では、軸方向の荷重を担うストリンガーと、せん断流を担うウェブに分けて解析されます。最大せん断応力は、せん断流が最大となる箇所か、あるいは厚みが最小となる箇所で発生します。
2. 流体力学におけるせん断
液体や気体などの流体が固体壁に沿って流れる際、壁面との摩擦によりせん断応力が生じます。流体力学では「滑りなし条件(no-slip condition)」に基づき、壁面直上の流速はゼロであると見なされます。この壁面から流速が回復するまでの領域を境界層と呼びます。
ニュートン流体(粘度が一定の流体)の場合、せん断応力は速度勾配に比例します。この関係は $\tau = \mu (\partial u / \partial y)$ で表され、$\mu$ は動粘度、$u$ は流速、$y$ は壁からの距離を示します。この原理は、動脈内の血流が血管壁に与える影響(動脈硬化のプロセスなど)を解析する際にも応用されています。

3. 衝撃荷重と地盤工学
円柱状の棒に衝撃が加わった際の最大せん断応力は、運動エネルギーの変化量 $U$、せん断弾性係数 $G$、および体積 $V$ を用いて $\tau = 2\sqrt{UG/V}$ と算出されます。
また、土木分野では、ダムや堤防の自重によって下層の土壌にせん断応力がかかり、それが土壌の強度を超えると地滑りのような崩壊を招くことがあります。
せん断応力の測定手法
壁面せん断応力を正確に測定するために、以下のような高度なセンサー技術が開発されています。
- 発散縞せん断応力センサー:2つのスリットを通した光の干渉パターン(発散縞)を利用し、流体中の粒子の高さと速度を計測することで、速度勾配からせん断応力を導き出します。
- マイクロピラーセンサー:柔軟なポリマー(PDMS)製の微小な柱を壁面に設置し、流体による抗力で柱が曲がる角度から間接的にせん断応力を測定します。
- 電気拡散法:マイクロ電極を用いて限界拡散電流状態を作り出し、電極付近の対流拡散方程式を解くことで、壁面せん断速度を算出します。
せん断応力のまとめ
| 項目 | 内容・定義 | 主要な変数/単位 |
|---|---|---|
| 基本定義 | 断面に平行に作用する単位面積あたりの力 | $\tau = F/A$ [Pa] |
| ニュートン流体 | せん断応力が速度勾配に比例する流体 | $\mu$ (動粘度) |
| 梁のせん断 | 内部せん断力による応力(ジュラフスキー公式) | $Q$ (断面一次モーメント) |
| 純粋せん断 | せん断ひずみと弾性係数の積 | $G$ (せん断弾性係数) |
Frequently Asked Questions
せん断応力と垂直応力の違いは何ですか?
垂直応力は材料の断面に対して「垂直」に押し込む、あるいは引っ張る力によって生じますが、せん断応力は断面に対して「平行」にずらす力によって生じます。前者は体積の変化や伸び縮みを引き起こし、後者は形状の歪み(ずれ)を引き起こします。
ニュートン流体と非ニュートン流体の違いは?
ニュートン流体は、せん断応力が速度勾配(せん断速度)に正比例し、粘度が一定である流体です。一方、非ニュートン流体は粘度が一定ではなく、流速やせん断速度によって粘度が変化する特性を持ちます。
壁面せん断応力が医学的に重要な理由は?
特に血管内において、壁面せん断応力は血流が血管壁に与える物理的な刺激となります。この応力の分布や大きさが、動脈硬化などの病変プロセスに影響を与えることが示唆されているため、血流解析において重要視されています。
せん断弾性係数(G)はどうやって決まりますか?
等方性材料の場合、ヤング率(縦弾性係数)$E$ とポアソン比 $\nu$ という2つの材料定数から $G = E / 2(1 + \nu)$ という式で導出されます。これにより、材料固有の「ずれにくさ」が決定されます。
References
- Hibbeler, R.C. (2004). Mechanics of Materials. New Jersey USA: Pearson Education. p. 32. .
- Katritsis, Demosthenes (2007). "Wall Shear Stress: Theoretical Considerations and Methods of Measurement". Progress in Cardiovascular Diseases. 49 (5): 307–329. :10.1016/j.pcad.2006.11.001. 17329179.
- "Strength of Materials". Eformulae.com. Retrieved 24 December 2011.
- Лекция Формула Журавского [Zhuravskii's Formula]. Сопромат Лекции (in Russian). Retrieved 2014-02-26.
- "Flexure of Beams" (PDF). Mechanical Engineering Lectures. .[]
- LLC., Engineers Edge. "Shear Stress Equations and Applications". engineersedge.com. Retrieved 2024-08-29.
- Day, Michael A. (2004), "The no-slip condition of fluid dynamics", Erkenntnis, 33 (3), Springer Netherlands: 285–296, :10.1007/BF00717588, 0165-0106, 55186899.
- Naqwi, A. A.; Reynolds, W. C. (Jan 1987), "Dual cylindrical wave laser-Doppler method for measurement of skin friction in fluid flow", NASA STI/Recon Technical Report N, 87
- {microS Shear Stress Sensor, MSE}
- Große, S.; Schröder, W. (2009), "Two-Dimensional Visualization of Turbulent Wall Shear Stress Using Micropillars", AIAA Journal, 47 (2): 314–321, :2009AIAAJ..47..314G, :10.2514/1.36892
📸 フォトギャラリー


