世界最大の大学出版局であるオックスフォード大学出版局(Oxford University Press, OUP)は、単なる書籍の印刷所ではなく、数世紀にわたり人類の知を体系化し、世界に広めてきた学術機関です。イギリスのオックスフォード大学を母体とするこの出版局は、16世紀に正式な権限を得て以来、宗教書から最先端の科学論文まで、多岐にわたる知識の保存と普及に尽力してきました。
主要な事実(Key Facts)
- 設立: 1586年に正式な印刷権を付与され、世界で2番目に古い大学出版局である。
- 規模: 世界最大の大学出版局であり、約6,000人の従業員を擁する。
- 代表作: 言語学の金字塔である「オックスフォード英語辞典(OED)」を刊行。
- 事業展開: 学術雑誌、書籍、楽譜など幅広い出版物を扱い、世界各地に拠点を展開。
- 体制: オックスフォード大学の傘下にあり、現在はCEOのナイジェル・ポートウッド氏が率いる。
黎明期から基盤構築まで(1480年〜1830年)
オックスフォードでの印刷活動は1480年頃に始まり、当初は聖書や祈祷書、学術的な著作が中心でした。1630年代には、ウィリアム・ロード大司教の尽力により、国王チャールズ1世からあらゆる書籍を印刷できる「大憲章」という強力な権利を獲得します。特に、国王ジェームズ訳聖書の印刷特権は、その後250年間にわたり多大な収益をもたらしました。
1668年にはジョン・フェル氏によって大学初の集中印刷所が設立され、出版体制が整備されました。フェル氏はギリシャ語聖書やコプト語福音書、古典哲学、数学、さらには昆虫学の歴史書まで、極めて広範な出版計画を策定しました。また、1674年から2019年まで途切れることなく発行された「オックスフォード・アルマナック(暦書)」などの実用的な出版物も展開しました。

19世紀に入ると、出版局は物理的な拡張期を迎えます。1825年にウォルトン・ストリートの土地を購入し、1830年にはダニエル・ロバートソンとエドワード・ブローアの設計による新社屋へ移転しました。

近代的な出版社への変革と商業的成長
1830年代以降、OUPは小規模な学術印刷所から、近代的な商業出版社へと脱皮を図ります。1868年に就任した秘書バルトロミュー・プライスは、経営体制の効率化を推進し、安価な初等教育用書籍シリーズである「クラレンドン・プレス」を展開するなど、読者層の拡大に成功しました。
また、1875年にはフリードリヒ・マックス・ミュラーの編集による「東洋の聖典(Sacred Books of the East)」シリーズを開始し、東洋の宗教思想を広く紹介しました。1880年代には、ヘンリー・フロウドが大学出版責任者に就任し、1896年にはニューヨークに初の海外拠点を設立するなど、グローバル展開を加速させました。
この時代の最大のプロジェクトが、1879年に始動した「オックスフォード英語辞典(OED)」です。ジェームズ・マレーらの主導によるこの壮大な事業は、当初の予想を遥かに上回る時間と費用を要しましたが、1928年に初版が完成し、英語圏における言語研究の決定版となりました。


現代の展開と直面した課題
20世紀に入ると、OUPはインド、カナダ、オーストラリア、中国(上海)など世界中に拠点を広げました。特にインド市場は、世界恐慌の時期においても重要な収益源となり、アフリカや東南アジアへの展開の足がかりとなりました。
一方で、その特権的な地位ゆえに議論を呼ぶこともありました。イギリス国内での法人税免除を巡る論争や、インドでの税制上の地位を巡る法廷闘争などが挙げられます。また、近年ではアフリカ子会社による贈賄問題や、中国政府が資金提供したウイグル族のDNAデータに基づく研究論文の掲載を巡る倫理的懸念など、現代的なガバナンスの課題にも直面しています。
2021年には、数百年にわたる印刷の歴史に幕を閉じる形で、印刷部門である「Oxuniprint」を閉鎖しました。これは、物理的な印刷からデジタル出版への時代の転換を象徴する出来事となりました。
クラレンドン・プレスについて
「クラレンドン・プレス」という名称は、1713年に印刷所がブロード・ストリートのクラレンドン・ビルに移転したことに由来します。20世紀初頭には、ロンドン事務所で発行される書籍(Oxford University Press名義)と、オックスフォード本拠地で発行される書籍(Clarendon Press名義)を区別するために使い分けられていました。現在は、特に学術的重要性の高い出版物のためのインプリント(ブランド名)として限定的に使用されています。
OUP 概要まとめ
| 項目 | 詳細 |
|---|---|
| 親組織 | オックスフォード大学 |
| 設立年 | 1586年(正式な印刷権付与) |
| 本社所在地 | イギリス、オックスフォード |
| 主な出版形態 | 学術雑誌、書籍、楽譜 |
| 主要インプリント | Clarendon Press, Blackstone Press |
| 従業員数 | 約6,000人 |
よくある質問(FAQ)
OUPは世界で最も古い大学出版局ですか?
いいえ、世界で2番目に古いです。最も古いのは1534年に設立されたケンブリッジ大学出版局です。
「クラレンドン・プレス」と「オックスフォード大学出版局」の違いは何ですか?
かつては発行拠点(オックスフォードかロンドンか)を区別していましたが、現在は「クラレンドン・プレス」は特に学術的価値の高い著作に使用される特別なブランド名となっています。
オックスフォード英語辞典(OED)の完成にどれくらいの時間がかかりましたか?
1879年にプロジェクトが始まり、初版が完成したのは1928年であり、約50年近い歳月を要しました。
OUPは現在も自社で本を印刷していますか?
いいえ。2021年に印刷部門であるOxuniprintを閉鎖したため、現在は印刷ではなく出版(編集・発行)に特化しています。
OUPはどのような種類の出版物を扱っていますか?
高度な学術書や専門的な学術雑誌(ジャーナル)のほか、教育用の教科書、楽譜など、非常に幅広い分野の出版物を扱っています。
References
- "Secretaries to the Delegates of the Press (1868–present)". Oxford University Press. Retrieved 8 March 2022.
- "A Short History of Oxford University Press". Oxford University Press. Retrieved 29 April 2022.
- Balter, Michael (16 February 1994). "400 Years Later, Oxford Press Thrives". . Retrieved 28 June 2011.
- "About Oxford University Press". OUP Academic. Retrieved 3 August 2018.
- "A Brief History of the Press". Cambridge University Press. Retrieved 3 August 2018.
- Carter p. 137
- Carter, passim
- Sutcliffe p. xiv
- Carter ch. 3
- Barker p. 11
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