Othello and Desdemona by Alexandre-Marie Colin, 1829
← ホームへ戻る

オセロシェイクスピアが描いた悲劇の主人公とその正体

🗓 2026年8月17日

ウィリアム・シェイクスピアの四大悲劇の一つである『オセロ』(1601年〜1604年頃に執筆)の主人公、オセロは、文学史上最も議論を呼ぶキャラクターの一人です。ヴェネツィア共和国の軍を率いる有能な将軍でありながら、嫉妬という感情に支配され、最愛の妻を手に掛けてしまうという衝撃的な運命を辿ります。彼の物語は、単なる個人の悲劇に留まらず、人種、アイデンティティ、そして信頼と裏切りという普遍的なテーマを内包しています。

この物語の原型は、ジョヴァンニ・バッティスタ・ジラルディ・チンティオの著作『ヘカトンミティ』に収録された「ムーア人の大尉」という物語にあるとされています。シェイクスピアはこれを基に、複雑な心理描写を持つオセロという人物を創り上げました。

Othello and Desdemona by Alexandre-Marie Colin, 1829

Key Facts

  • 正体:ヴェネツィア共和国に仕える軍人(将軍)。
  • 出自:アフリカまたはアラビア出身の「ムーア人」。
  • 信仰:元々はイスラム教徒であったが、後にカトリックに改宗。
  • 悲劇の要因:部下イアーゴーの巧妙な嘘により、妻デズデモーナの不貞を信じ込まされたこと。
  • 結末:妻を絞殺した後、真実を知り自ら命を絶つ。

オセロの「人種」を巡る論争

オセロの民族的背景については、研究者の間でも結論が出ていません。作中で彼を指す「ムーア人(Moor)」という言葉は、当時の時代背景において非常に曖昧な定義を持っていました。北アフリカのマグレブ地方の人々を指す場合もあれば、サハラ以南のアフリカ人を指す場合もあり、時には「エチオピア人」や「インド人」といった言葉と混用されていました。

一部の批評家は、作中の「黒い(black)」という表現や、ロデリゴが彼を「厚い唇(thick lips)」と呼ぶステレオタイプな描写から、彼がサハラ以南のアフリカ出身であったと主張しています。一方で、イアーゴーが「バルバリ(Barbary)」という言葉を用いる点から、北アフリカ出身であるとする説もあります。また、1600年にエリザベス1世を訪れたモロッコ大使アブド・エル・オワヘド・ベン・メッサウドが、モデルの一人になったという説も存在します。

Portrait of Abd el-Ouahed ben Messaoud, ambassador of Ahmad al-Mansur of Morocco to Queen Elizabeth I in 1600, sometimes claimed as an inspiration for Othello.[2]

また、レオ・アフリカヌスのような人物がインスピレーションの源となった可能性も指摘されており、オセロの視覚的なイメージは時代や演出によって大きく変遷してきました。

Portrait possibly of Leo Africanus, another possible inspiration for Othello[3]

舞台演出と配役の変遷

初演当時はリチャード・バーベッジが演じたとされており、かつては白人俳優が黒いメイク(ブラックフェイス)を施して演じることが一般的でした。しかし、1825年にアイラ・アルドリッジがロンドンで演じたことで、黒人俳優がこの役を担う先駆けとなりました。

20世紀に入ると、ポール・ロブソンが1930年から1959年にかけてこの役を演じ、特に1943年のマーガレット・ウェブスター演出の舞台は、白人キャストの中で黒人俳優が主演を務めた全米初の事例として歴史に刻まれました。その後、ジェームズ・アール・ジョーンズやローレンス・フィッシュバーンなど、多くの名優がオセロを演じています。

Othello and Iago (1901)

一方で、あえて白人俳優が演じる試みも続いています。ローレンス・オリヴィエやオーソン・ウェルズはメイクを用いて演じましたが、1997年のパトリック・スチュアートによる演出では、あえて「白人のオセロ」とし、周囲を黒人キャストで固めるという「人種反転」の手法が取られました。これにより、異邦人として社会に組み込まれる孤独感というテーマが新たな視点から提示されました。

Paul Robeson and Uta Hagen (1943)

オセロの基本プロフィールまとめ

オセロのキャラクター概要
項目 詳細
職業 ヴェネツィア軍将軍(兵士)
配偶者 デズデモーナ
主な対立人物 イアーゴー(嫉妬に駆られた旗手)
出身地 アフリカまたはアラビア(諸説あり)
宗教的背景 イスラム教からカトリックへ改宗

Frequently Asked Questions

オセロが「ムーア人」と呼ばれているのはどういう意味ですか?

当時のイングランドにおいて「ムーア人」という言葉は、主に北アフリカや中東、あるいはサハラ以南のアフリカ出身の、肌の色の濃い人々を総称して使われていました。そのため、特定の国籍や民族を指すのではなく、広義の「異邦人」や「黒い肌の人」という意味合いが含まれていました。

なぜオセロは妻を殺してしまったのですか?

部下のイアーゴーによる巧妙な心理操作に陥ったためです。イアーゴーは、オセロの部下であるカッシオと妻デズデモーナが不倫関係にあると信じ込ませました。深い愛情ゆえに、裏切られたという絶望と激しい嫉妬に駆られたオセロは、理性を失い彼女を絞殺してしまいました。

この役を演じる俳優に人種的な制限はありますか?

歴史的には黒人俳優が演じることが一般的になっていますが、演出意図によって異なります。白人俳優が演じた例や、人種を反転させた演出、さらにはインドやモロッコなどの異なる文化圏で翻案された作品(映画『Omkara』など)も存在します。

物語の結末はどうなりますか?

妻を殺害した後、イアーゴーの妻エミリアによって、デズデモーナが潔白であったこと、そしてすべてはイアーゴーの策略であったことが明かされます。自らの過ちと取り返しのつかない喪失感に直面したオセロは、自ら命を絶ち、悲劇的な幕切れを迎えます。

References

  1. , also :

📸 フォトギャラリー

Othello and Desdemona by Alexandre-Marie Colin, 1829
Portrait of Abd el-Ouahed ben Messaoud, ambassador of Ahmad al-Mansur of Morocco to Queen Elizabeth I in 1600, sometimes claimed as an inspiration for Othello.[2]
Portrait possibly of Leo Africanus, another possible inspiration for Othello[3]
Othello and Iago (1901)
Paul Robeson and Uta Hagen (1943)