宇宙に目を向けると、多くの天体は一定のルールに従って動いているように見えます。しかし、中にはその一般的な流れに逆らって回転したり、軌道を回ったりする「異端児」たちが存在します。天文学では、中心となる天体の回転方向とは反対に動く現象を逆行(Retrograde motion)と呼びます。対して、同じ方向に動くことは順行(Prograde)と呼ばれます。
この方向性を判断する基準となるのは、遠方の固定された星々などの慣性系です。例えば、太陽系の多くの天体は、太陽の北極上空から見て反時計回りに公転していますが、これに反する動きをする天体があるとき、それは「逆行している」と定義されます。

Key Facts
- 逆行の定義:中心天体の自転方向とは反対の方向に公転または自転すること。
- 太陽系の傾向:惑星や準惑星のほとんどは太陽に対して順行軌道を持つ。
- 特異な惑星:金星と天王星は、自転方向が逆行している。
- 衛星の起源:逆行軌道を持つ衛星の多くは、もともと別の場所で形成され、後に惑星に捕獲されたと考えられている。
- 形成の要因:ガス雲の崩壊による角運動量保存が基本だが、星団内での衝突や物質の奪い合いが逆行を生む原因となる。
天体の方向を決定する指標
軌道傾斜角と公転方向
天体が順行か逆行かを判断するには、軌道傾斜角(中心天体の赤道面や基準面に対する軌道面の角度)を確認します。太陽系では地球の公転面(黄道面)が基準となります。
- 0度から90度未満:順行(中心天体の回転と同じ方向)
- ちょうど90度:垂直(順行でも逆行でもない)
- 90度から180度:逆行(中心天体の回転と反対の方向)
自転軸の傾きと自転方向
天体自身の回転方向は、自転軸が公転面に対してどれだけ傾いているか(自転軸傾斜角)で決まります。傾きが90度を超え180度に至る場合、その天体は公転方向とは逆に自転していることになります。
太陽系における逆行の具体例
自転が逆行している惑星
太陽系の8惑星のうち、自転が逆行しているのは金星と天王星です。金星の傾斜角は約177度であり、ほぼ完全に逆向きに回転しています。これは、太陽からの強力な潮汐力と厚い大気による大気潮汐が、もともと順行だった回転を徐々に逆行へと変化させた結果であるという説が有力です。
一方、天王星の傾斜角は約97.77度であり、自転軸がほぼ公転面と平行に寝ているという極めて特異な状態にあります。
逆行する衛星と小天体
多くの天然衛星は順行しますが、海王星の衛星トリトンのように、大きく近い距離にありながら逆行する例もあります。一般的に、逆行する衛星はサイズが小さく、惑星から遠い位置にあります。これらは惑星と共に誕生したのではなく、外部から飛来して捕獲されたと考えられています。

また、小惑星やケンタウルス類、エッジワース・カイパーベルト天体(TNO)の中にも、100度から180度の高い傾斜角を持ち、逆行軌道を描く個体が少数ながら確認されています。
宇宙規模での逆行現象と形成理論
惑星系の誕生と角運動量
通常、銀河や惑星系はガス雲の崩壊に伴い、角運動量保存の法則によってディスク状に形成され、物質は一方向に回転します。しかし、近年の観測では、主星の回転と逆方向に公転する「ホット・ジュピター」などの系外惑星が発見されています。
これは、惑星系が孤立して形成されるのではなく、分子雲を含む星団の中で形成されるためであり、他の雲との衝突や物質の奪い合いによって回転方向が乱された結果だと考えられています。
銀河やブラックホールでの事例
逆行現象は惑星系に留まりません。銀河NGC 7331では、外部からの物質流入により、ディスクの回転方向とは逆に回転するバルジ(中心膨らみ)が存在します。また、中心にある超大質量ブラックホールにおいても、逆方向に回転するケースがあり、それが強力なガスジェットの放出に関与している可能性が指摘されています。
天体運動のまとめ
| 分類 | 順行 (Prograde) | 逆行 (Retrograde) |
|---|---|---|
| 公転方向 | 中心天体の自転と同じ方向 | 中心天体の自転と反対の方向 |
| 自転方向 | 公転方向と同じ方向 | 公転方向と反対の方向 |
| 主な例(太陽系) | 地球、火星、木星など | 金星(自転)、トリトン(公転) |
| 形成要因 | ガス雲の崩壊・集積 | 外部からの捕獲、衝突、潮汐力 |
Frequently Asked Questions
なぜ金星は逆方向に自転しているのですか?
金星は太陽に非常に近いため、強い重力による潮汐力の影響を受けます。また、非常に厚い大気が熱によって駆動される「大気潮汐」を引き起こし、これが逆方向へのトルク(回転力)として働いたため、長い時間をかけて自転方向が逆転したと考えられています。
逆行軌道を持つ衛星はどうやってできたのですか?
ほとんどの逆行衛星は、惑星が形成される過程で一緒に生まれたのではなく、もともと独立して存在していた天体が、惑星の重力に捕らえられた(捕獲された)ことで、偶然に逆向きの軌道に入ったと考えられています。
人工衛星で逆行軌道を使うことはありますか?
地球の人工衛星の多くは順行軌道に配置されます。これは、地球自転の助けを借りることで、軌道投入に必要な推進剤(燃料)を節約できるためです。逆行軌道にするにはより多くのエネルギーが必要になります。
系外惑星で逆行が見つかるのはなぜですか?
星団のような密集した環境では、形成途中の原始惑星系円盤が他の分子雲と衝突したり、物質を奪い合ったりすることがあります。このような激しい相互作用が、主星の回転とは逆向きの公転軌道を作り出す原因となります。
References
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