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粘性応力テンソル流体力学における変形速度と応力の関係

🗓 2026年8月12日

物質の内部で発生する力は、その物質がどのように変形し、あるいはどのくらいの速さで変形しているかによって決まります。連続体力学において、特に変形速度(ひずみ速度)に起因する応力を記述するために用いられるのが「粘性応力テンソル」です。これは、流体や粘弾性体の挙動を数学的にモデル化する上で不可欠な概念です。

Key Facts

  • 粘性応力は、変形の「量」ではなく、変形の「速度(時間変化率)」に依存して発生する。
  • ニュートン流体では、粘性応力とひずみ速度の間に線形な関係が成り立つ。
  • 等方性ニュートン流体の場合、粘性は「せん断粘性」と「バルク粘性」の2つのパラメータで記述できる。
  • 全応力テンソルは、静水圧、弾性応力、および粘性応力の合計として構成される。
  • ニュートン流体では、応力と変形速度の関係が非線形となり、複雑な挙動を示す。

粘性応力と弾性応力の根本的な違い

物質に力が加わった際、内部に生じる機械的応力は大きく分けて2つの成分に分類されます。一つは弾性応力(静的応力)であり、これは物質が元の形状からどれだけ変形したかという「変形量(ひずみ)」に基づいています。弾性応力は、物質を元の安定した状態に戻そうとする復元力として働きます。

対して粘性応力は、変形が時間とともにどれほどの速さで進行しているかという「変形速度(ひずみ速度)」に依存します。これは変形そのものに抵抗し、変化を妨げようとする力として作用します。液体と固体の中間的な性質を持つ「粘弾性体」では、これら両方の成分が組み合わさって全応力を形成します。一方で、完全な流体においては弾性的なせん断応力は保持できず、弾性成分は等方的な静水圧へと集約されます。

粘性応力テンソルの数学的定義

ある点における粘性応力は、その点を通る仮想的な平面の法線ベクトルと、その平面に作用する応力密度の関係を示すテンソルとして表現されます。任意の座標系において、これは3×3の実数行列 $\varepsilon$ として記述されます。

このテンソルを用いることで、微小な表面要素 $dA$ に作用する粘性力 $dF$ を算出することが可能です。具体的には、各座標軸方向の力は、粘性応力テンソルの成分と表面要素の法線方向の積の総和として求められます。物質全体の全応力テンソル $\sigma$ は、以下の要素の和で定義されます。

  • 静水圧 ($p$): 全方向に等しく作用する圧力。
  • 弾性応力テンソル ($\tau$): 変形量に依存する応力。
  • 粘性応力テンソル ($\varepsilon$): 変形速度に依存する応力。

ひずみ速度テンソルとの関係

粘性応力を理解するためには、その原因となるひずみ速度テンソル $E$ を定義する必要があります。これは、流速ベクトル $v$ の空間勾配(ヤコビ行列)の対称部分として定義され、物質が単位時間あたりにどれだけ変形しているかを示します。剛体回転による速度変化は、相対的な距離を変えないため、このテンソルには含まれません。

多くの実用的なケースでは、粘性応力 $\varepsilon$ とひずみ速度 $E$ の間には線形な関係があると見なせます。この関係を繋ぐのが4階の粘性テンソル $\mu$ であり、$\varepsilon = \mu E$ という形式で表されます。この $\mu$ は物質固有の性質であり、ニュートン流体においては、流体の運動状態や応力に関わらず一定の値をとります。

粘性の種類と物理的要因

粘性応力は、隣接する物質粒子間の摩擦や拡散といったマクロな平均速度の差によって生じます。特に等方的なニュートン流体では、粘性は以下の2つの主要な係数に分解されます。

せん断粘性(動粘性)

これは、体積を変化させずに形状のみを変える「せん断変形」に対する抵抗力です。例えば、管内を流れるポアズイユ流れや、平行平板間を流れるクエット流れにおいて、流れを妨げる力として現れます。

バルク粘性(体積粘性)

これは、全方向から均一に圧縮または膨張させる変形に対する抵抗力です。静水圧とは異なり、体積が「変化している間」だけ発生する追加の圧力として作用します。このバルク粘性は、媒体内での圧力波の減衰に寄与しており、水のような非圧縮性流体として扱う場合は無視されることが一般的です。

比較項目 弾性応力 (Elastic Stress) 粘性応力 (Viscous Stress)
依存する要因 変形量(ひずみ) 変形速度(ひずみ速度)
物理的な役割 元の形状への復元 変形速度への抵抗
主な発生源 原子・分子間結合の歪み 粒子間の摩擦・拡散
流体での形態 静水圧(等方的な圧力) せん断粘性・バルク粘性

対称性と回転の影響

通常、粘性応力テンソルは対称行列であると想定されます。しかし、流体粒子自体が回転の自由度を持ち、その内部角運動量が外部の流れと結合している場合、テンソルに非対称成分が現れます。このとき、回転粘性係数というパラメータが必要になります。また、強磁性流体のように外部磁場によってトルクを受ける場合も、応力テンソルは非対称になります。

Frequently Asked Questions

ニュートン流体と非ニュートン流体の違いは何ですか?

粘性応力とひずみ速度の関係が線形(比例関係)であり、粘性係数が一定であるものがニュートン流体(水や空気など)です。一方、この関係が非線形であったり、過去の変形履歴や応力状態によって粘性が変化したりするものが非ニュートン流体です。

バルク粘性はどのような時に重要になりますか?

物質が急速に圧縮または膨張する際、あるいは媒体内を伝播する圧力波(音波など)の減衰を解析する際に重要となります。ただし、水などの液体を非圧縮性としてモデル化する場合は、通常無視されます。

粘性応力テンソルは物質の固有の性質ですか?

いいえ、粘性応力テンソル $\varepsilon$ 自体は、ある瞬間における局所的な力の状態を記述するものであり、物質の性質ではありません。物質固有の性質を示すのは、応力とひずみ速度を結びつける「粘性テンソル $\mu$」や「粘性係数」の方です。

ひずみ速度テンソルに回転成分が含まれないのはなぜですか?

剛体としての回転は、粒子間の相対的な距離を変化させないため、「変形(ひずみ)」とはみなされないからです。回転成分は速度勾配の反対称部分(渦度)として区別され、変形速度テンソルは対称部分のみを抽出して定義されます。

References

  1. De Groot, S. R.; Mazur, P. (1984). Non-Equilibrium Thermodynamics. New York: Dover.  .
  2. Landau, L. D.; Lifshitz, E. M. (1997). Fluid Mechanics. Translated by Sykes, J. B.; Reid, W. H. (2nd ed.). Butterworth Heinemann.  .